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「フォロワーの影」5

第五章: 新たな自分の探求


真琴は、これまで築き上げてきた「仮面」を外すことで感じた解放感と、それによって失ったフォロワーや批判的な声との間で揺れ動いていた。しかし、佐藤との再会や、あの謎のフォロワーからの励ましの言葉は、彼にとって新たな道を示す光だった。

彼は、SNSをただフォロワーを増やすためのツールとしてではなく、自分自身を表現する場所として再定義しようと考え始めていた。これまでは完璧な自分を演じていたが、これからはもっと自然体で、自分の内面や本音を伝える場にしたいと思ったのだ。

ある日、真琴は自宅のリビングでノートを開き、頭の中を整理することにした。彼がこれまで抱えていた葛藤や、不安、そして今後の目標を全て書き出してみる。ペンを走らせるたびに、心の中の霧が少しずつ晴れていくような感覚があった。

「僕はどうしてSNSを始めたんだろう?」

それは真琴が自分に問いかけた最初の質問だった。最初は、ただ単純に写真をシェアする楽しさから始めたSNS。しかし、いつの間にか他人からの評価やフォロワー数にとらわれ、自分を見失っていたことに気づく。

「人に認められるために、僕は生きているのだろうか?」

次に浮かんできたのは、他人の評価に対して自分がどれだけ依存していたかという事実だった。SNS上での成功は、確かに一時的な満足感を与えてくれたが、それが持続することはなかった。仮面をかぶり続けることに疲れ果てた今、真琴は新しい道を探し始めていた。

その夜、真琴は自分のフォロワーに向けて、再び投稿することを決めた。しかし、今回は今までのような華やかな写真ではなく、手書きのメッセージを添えたシンプルな投稿だった。

「僕はこれまで、完璧な自分を見せることにこだわってきました。でも、それは僕が本当に感じていることではありませんでした。今後は、もっと自然体の自分を皆さんに見せていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。」

このメッセージを投稿する瞬間、真琴は緊張したが、同時に心の中に少しの安堵を感じた。彼は、今までのように「仮面」をかぶって生きるのではなく、本来の自分を見せる決意を固めたのだ。

翌日、真琴は目覚めると、またしてもスマホを手に取った。通知が鳴り続けている。彼は覚悟を決めて画面を開いた。

「素直に自分の気持ちを伝えてくれてありがとう。」
「今まで見てきた真琴さんとは少し違うけど、これからも応援しています!」
「自分らしく生きるのって難しいけど、あなたの決断は素晴らしいと思います。」

驚くことに、フォロワーたちの反応は予想以上に温かいものだった。もちろん、一部のフォロワーは離れてしまったが、それ以上に彼を理解し、応援してくれる声が増えていた。

「やっぱり、本当の自分を見せてよかったんだ。」真琴は心の中でそう感じた。

しかし、その中で一つだけ異様なコメントがあった。

「お前は結局、誰かの期待に応えようとしてるだけだろう?」

そのコメントを読んだ瞬間、真琴の心は再び揺れ動いた。確かに、フォロワーたちに対して誠実な自分を見せたいと思っていたが、それもまた、彼らの期待に応えたいという気持ちがどこかにあったのかもしれない。

「本当の自分とは何だろう?」
「誰のために僕は生きているんだろう?」

その疑問が、再び真琴の心に深く根を下ろした。

数日後、真琴は再び佐藤と会い、最近の出来事について話した。彼が手書きのメッセージを投稿し、フォロワーからの反応に対して感じたこと、そしてその中で抱いた新たな疑念について、全てを打ち明けた。

佐藤はしばらく黙って真琴の話を聞いた後、静かにこう言った。

「人の期待に応えること自体は悪いことじゃないと思う。でも、その期待が自分の本当の気持ちと一致しているかどうかが大事なんじゃないかな。」

真琴はその言葉を聞いて、はっとした。彼は今まで、自分が他人の期待に応えているだけだと思っていたが、それが自分自身の望みと一致しているかどうかを考えたことはなかった。

「確かに、僕は他人に認められたいって気持ちがあった。でも、それ以上に、自分のことをちゃんと知ってほしいって思ってたんだ。」

その瞬間、真琴は自分が進むべき道が少しだけ明確になった気がした。SNSを通じて、他人に自分を見せることは、単にフォロワーを増やすためではなく、自分自身の本当の姿を知ってもらうための手段なのだ。

その日、真琴は再び投稿することを決めた。今回の投稿は、自分自身との対話をテーマにしたものであり、これまでのフォロワーたちとのやり取りを振り返りながら、自分の中での葛藤と成長を素直に書き綴った。

「人に見せる自分は、いつも完璧である必要はないんだ。僕たちは皆、不完全な存在であり、その不完全さこそが本当の美しさだと感じています。これからも、僕は僕自身であることを大切にしながら、皆さんと繋がっていきたいと思います。」

この投稿を終えた後、真琴は深い呼吸をし、ゆっくりと目を閉じた。彼の心の中には、これまで感じたことのない穏やかな静けさが広がっていた。

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