木田優衣さん(仮名)の相談

なんでも時話していいんですか❓
あの、この話って絶対に誰にも言いませんか❓
例えば警察にも❓別にすごくすごく悪いことをしている訳ではないんですけど、、

うちの兄、今受験生で。東大受けようとしてるんです。うちの父、東大出てて、東大以外は大学じゃないって言っていて。でも兄は勉強できるタイプじゃないんです。全然容量いいタイプじゃないんです。すごく優しいんですけど、グループの中にいたら、端っこでふわふわ笑っているようなタイプで。お兄ちゃんの友達が不良ぶって制服のワイシャツ出したりしていても、お兄ちゃんだけはズボンの中に行儀良くシャツを入れてるようなそんなワンテンポ遅めの感じなんです。お姉ちゃんもいて、お姉ちゃんは私の2つ上なんですけど。お兄ちゃんですか❓お兄ちゃんは3つ上です。今二浪目なんです。姉はさっさと合格して京都の大学に行ってます。京大です。
お兄ちゃん、結構しんどそうで、でもたまに夜中にフラッと家出て何処かにいくんです。それで、帰ってきたら妙にいい顔していて。最初、彼女でもできたのかなとか思ったりして、こっそりスマホ見ちゃったことあったんですけど。はい、パスワード、お母さんの誕生日だったんで。たまたま当たって。でもそれらしい感じの人、全然いなくて。それで私、ひょっとしたら行っちゃいけないお店とか行っちゃってるのかなって思って。男の人が行くような、ちょっと、な、お店です。兄のイメージと全然合わないんですけど、帰ってきた兄の顔がなんかひっかかって。女の勘です。20歳だし、行っちゃいけないわけじゃないんだろうけど、お兄ちゃんそういうお店に溺れちゃうことないかなって心配で。そういう人いるみたいなこと友達から聞いたことあって。よくわからないんですけど。それで私、思い切ってお兄ちゃんの跡を付けたんです。そしたら、お兄ちゃん、公園に入って。森みたいな、昼でもそんなに人多くない公園なんですけど。そしたらお兄ちゃん、服脱ぎ出して。遠くからだったし、暗かったからはっきりは見えなかったけど、多分全裸になったんだと思います。それで「お前はなんだ!」とか「俺は誰だ」とか「どうしたいんだよ俺」とか叫んでるんです。私、誰かに気づかれないかなって本当にヒヤヒヤして。兄のそんな大きい声も聞いたことなかったし、知らない人みたいで、してることもやばいんじゃないかって、ショックではあったんですけど、なぜかちょっとホッともして。お兄ちゃん死んじゃわないかなって思ってたから。
だけどいつか誰かに見つかって、通報されないかって、すごい不安なんです。授業中とかもそのことばっかり考えちゃうし、お兄ちゃんが夜家出た後はいつも祈るような気持ちなんです。
お母さんに相談したら心配で気がおかしくなっちゃうっていうか、ヒステリックになって変な方向にいっちゃうんじゃないかって心配だし、お父さんには絶対言えないし、それでしょうがないから京都にいるお姉ちゃんに相談したんです。電話で。そしたら「やばいでしょ。馬鹿でしょ。」で終わっちゃって。姉は個人主義的なんです。使い方合ってますか❓だからこれはダメだって思って。
お兄ちゃんは勉強はすごいできる方じゃないけど、絵を描くのは昔からすごい上手なんです。虫の絵とか鳥の絵とかよく描いてて。だから本当は美術系に進みたいんだと思うんです。前にお父さんが「男は美大なんか行くな」って言ってたの聞こえたこともあったし。
お兄ちゃん、なんとか東大受かってくれたらいいんですけど、きっと無理だと思うんです。お兄ちゃんってプレッシャーにすっごく弱いんです。

どうにかしなきゃって思っているんですけど。どうしたらいいのかわからなくて。


そうなのね。頑張ってお話ししてくれたのね。ありがとうなのね。
お兄ちゃんは人間という生き物としては決しておかしなことをしている訳ではないと思うのよね。とても自然だと僕は思うのよね。人を傷つけずに自分を保つ方法をきっと模索した結果なのね。法律とかそういう次元から見ると、木田さんのヒヤヒヤする気持ちも、よおくわかるのよね。
お兄ちゃんには、お父さんとの対決が壁のようにあるのかもしれないのね。それは今かもしれないし、もっと先になるのかもしれないし、あるいは対決をないことにするかもしれないし、だいぶ後になって、ないことにしていたことに気づいて、埋もれていたものを再び取り出すかもしれない、重く覆いかぶさっているものに気づくかもしれない、それはお兄ちゃんの人生なのね。お兄ちゃんの勝利もお兄ちゃんの失敗も、お兄ちゃんのものなのね。僕も木田さんもお兄ちゃんを信じて肯定することと見守って祈ることしかできないのね。お膳立てもできない。それはある意味でとても苦しいことなのね。
いろんな対決の方法があるのね。僕のことだけど、昔、僕は村上春樹という作家の『海辺のカフカ』という本に助けられたのね。いろんな本の中とか誰かの話の中とか景色、旅の中には戦い方のヒントがたくさんあるし、自分の感覚に合った戦い方を試して続けていくことは僕は大事だと思うのね。お兄ちゃんは今その中にきっといるのね。



※これはフィクションです。



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