令和5年(2023年)入管法改正附帯決議

改正点

令和5年入管法改正は、1. 難民に準じて保護すべき者に関する規定(補完的保護)の整備、2. 令和5年度在留特別許可の申請手続の創設、3. 収容に代わる監理措置の創設、4. 難民認定手続中の送還停止効の例外規定の創設、5. 罰則付き退去命令制度の創設を内容とする。(入管庁:「改正法の概要(PDF)

附帯決議(令和5年6月8日参議院法務委員会:PDF

政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。

一 紛争避難民のみならず、国籍国等に帰国した場合に生命の恣意的な剥奪、拷問等を受けるおそれがある者や残虐な取扱い若しくは刑罰を受けるおそれがある者、又は強制失踪のおそれがある者など、真に保護を必要とする者を確実に保護できるように努めること。
二 難民等の認定申請を行った外国人に対し質問をする際の手続の透明性・公平性を高める措置について検討を加え、十分な配慮を行うこと。
三 難民審査請求における口頭意見陳述の適正な活用を進めるとともに、難民認定に関連する知識等を十分に考慮した上で、難民審査参与員の任命を行うこと。
四 送還停止効の例外規定の適用状況について、この法律の施行後五年以内を目途として必要な見直しを検討し、その結果に基づき必要な措置を講ずること。
五 送還停止効の例外規定を適用して送還を実施する場合であっても、第五十三条第三項に違反する送還を行うことがないよう、送還先国の情勢に関する情報、専門的知識等を十分に踏まえること。
六 「難民の認定等を適正に行うための措置」の実施に当たっては、令和三年七月に国連難民高等弁務官事務所との間で締結した協力覚書に基づき適切な措置をとること。
七 難民の認定等を迅速かつ適切に行う当たって必要な予算の確保及び人的体制の拡充を図るとともに、難民調査官、難民審査参与員など当該認定等に関与する者に対して、必要な研修を行うこと。また、研修の成果が実際の難民等の認定実務に活かされるよう、研修の内容および手法の改良に継続的に取り組むこと。
八 難民該当性判断の手引のみでなく、事実認定の手法を含めたより包括的な研修を実施すること。さらに、実際の難民認定実務における難民該当性判断の手引の運用状況を踏まえつつ、関係機関や有識者等の協力を得て、同手引きの定期的な見直し・更新を行い、難民該当性に関する規範的要素の更なる明確化を図ること。
九 国連難民高等弁務官事務所との協力覚書のもと、難民調査官の調査の在り方に関するケース・スタディの取組をより一層強化し、難民認定制度の質の向上に努めること。
十 最新かつ関連性及び信頼性のある出身国情報の収集を行う体制を整え、とりわけ専門的な調査及び分析に必要な予算及び人員を十分に確保すること。日本における難民認定申請者の主な出身国や申立て内容に関する出身国情報を取りまとめて、業務に支障のない範囲内で公表するとともに、難民不認定処分を受けた者が的確に不認定の理由を把握できるよう、その者に対する情報開示の在り方について検討すること。
十一 監理措置制度を適正に活用し、収容が不必要に長期にわたらないようを配慮すること。
十二 管理措置・仮放免制度の運用に当たっては、監理人と被監理者の信頼関係及び関係者のプライバシーを尊重するとともに、監理人に過度な負担とならないよう配慮すること。
十三 健康上の理由による仮放免請求の判断の際には、医師の意見を聴くなどして健康状態に十分な配慮を行うこと。
十四 在留特別許可のガイドラインの策定に当たっては、子どもの利益や家族の結合、日本人又は特別永住者との婚姻関係や無国籍性への十分な配慮を行うこと。
十五 「外国人との共生社会の実現」を推進するため、出入国在留管理庁の予算・組織・体制の在り方について検討すること。

附帯決議を受けた対応

・在留特別許可のガイドライン改定(令和6年(2024年)6月10日運用開始)

在留特別許可に係るガイドライン(入管庁)
第1 ガイドラインの位置付け等
 1  改正法における在留特別許可に係る規定について
 令和5年入管法等改正法(以下 「改正法」といいます。)により、在留特別許可の申請手続が創設され、その考慮事情が法律上明示されました。
 改正法により、法務大臣は、外国人が退去強制対象者に該当する場合であっても、(1)永住許可を受けているとき、(2)かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき、(3)人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき、(4)難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けているとき、(5)その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるときは、当該外国人からの申請により又は職権で、当該外国人の在留を特別に許可することができることとされました(出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」といいます。)第50条第1項)。
 ただし、当該外国人が、無期若しくは一年を超える拘禁刑(実刑)に処せられるなど一定の前科を有する者又は一定の退去強制事由に該当する者である場合は、在留特別許可をしないことが人道上の配慮に欠けると認められる「特別の事情」(注1)がない限り、在留特別許可はされません(同条第1項ただし書)。
 そして、在留特別許可の許否判断に当たっては、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実及び人道上の配慮の必要性を考慮するほか、内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情を考慮することが明示されました(同条第5項)。
 
(中略)
 3 ガイドラインの位置付けについて
 出入国在留管理庁は、在留特別許可の判断の透明性を高めるため、在留特別許可に係るガイドラインを策定・改定し、考慮する事項を例示的に示してきたところです。
 今般、改正法の施行により、前記1のとおり、申請手続の創設に併せて考慮事情を法律で明確に示し、当該各考慮事情について当事者に十分に主張し得る機会を保障することとしたことに併せ、在留特別許可に係るガイドラインも改定し、当該各考慮事情の評価に関する考え方を示すこととしました。
 本改定は、在留特別許可に関する従来の判断の在り方を変えるものではありませんが、特に、我が国に不法に在留している期間が長いことについては、出入国在留管理秩序を侵害しているという観点から消極的に評価されることを明確にしました。他方で、本邦で家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性を積極的に評価すること、また、その間の生活の中で構築された日本人の地域社会(学校、自治会等。以下「地域社会」といいます。)との関係も積極的に評価することなどを明確にしました。
全文(入管庁HP)

https://www.moj.go.jp/isa/deportation/resources/08_00035.html

・出身国情報の収集体制強化・情報開示

参議院法務委員会質疑 令和5年(2023年)11月9日
川合孝典君:
国民民主党・新緑風会の川合孝典です。
 (中略)
 本日は、さきの通常国会で法案が改正されました入管難民法、これがいよいよ今年の十二月から補完的保護の措置が、制度が動き始め、来年六月には本格的に全面改正、法改正が、運用が始まるという、こういう状況に今なっております。
(中略)
この入管難民法は運用でいかようにも中身が変わってしまうという性質のものでありますので、具体的にどういった準備をしているのかで随分今後の動きが変わってくることになろうかと思います。よって、この間の取組状況について入管庁に確認をさせていただきたいと思います。
 まず一点目、難民申請者の出身国情報の収集についてということで、これ、法案の審議をしているときに問題指摘させていただきました、南スーダンの紛争地域からの難民申請者のいわゆる在留が認められないということの指摘をさせていただいておりましたが、法案が成立後、七月十四日の日にスーダン人に対する緊急避難措置というものが出されて、スーダンの方も特別在留許可が出ているというのが今の状況ということであります。
 これは、出身国情報がアップデートされて、正しい出身国情報に基づいて難民審査の手続が行われた結果ということでありまして、それだけ出身国情報の収集というものが極めて重要であるということを示唆していると考えております。
 したがって、今後、これまでの間、附帯決議を踏まえてどのような出身国情報収集についての取組を行ってこられたのか、さらには、今後どういった取組を行うとされているのかということについて入管庁にお伺いしたいと思います。
政府参考人(丸山秀治君):
入管庁におきましては、出身国情報の充実の観点から、附帯決議を踏まえまして、新たに難民認定申請者数が多い国及び申請者数が増加傾向にある国に係る出身国情報につきまして、今重点的に様々な情報源からの情報を幅広く収集、分析しつつあるところでございます。 こうした内容につきましては、改正法成立後、新たに内容等を充実させた新任の難民調査官を対象とした研修においても周知し、あわせて、出身国情報の調査手法の講義を行っているところでございますが、引き続きこうした申請傾向等を踏まえた情報収集を行うとともに、組織内部における適切な情報の共有や外部機関との連携を通じまして、出身国情報の充実に向けた取組を引き続き行ってまいりたいと思います。
川合孝典君:
(略)
入管庁の方に確認したいと思いますが、この出身国情報について附帯決議で、日本における難民認定申請者の主な出身国や申立て内容に関する出身国情報を取りまとめて、業務に支障のない範囲内で公表するということが附帯決議事項に記されております。現時点で情報の公開は行われてまだいないということだと理解しておりますけど、この出身国情報の支障のない範囲での公表を行う、これまでの取組状況と今後のスケジュールについてお教えください。
政府参考人(丸山秀治君):
入管庁におきましては、従前から諸外国が公表した出身国情報に係る報告を、日本語に翻訳した上で業務に支障のない範囲でホームページに掲載しているところでございます。例えば、アメリカ国務省、イギリスの内務省、オーストラリアの外務貿易省が作成した出身国情報に係る報告につきましては、出身国別及び発行年別に整理した上で公表しているところでございます。  いろいろな報告書がございますので、日本語に翻訳するかどうかにつきましては、難民認定者数が増加傾向にある国・地域であるかどうか、多数の申立てにおいて主張されているトピックであるかどうかなど、最新の難民認定申請の傾向を踏まえて選定しているところでございます。  これらの情報については随時公表に努めており、本年度に入りましても報告書を幾つか公表している、翻訳したものを公表させていただいておりますが、難民認定申請者が申請するに当たって主張内容を整理する際に参考とすることが可能となっていると存じます。  引き続き、難民認定制度の透明性や信頼性を向上させる観点からも、出身国情報の充実と公表に不断に取り組んでまいります。
川合孝典君:
これまでも出身国情報の収集はきちっとやってこられていたはずなんですよ。しかしながら、実際には問題が生じて、その問題指摘を受けて法改正事項の中に出身国情報の充実と情報の公表、開示についての附帯決議が打たれているということで、引き続きじゃないということ、このことをまず前提とした上で、これまでを超える取組として何ができるのかということを、そのことを具体的に私は問うているんです。これまでもきっちりやってきたし、これからもきっちりやりますだけだと附帯決議の意味を成さなくなってしまうということを申し上げておきたいと思います。 その上で、アメリカやヨーロッパの出身国情報を和訳してアップしているということについて、このことは承知しているんですけれど、それだけを今後も継続するということになると、何も変わらないわけなんですよね。早く上げるかどうかということだけにとどまる話ということになります。
それに、それを超えて出身国情報を収集するということが何かできないのかということの検討というのはなされていないんでしょうか。
政府参考人(丸山秀治君):
現状の御報告になってしまいますけれども、地方局におきましては、難民認定手続で事実の調査を行う、担う難民調査官が個々の事案ごとにインターネット等を活用しながら最新の出身国情報の収集にも努めているところでございます。  他方、本庁には出身国情報の収集に専従する職員を配置し、これらの職員は、これまで蓄積した出身国情報が最新であるかどうかの確認、申請者の本国情勢に変化があった場合、その情報を迅速に調査分析する、難民調査官から個別の事案に係る出身国情報の調査依頼に応じた情報収集などの業務を行っているところでございます。  そして、地方局の難民調査官は、自身では収集困難な情報について本庁の専従職員に随時相談等を行い、その回答を踏まえた審査を行っているところでございます。  さらに、本庁の専従職員が収集した情報につきましては、審査業務で参照しやすいよう、地方局の難民調査官に対して、国籍、人種等の迫害理由に該当し得る事項ごとに整理した上で、電子データで提供するなどの工夫をしているところでございます。  このように、現場の難民調査官と本庁の専従職員が連携しながら随時最新の出身国情報の収集、共有に努めているところでございますが、現場のニーズも踏まえつつ、引き続き、こうした体制の整備にも努めてまいります。
国務大臣(小泉龍司君):
難民認定手続については、法案審議の過程で委員の皆様方から様々なお知恵をいただいたわけであります。そして、条文修正、附帯決議という形で、それが今日我々の大きな課題としてあるわけでございます。 新たに何が進んだのか、新しくどういう取組ができたのか、非常に大事なポイントでありまして、共生社会をつくるんですから、今から新しく。だから、一つ新しいステップ、二つ新しいステップ踏んでいく、それは非常に大事なことだと思います。在外公館もありますし在京大使館もありますから、まず身近なところではそういうところにアプローチを日々できるわけですよね。  分かりました。しっかりと取り組みたいと思います。

https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121215206X00220231109

参議院法務委員会質疑 令和6年(2024年)5月23日
川合孝典君:
難民の不認定の理由について、前回の質問のときに、いわゆる不認定理由を記載をするということについては入管庁さんから御答弁をいただきましたが、これ、昨年の法改正の附帯決議の第十号、出身国情報を取りまとめて、難民不認定処分を受けた者が的確に不認定の理由を把握できるよう、その者に対する情報開示の在り方について検討することというこの附帯決議条項に基づいた対応ということになっておりますが、それで難民不認定になった方が不認定理由を正確に理解、把握できるような情報開示の在り方になっているのかということについて、この点、確認をさせてください。
政府参考人(丸山秀治君):
お答え申し上げます。 難民不認定処分を行う際には、申請者に交付する書面に不認定理由を付記しております。この点、不認定理由の付記に当たりましては、申請者の申立てに対する判断理由に係る事項を詳細に示すよう努めるなど、内容の充実を図っております。また、実際に申請者に書面を交付する際には、通常、通訳人を介し、申請者が最も理解できる言語で不認定理由を説明することとしております。 さらに、出身国情報の開示につきましては、従前から、出入国在留管理庁におきまして、諸外国が公表した出身国情報に係る報告を日本語に翻訳した上で、出身国別、発行年別に整理してホームページに掲載しております。加えまして、現在、主な申立て内容ごとに対応する出身国情報を特定した形でホームページに掲載するなど、申請者が判断に用いられた出身国情報を特定しやすくなる、特定しやすくする仕組みについて検討を進めているところです。 引き続き、難民認定に関する判断理由の充実及びその丁寧な説明に努めてまいりたいと思います。

https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121315206X01320240523/124

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