【小説】歌が思い出に染み込んでしまう前に
砂川には物凄く大切な人がいた
好き、という恋愛的な感情や、家族としての大切な人ではない
ずっとコミュニケーションしていたい、関わっていたい、切り取られた生活を見ていきたいと思っていた人という感じだ
その人、いや彼女と呼ぼう、彼女とはSNS繋がりであった
相手も砂川のことを大切にしていて、その人がアカウントを消して転生しても、すぐ砂川のもとに帰ってきてくれ少し、申し訳なさそうな感じをしていた
でも砂川にとってそれは些細なことだった
また帰ってきてくれればそれでいい、生きてここにいてくれればそれでいい、と感じていた
毎回消える度に困ってはいたが、それより帰ってきてくれた時の嬉しさが勝ってしまって、困っていたことなんてどうでもよくなってしまう
それほど彼女のことが大切だった
それだけ彼女のことを愛していた
勿論、恋愛的な意味じゃないが
自分がそのSNSを開くと毎回そこに、自分が寝てる間に何回も投稿した後があり昼、起きてそれを眺めるのが一種の日常だと感じていたのかもしれない
でもそんな日常は今はない
彼女がそのSNSから姿を消してしまったからだ
消える間際には投稿がもうされなくなっており、飽きたのか、それともまた嫌な人間に捕まったのか、真相は分からないが、砂川あることをしてしまい、彼女は消えた、そして半年以上たった今でも後悔をしている
たかがネットの繋がりじゃないかと感じる方はいるだろう
それでも、それでも、砂川にとって初めて、無気力にやっていたネットで人の暖かさを感じさせてくれた人だったからだ
こういうことを感じた時、彼女がおすすめしていた音楽を決まって聴く
歌は、音楽には、思い出が染み込む
その時、どんな感じで、何をしながら聴いていたのか
断片的に歌が、脳内で思い出を呼び起こしている
思い出したくない記憶も歌が呼び起こしたりも、あったりする
それだけ歌は日常に溶け込み、記憶に絡まるのだ
決まって聴く曲というのはもう解散されたバンドの曲だ
砂川がそれを聴くのは、彼女がおすすめしていた曲のなかで、一番好みだったからだろう
そして、その歌が少しだけ彼女を表しているようだったからのも、あるかもしれない
そんな大好きだった、大切だった彼女は今どこで何をしているのだろうか
彼女は精神が不安定気味だったのでもうこの世界から消えているかもしれない
でもまだ生きていて、また帰ってきてくれたのなら、心から歓迎すると砂川は思っている
そんな、大切だった彼女とのやり取りと、その頃の砂川の日常を私と一緒に見ていこう
砂川が彼女と出会ったのはあるSNSだった
もともとツピッターというSNSしかしてなかったのだが、ミスピーというSNSに手を出してみた
アカウントを作ったばかりでフォロワーがいないので挨拶だけをし、少しのフォロワーを獲得しそのフォロワーの中から、関わりたいと思う人にリアクションを色んな投稿に押す
そして相手が自分の投稿を見て、関わってもいいと思ったのならフォローが来る
そして繋がる、砂川はこれをしていた
その頃だ、彼女と出会えたのは
最初はフォローが来て、嬉しくてこれからされてる全部の投稿にリアクションを押していたら相手からもリアクションが来るようになっていた
そこから、この飲み物おすすめだよとか、この曲おすすめだよ、と言っていたら彼女も自分の好きな飲み物と好きな曲を投稿していた
そこから絆が少し深まったように思える
色んな投稿をするなかでも、砂川が得意なことを共感を誘うことだ
ツピッターでは400人ほどのフォロワーと繋がれ、平均のいいね数は90を越えていた
ミスピーは数少ない人としか交流してないので1個や2個ぐらいしか貰えないが、それでも嬉しかったようだった
そして少し話は戻るが、砂川もまた不安定な人間である
鬱と強迫性障害と、主治医に言われ調子が崩れたりがあるせいで入退院を繰り返していた
だから精神が不安定気味の時はツピッターやミスピーに投稿するのだが、ツピッターは精神が不安定同士の人間と繋がってたので、ツイートするのにも気を遣っていた
だが、ミスピーはフォロワーも少なく投稿に鍵をつけていたのでフォロワーしか見えないようになっていた
なので遠慮なく吐き出したいことを投稿していたのだが、その投稿にもほぼ全てにリアクションを押してくれていた
でも自分が連続的に投稿するときに遠慮気味になって最後に、投稿しすぎてすみません、ちょっと控えますだけ言い、アプリを落とした
そして少し経ち、またミスピーを開くと彼女からメッセージが来ていた
内容は何だ?と砂川はメッセージに視線を向ける
(大丈夫だよ、気にしないでどんどん投稿してね、誰も迷惑だなんて思わないから)と書いていたのだ
砂川は目頭が熱くなって感謝を伝えた
その頃からだろうか、砂川がフォロワーのなかで、その人を特別視するようになったのは
次第にリアクションだけではなく、その人からの共感まで欲しくなって色んなことを言ってみたりする
[やれば出来る子って結構難しい立ち位置だと思う]、や[劣等感を感じて生きるのはつらいし一生この気持ちを抱えて生きていってしまうんだろうな]、や[何しても現実逃避にしかならず、少し薄まるだけで次第にまたやってくる]など思い付いたらどんどん投稿していった
得意だった、こういうのをするのは
彼女は共感のリアクションをしてくれて少し励ますような言葉も送ってくれた
砂川はますます彼女のことが気になり、大切な人となっていた
そして数日後、その日は精神科の診察日だった
朝に起きて[おはよう]と[今日は病院なので行ってきます]と投稿をした
そしてすぐ、リアクションがきた
『おはよう、気を付けて、いってらっしゃい』とリアクションしてくれたのだ
いつもは寝てそうな時間帯だったので珍しくて、嬉しくて、頑張って病院に行った
その頃はカウンセリングも受けていて、カウンセラーの人と診察日は診察前に30分ぐらい会話をしていた
でもそのカウンセリングも砂川は次第に面倒臭くなって、意味がないのでは?と思うようになり、その日でカウンセリングは終わりとした
診察が終わったら[病院終わった]と投稿する
今は寝てるのか、リアクションは少し経ってもこなかった
お腹が空いていた砂川は売店でメニメロンパンを買ってもらったようだ
音楽を聴きながら薬を待ちつつ車のなかで食べる
それを砂川は、その時それを幸福と捉えられなかった
ただ母親に買ってもらい、車で一緒に向かってくれるのは、僕を生んでこうなったんだし当たり前でしょと感じていた
だがそれは合っている
生まなければこんな人間は生まれなかったのだし、一時の快楽にまた溺れなければ、次男である砂川が生まれるはずはなかった
でもそれは仕方がないことだ
そんな未来なんて見えるわけ無いし、想像しようはあるかもしれないが溺れた状態でそこまで考えるのは不可能に近いだろう
まあそんな話は置いといて、薬が出来て母親が帰ってくる
そして家に帰宅中、彼女からリアクションがきた
『お疲れ様』
砂川はありがとう..と思い、歌を聴きながら帰宅中の暇を潰すのであった
またある時、砂川はコンビニに果肉入りのいちごオレを買いに行っていた
最近お気に入りのジュースだ
砂川はいちごオレは元々好きで果肉入りとなると少し高くても買ってしまう
それを投稿すると、少し経って彼女はこのいちごオレも美味しいよと投稿していた
それに対し砂川は、今度買ってみるねと言い果肉入りのいちごオレを飲んで最近お気に入りの歌を聴くのだった
その最近お気に入りのシンガーソングライターの歌は本当に砂川の好みにぴったし合ってた
ロックバンドも好きなのだが、この人のは一線を画すほど好みだった
穏やかな曲調でちょっとお洒落な言い回しで日常を綴る
そんな歌だ
その人のお陰もあってまずまずまで回復したってのもあるかもしれない
いちごオレを飲み終わったらゲームをした
その頃砂川はスピラトゥーンというゲームにハマっている
今日も義務のようにしていた、でも段々イラついてくる
ストレスをゲームで解消するつもりが、ゲームでストレスがたまっていっていた
このままではいけないと思いつつ月日が経つ、そして砂川はそのゲームに飽きたということにして離れたのだった
砂川は音楽を聴くのが、その時一番の趣味だった
動画配信サイトで調べたり音楽ストリーミングサービスで探したりなどをしていた
そして彼女にこの曲良かったよってバンドのを伝える
そしたら[ロックだ..]と投稿していた
砂川はちょっとその反応が面白かったようでくすくすと笑っていた
この頃ぐらいからツピッターからは距離を置いていた
毎日400人近いツピートにいいねを押すのが面倒臭いしつらいしで通知を切った
そして80人ぐらいに絞って転生した
転生とは今使ってるアカウントを消して(消さない場合もある)別のに変える、ということだ
そのアカウントは病み垢系列ではあるものの、日常のツイートもちょくちょくしていた
砂川は、自分をさらけ出す場所がほしかったのかもしれない
でもツピッターからまた離れようかと悩んでいた
ミスピーにそれを投稿すると、彼女からどんな反応?っていうリアクションがきた
他のフォロワーからはみんなここにいると来て決心はついた、と砂川はツピッターをやめた
その頃、砂川は雨の日に散歩をするのにハマってた
最初出歩いたときは運良くタヒねたらな、とか思っていたようだけど雨の日の散歩が思ったより楽しかったらしい
音楽を聴きながら
誰もいなくて、静かで、暗くて、雨の落ち着く、地面に落ちた音が心地よくて、砂川は雨の日は結構な頻度で出歩いてた
近くの自販機の場所までいって、甘いカフェオレやジュースを買う、これが雨の日ルーティンになっていた100円ぐらいで、まあまあなサイズの缶のカフェオレが美味しかったのをずっと覚えていた
120円ほどのジンジャーエールの缶とかも美味しかったらしい
その時もずっと音楽を聴いていた
好きな歌のプレイリストなんて作ったりしてずっと聴いていた
前回言った、シンガーソングライターの歌は本当に好きで、長い時で1日5時間ほどスマホで流していた
こんな感じに音楽を聴きながら、ピチャピチャと、足音を鳴らしながら家の前を徘徊したりした
鼻歌を歌うほどの気力はなかったのであくまで聴くだけだが
それでも十分楽しそうだった
またその頃は珈琲やお茶にもハマっていた
豆を買い、挽いていっぱい入れて氷も入れてアイスで飲む
お茶はホットだが玉露や、アールグレイ、ニルギリブロークンのミルクティーなどが好きだった
珈琲は豆ごとに作って味わったり、時には混ぜて飲んだりしていた
カフェオレも勿論好きだ
その頃、一番欲しかったのはエスプレッソマシンだがお金がないのでリタイア
あぁ悲しそう
また月日は経ち彼女はもうひとつアカウントを作った
同じミスピーだが別のサーバーの
そのアカウントにフォローされたのだが、自分より少し前にフォローされた人がいて少し砂川は嫉妬している
でも繋がれるならいいや、どうでもいいと思うようにした
そのサーバーは可愛いリアクションが多くて色んなリアクションをしてくれて砂川は大変嬉しい気分に満ちていた
だが1ヶ月もしないうちに、別のサーバーのアカウントは消していた
悲しいけど繋がれてるならまだいいやと、話を聞くなどはせずじっと眺めていた
そして砂川は、現実世界の人間関係でダルいことになっていた
言いがかりをつけられ一方的に攻撃され、辛くて寝るための薬をいっぱい飲んで救急車に運ばれた
窓は割れ、椅子は壊れ、飲み物が散らかって、ゴミ箱も倒れ、悲惨な状況だった
その頃、それを招いたやつはそんなこと知らずにめちゃくちゃな言いがかりで僕を攻めていたようだった
入院させられて何日かはなにも無しで過ごしたのだが、辛くて、泣きわめいてスマホが使える大部屋に移動させてもらう
そして一週間ほどで退院出来た
砂川は入院する前から毎日鬱で泣いていて、入院して抗うつ剤を処方されて気持ちが楽になった
そこから寝れなくなったりしてリフレックスを処方されて、一週間ごとに増やして寝れるようになり精神も安定してきたのであった(中途覚醒はまだまだ健在のようだが)
中途覚醒はあるがそれにより嬉しいことが起きていた
彼女も寝れないようで、朝4時とかにもリアクションを送ってきてくれていた
だから今から紅茶いれるね、珈琲いれるねと投稿したら美味しそうとか色々送ってきてくれる
それが嬉しかった
砂川は、それも精神安定の薬だったのだなと一人居なくなった後、感じていたのであった
砂川は強迫性障害を持っている
それに近い醜形恐怖らしいのも覚えていた
自分の顔のここ変じゃない?絶対変だおかしい、不細工、鏡みたくない、でも見ないといけない気がする、とつらいことが爆発して、ミスピーに書き込んだら『ぎゅっ』というリアクションが送られてきて、泣いてしまった
この人だけが暖かさをくれていたのに気づいたんだ
ありがとうとは投稿しなかったが、響いていたよと居なくなった今ぽつんと言った
そして月日はまた流れ、転生しを繰り返して最後のアカウント、彼女は投稿しなくなった
原因は分からないけど前に言ってた繋がりたくない人と繋がってしまったとかが原因なのか、それとも単純に飽きてしまったのか
今思うと前者が近いと思う
それなのに砂川はメンションして、また投稿して欲しいですと言ってしまった
それが間違いだった
それが彼女を追い詰めてしまったのか、数日経ちアカウント消えていたのを目の当たりにした
悲しくてそれから半年以上、前の彼女のアカウントと繋がってた人たちのアカウントを何回も、何回も、思い出したら確認していたけどずっと見つからず今になる
また自分で投稿しよう気になるまで待っとけば良かったのだ
メンションがダメだったのかもしれない、それとも自分が繋がりたくない人間認定されて、また別の場所で知らない人たちとやり取りしているのか
砂川は想像するだけでつらくなった
そして、ずっと帰ってこないのに、帰ってくるわけ無いのに帰りを待って、泣いて、自分から事前に切り離しとけば良かったのかな、と後悔と絶望の狭間で立ち尽くすのであった
歌が思い出に染み込む前に