売られたぬいぐるみのはなし

私は自分のことを可愛いと思っていた
何でって、それは大きなくまのぬいぐるみだから
くまのぬいぐるみは、ぬいぐるみ好きなら誰からも人気で、うさぎやキャラクターのぬいぐるみを差し置いて1位を独占してると思っていた
だから捨てられるはずない、と思っていた
そう、思っていただけなのであった
私を最初に購入した人は最初は毎日抱き締めてくれて、寝る前にはおやすみと声をかけていてくれた
でもそれがその内急に私を殴ったり投げ飛ばしたりイライラをぶつけてくるようになった
私は何がなんだか分からなくて、隅っこに置かれたその場所でしくしくと悲しんでいた
最初は大切にしていてくれたからもうちょっとしたらまた大切にしてくれるかもしれないという淡い期待を胸に日々を耐えていた
でも急に何枚も写真を撮られだして私の持ち主はこう言った
「これが売れたら金になるし、無駄にスペースをとる邪魔なぬいぐるみなんて買い換えてもうちょっと小さな可愛いうさぎのぬいぐるみとか買おうかな」
私はそれを聞いたとき憤慨した
でもその怒りをぶつけることは出来ないし、もう愛されてないんだなと感じた
私は下に見ていたうさぎのぬいぐるみに負け、ただでかい無駄にスペースを取る置き物と思われていたのか
私を愛してくれる人はいるのか
もし売れてしまって、新しい持ち主となる人物に会えたとしてもまた同じ仕打ちをうけるのではないかと怖かった
私はこの人と一緒に人生を乗り越えるぬいぐるみなのだと確信していた節があったのかもしれない
自己肯定感が高いのなんの
本当に、今の私は何者だ?何を持っている?何のために今意識を働かせようとしている?
そういう不安のような醜悪な思考が私の中でぐるぐる渦巻いている
私を欲してくれる人なんているのか
どんどん世界、というより人が怖くなる
無邪気な顔してその裏では何を考えているのか、何を実行しているのかが分からない
今、ここで私を売ろうとしている人間も
もし売れてお金をもらって味を占めたらここにいる他のぬいぐるみたちも捨てられるのか?
いやそれはないか
私より先にあったくまのぬいぐるみはずっと可愛がってるのに、私は途中からぞんざいに扱われていた
私だけだ、運がなかったのか何が悪かったのか、分からないし理解することも今の精神状態じゃ出来ない
私は売られるのだ
売られて、どこのどいつかも分からないやつに私はどう接されるんだろう
どうせまた捨てられる
私には魅力がないのだろう
人を引き付け、辛いときに抱き締めたくなるような、そんな魅力が
もう怒りを通り越して悲しい感情が渦巻く
これで売れなかったら捨てられるのか
新しい持ち主に微かな期待、可愛がってくれるなどの期待を抱けるのか
私にはもう分からない
はやく売れてほしい
この人と同じ部屋にいるだけでもう限界だ
私のことをぞんざいに扱わないで
もっと愛して
悲しいよ、愛して
言葉を発せられない私はここで、隅でうずくまっていることしかできない
これほど悲しいことはあるのか
もう、疲れたから一旦シャットダウンしよう
おやすみ

目が覚めたときはでっかな袋の中におり、それを開封しようとしている音だ
もう、売られたのか
そして今開けようとしているのは私の新しい持ち主?
幼い女の子の声が聞こえる
袋が開き、私が注目を集め幼い女の子とその母親らしき人と、父親らしき人たちに見つめられる
「やったー!まま!ぱぱ!ありがとう」
可愛らしい声で女の子が言う
そして父親は言った
「喜んでくれてよかった、改めて小学校入学おめでとう」
母親も言う
「おめでとう、沢山可愛がってあげてね」
なにやら暖かい雰囲気を感じる
でもどうせ少し経ったら愛されなくなって、また売られるんだという思考が出てくる
考えたくないのにどんどん出てきてしまって苦しい
また同じ想いをするのは嫌なんだ、捨ててくれと願う
まあそんなことは届くわけもなく、少女に抱き締められる
新しい持ち主、新しい環境、暖かい家庭、期待してしまうけどどうせ意味がないんだ
私を欲してくれる人なんて日数がたてばたつほど居なくなっていく
期待するだけ無駄
期待するだけ無駄、なんだ

その日はベットの幅がないからと少女に言われ
「ごめんね、わたしがままぱぱと眠らなくていいようになるまでここに居てね」
懐かしさを感じる
私を最初に手にした人は、最初は一緒に眠ってくれたが次の日からは部屋のぬいぐるみが置かれてるスペースに置かれるようになった
そしてその内、部屋の隅に追いやられ売られた
また同じことを辿るのじゃないかと
また酷い仕打ちを受けるのではないかと
怖くて、不安でいっぱいのまま少女と父親と母親の談笑が少しの間聞こえ続け、母親がいうおやすみという言葉を合図に皆も私も眠ったのであった

朝は抱き締められた感触で起きた
少女が私を行ってくるね、と抱き締めてきたのだ
思わずほっこりするが、期待なんてしたらダメだ、と自分の感情を見て見ぬふりをし、少女が抱き締め終わるのを待った
少女と母親は小学校の入学式とやらに行くようだ
なにやら大事な行事らしい
私を連れていこうと少女は行ったがでかすぎて運べないし邪魔になると母親はいう
その通りだ
私は邪魔な存在だから連れていかない方がいい
少女は少し駄々をこね、無理だと悟ったのか私を再度抱き締めて出て行った
家には誰もいなく暇になるなと次、少女が帰ってきて私に触れるまでまた眠ったのであった

少女は帰ってきて私に飛び込んだ
そこで目が覚める
母親は危ないよと言ったが内心嬉しそうだった
自分があげたプレゼントが使われれば嬉しいのはそりゃそうかとなる
少女は今日あったことを順に話してくれた
入学式の門での写真撮影がちょっと恥ずかしかったこと、入学式が退屈だったこと、帰る時に母親がジュースを自販機で買ってくれたこと
少女は嬉しそうだった
私は今、愛されているのか?
でもその内、どうせ売られるよとトラウマが疼く
愛されているのは理解できた
でもそれは今だけという思考が本当に強く出ていて、私は辛くなって、でも口もないから吐き出すことも出来なくて、動けないし何も出来ないし辛さを共有することも出来ないしで限界になっていた
でも少女がずっとその間も抱き締めてくれていて私は少し信じるということを考えてみようかなとなったのだった

少女は母親とおままごとをしている
私を父親役に仕立て上げ、随分嬉しそうだった
おままごとの内容は至って単純だがこれを誰とやるかが大切なんだろうなと思う
私と一緒に遊んで楽しいなら嬉しい
どうか、私を見捨てないでおくれよと一人自嘲気味に思考する
私は無駄にスペースを取る、くまということしか取り柄のないぬいぐるみだから
顔も対して可愛くないんだろうし、良いところなんてないのにこの少女は私を必要としていてくれてる
嬉しい、でも、でも

(この後書こうか迷ったんですが、なるべく短く纏めたいのでカット✂です)

月日は流れ、少女は中学生になったようだ
少女は自分一人だけの部屋をゲットし、私をベッドに置いて毎日一緒に寝てくれている
窮屈なはずなのに、嫌な顔をしたり、殴ったり、投げ飛ばしたりせずに抱き締めて寝てくれている
私はこの少女、いや持ち主を信じることが出来るようになっていた
世界は広いし、人間は何を考えているのか分からないし、嫌なことをしてくるやつはいくらでもいるけど、少数でも信じられる人間が出来たら思考にも余裕が出きるし辛いことが起こると抱き締めてもらって私はうまくやっているよ
君はどうだい?

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