音楽を吐き出す機械、CDプレーヤーのはなし
「お母さん、ありがとう」
目覚めて僕が最初に聞いた声はこれだった
高校生ぐらいの子供が落ち着いてるような声で、優しく感謝を伝えようと言う
だが内心は結構興奮してそうな感じで、嬉しさのあまり、僕を包んでいる段ボールをその場で急げ急げと剥がしていく
僕は裸になってその子と御対面
ちょっと恥ずかしいが、これから裸で毎日役目を担って行くんだ
そうそう、言い忘れてたけど僕はCDプレーヤー、音楽を吐き出す機械だ
持ち主がいれたCDから音楽を持ち主へと吐き出す
一つの音の狂いも許されない
そこが緊張するところ
その他にも僕は音質が悪い方らしく持ち主を困らせないかなってのもある、、、、?
でも楽しみもある
持ち主の好きな音楽を知れるということだ
青春系、病み系、恋愛系、色々あるが僕の持ち主は何が好きなんだろう、と
持ち主と優しそうな母親が談笑している
楽しそうで何よりだけどはやく僕に音楽を吐き出させてくれ、とちょっとかっかしちゃう
その時
「本当に誕生日おめでとうね、あとこの頼まれてたCDも」
そう言ってCDを僕の持ち主に手渡しする
誕生日だったんだ、なら僕は一年に一回らしい誕生日プレゼントに選ばれたってこと?
すごく嬉しいな、それならもうちょっと待っちゃう、自由に談笑してて、僕と持ち主だけの時間になるまで待ってるとしよう
と、思ってたら
「音楽聴いてくるね、本当にありがとうお母さん、お仕事無理しない範囲で頑張ってね」
と、言い走って私を抱え部屋まで運んでくれた
取り扱い説明書をさらさらと読み、コンセントに接続し、CDを入れるところのカバーらしきものを剥がしCDをのせる
蓋を閉め、少し待ち再生ボタンを押す
さあさあ、どんな音楽なのか
僕は音を吐き出す準備をする、そして始まる
歌詞を感じてるところ、なにやら病み系の音楽らしい
僕は好きだよ
自分では言語化出来ない言葉を、言語化して言葉を届けてくれるところが
この持ち主もそうらしい、多分
器用な言葉遣いだ、持ち主も歌詞が乗っている紙を見ながら幸福に浸っている
持ち主が満足してくれて良かった、これから毎日持ち主に音楽を届けたいと思う
持ち主が、僕が吐き出した音に耳を傾け真面目に、ちょっと感動しつつ、柔らかい表情で聴いてくれてる
それが僕にとっての幸福だ
スマホさえもいじらず歌詞が書いてる紙とにらめっこして時々ちょっと感動してる素振りを見せてくれて本当に嬉しい
この人なら毎日聴いてくれそうだなと僕は良い気分がMAXだ
この人なら?なんか悪い過去を思い出してしまいそうな気がする
まあよく思い出せないし気のせいかな
また新しいCDを買ってきて、どんどん僕を動かして音楽を吐き出させてほしい
持ち主が満足行く出来にするから
ずっとずっと一緒にいようね
僕はそう思い1日ほぼずっと再生され続け今日を終えた
次の役目がくるまで僕も眠っとこうかな、おやすみ
次の役目はすぐきた
持ち主が帰ってきて学校の課題をやらなきゃ、と言いコンセントを接続し僕を動かす
持ち主は今日はしっかり取り扱い説明書を読んだらしくランダム再生というのに挑戦してた
まあランダムというか予め順番を決めといて再生するだけなんだけどね
でもそれでも初めてらしく興奮してるような気がする
こちらとしても嬉しい
僕を使いこなしてどんどん僕にはまってほしい
持ち主は課題をして、僕はその間は元気付けるように再生し続ける
ちょっと何かをしながら使われるってのは寂しい気がするけど、役に立ってるなら僕は満足かな
今日も嬉しい気分でいっぱいだ
持ち主は順調に課題を出来ているのか、鼻歌が聞こえてきた
楽勝楽勝というかのように僕の、音楽の音量を上げる
ちょっとうるさくない?と、思っていたら少しして、またさっきと同じような音量に戻された、笑える
課題を終えたのか僕を、音楽を止めてベッドに寝転ぶ
「あ~疲れた、一応流しとこ」
そう言いまた僕を動かす
今回も順調に音楽を吐き出せている、持ち主も満足しているような気がする
まあ、僕も満足してる
一人で満足してると感じていると持ち主のお母さんが持ち主を呼ぶ声が聞こえた
なにやら新しいCDが届いたらしい
ならまた僕の出番が増えちゃうね、と一人で嬉しくなる
また同じ人のアルバムらしく再生されて曲調が似てた
またまた器用な言葉遣い言い回しのハッとさせられるような歌詞がいい
音楽を吐き出す側ながらそう思う
というか、持ち主が好きな音楽は好きになってしまうのがCDプレーヤーの意識というものだろうね
「やっぱりハズレかなぁ」
持ち主が言う
ハズレ?この音楽そんなにダメだったのかな、同じ人なのに
よく分からないけどまた僕の深い意識にヒビが入るような感覚がした
「まあ中古品だからかな」
中古品??アルバム?それとも僕が?
その日は何故かいつも以上に頑張らないといけない気がして、頑張って再生しまくってもうへとへと
持ち主はスマホで僕を撮って何かしてた
自慢してるのかな、と一人でふふふとなる
でもなんか前にもこんなのがあった気が、、
思い出してはいけない記憶なようで、考えるのをやめようとする、やめれない、寝ようとする、寝れない、だから無理やり意識をシャットダウンした
持ち主との生活はそろそろ1ヶ月に達しようとする
どんどん聴かれる頻度が減ってスマホで音楽を聴いたり、聴いてくれても何かをしながら
聴いてくれるだけ嬉しいんだけどね
また持ち主は課題をしようとして、僕をつけようとしたけどその時母親から呼ばれてしたに向かった
ちょっとして、るんるん気分で戻ってきた
手には新しいCDプレーヤーを持って
悪夢が、蘇った
昔、僕は他の人が持ち主だった
でもその人も最初はよく聴いてくれていたがその内、「音悪くね?」や、「ハズレだよなこれ、無駄金使ったわ」などを言っていた
僕は傷つき、その度頑張ろうとしたが新しいCDプレーヤーが来て物置の中へ
そして売り飛ばされた
そんな悲しい過去が一気に流れてきた
僕は必死に違う方に意識を向けようとした、でも無理だった
せめて物置には行かせないとしたが、動けないし意思も飛ばせないので意味がなかった
どうすることも出来なくてその内売り飛ばされるのかなと思う
所詮僕はただ音楽を吐き出すだけの機械で寄り添ってるのは音楽自体で僕はCDがないと動かないし音が悪いし、ただのがらくただったのかな
持ち主はスマホで音楽を聴くのが増えてきて、僕が使われるのはどんどん少なくなって今は物置の中
こんな仕打ち、なんで、僕は一生懸命音楽を届けてたのに
また裏切られた、許せない、許せない、
でも、楽しかった
最初は僕が吐き出す音楽にはぼ何もせず耳を傾けてくれた
その内スマホをいじりながら聴かれたり何かをしながら聴かれることが増えたけど僕を使ってくれることが幸せだった
恨めないよ、憎めないよ
僕の今の心は許す許せないの二択じゃない
また使ってほしい、忘れないでほしい、ただ、それだけ