ラピと女指揮官とファッションと
「……終わった〜〜!」
椅子にもたれかかり大きく背伸びをする
「お疲れ様でした、指揮官」
そういうと赤髪の少女は温かいお茶を出してくれた
「ありがとー、ラピ
ん、このお茶美味しいね
疲れが取れていく気がするよ〜」
「はい、どのお茶が疲労に効くのかをエマに聞いてきましたので」
ラピと呼ばれた少女は心無しか嬉しそうに、それでもいつもの冷静な声で言った
「私のために?ありがとうラピ、そういう所好きだよ」
悪気も他意も一切ない純粋な気持ちをぶつける
「……そういう発言はその……お気をつけくださいね」
顔を背けながら私の心配をしてくれる
「大丈夫大丈夫、カウンターズの面々にしか言わないよ」
「……アニスとネオンも言われてるのね……」
「なに?なんか言った?」
小声で何かブツブツを言ったのは聞こえたのだ
「いえ
では、書類を提出してきますね」
「はあい、よろしくね」
失礼しますと言った後深くお辞儀をして部屋から出ていくのを見送った後
「ラピは本当に綺麗でかっこいいなぁ……胸もそこそこあるし……
私とは比べ物にならないなあ……
胸への栄養が全部身長に行ったみたい……」
と、ひとりぼやいていたのだが
「いえ、指揮官はカッコいいですよ」
と、ラピの声がした
「うええええ!びっくりしたぁ!」
あまりに唐突な再登場に普段は出さない奇声が上がる
「ラピ!?書類を提出しに行ったんじゃ!?」
「忘れ物をしたので取りに戻って来たのですが」
「何か一言ちょうだいよ!」
「失礼しますとドアの前ではいつもの声量でいいましたよ?」
「うそ……聞こえなかった……」
「いえ、私も指揮官の返事を待たずに入ってきてしまったので
申し訳ありません」
深々と頭を下げ謝罪をしてくるラピ
「う、ううん!私が悪いの!違うのごめん!」
手をブンブン振って否定する
ああ……マヌケだ……
「ですが、指揮官」
頭を上げ、キッとした目で見つめてくるラピ
「な、なんでしょう?」
その目にたじろいでしまう私
「指揮官はそれはそれはスタイルが良く、世が世ならどこに出しても恥ずかしくない男役になられたかと」
つらつらと流暢にいう
「お、男役?」
「はい、舞台などで女性が男性役をすることです」
「いや、それは知ってるんだけど……」
「普段のパンツスタイルといい、あまりスカートをはかれないところといい、控えめな胸といい、その身長と言い」
「ちょっと待って、今控えめな胸っていった?」
「……訂正します」
「なんて訂正するの?」
「……小ぶりな可愛らしい」
「同じ意味じゃない!」
「ですが、指揮官を指揮官たらしめる要因ですので」
「わかったよ、もう
それで?」
「ですので、これから買い物に行きましょう」
「か、買い物……?」
「指揮官が似合う服を私が買います」
「見繕うとかじゃなくて?」
「それは他のニケにお願いします」
「つまり、」
「はい」
「私はこれからラピとそのもう一人の着せ替え人形ってこと……!?」
「はい、覚悟はよろしいでしょうか」
「ひええええ!勘弁してぇ!」
必死の抵抗も虚しくずるずると引きずられショッピングモールに向かっていった
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「指揮官」
ラピが呼びかけてくる
「んー?」
服を選びながらラピに返答をする
「先程お話した通り、私は服に関することはあまりわからないので
助っ人をお呼びしました」
そういえばそんな話をしていた気がする
と、そこへ
「やっほー!お姉ちゃん!」
「うわあ!」
思った以上の声量にびっくりして声を上げ
「ルピー!」
声の主の名前を呼ぶ
「ラピからお姉ちゃんのコーデを頼まれたの!
今日はよろしくね!」
溌剌とした声と屈託のない笑顔を向けてくる
「ルピー、指揮官に似合う服をお願いね
参考にさせてもらうわ」
ラピもノリノリな様子だ
「オッケー!まっかせて!
私の会社の威信にかけてお姉ちゃんを最高にしてあげる!」
「あ、はは……お手柔らかに頼むね?」
二人のキラキラした目を見ながらたじろいでしまった
「よし!じゃあここじゃなくて……」
また引きずられる形でブティックを後にした
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「こんなのとかどう?」
「うーん、悪くないわ
でももうちょっとシックな感じでもいいわ」
「なるほど……ならこっちと合わせてみるとか?」
「さっきより派手さはないけど、指揮官に合う気がするわ」
「やば……めっちゃわかる」
二人が楽しそうにあれやこれやと意見を交わしている
かれこれ連れてこられて数時間
少し疲弊気味になりながら二人の着せ替え人形に成り果てた私は、抗議の声を上げる力もなく
ただその時を終わるのを待っていた
「よし!ならこれで決定!」
「そうね」
「お、終わった……?」
ようやく開放されるのか……?
「お待たせしました指揮官」
ラピが静かな声で
「いいのが決まったよ!お姉ちゃんスタイルいいから楽しかったぁ」
ルピーは爛々とした声で
「あ、はは、ならよかったや」
そんな嬉しそうな顔をされたら何も言えなくなってしまう
「支払いは私がしておくね!」
ルピーがそう言ってレジに持っていき手慣れた手つきで決済を済ませる
「はい、おわり!」
「あ、ありがとうルピー」
私がお礼を言ったのに合わせて
「ありがとう」
ラピも同じようにお礼を言う
「ううん、どういたしまして」
ルピーはあっけらかんと答える
「じゃあ終わったなら帰ろっか」
と私が陣頭を取りお店を出て
「うん!」
「はい」
二人はまるで疲れを知らない子供のようにお店を後にした
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「じゃあ私はまだ仕事があるからここで失礼するねー!」
ルピーはそう言い残して去っていった
「ラピ」
「指揮官」
「「あ」」
話をし出すタイミングが被ってしまった
「ラピからどうぞ」
「いえ、指揮官から」
お互い譲り合ってはどうにもならないだろう
「そう?じゃあお言葉に甘えて
今日は楽しかった?」
ラピが連れ出した時からの疑問をぶつける
「はい、とても有意義でした
その、急に連れ出してきてしまって申し訳ありませんでした」
と、今日何度目かの深々お辞儀を私にする
「ううん、ラピが楽しかったのならそれで
ラピってあんまり自分がしたいことを言うタイプじゃないから、
こうやって欲望のままに動いてくれてちょっと嬉しかったかも」
少し照れくさくなりながらもラピへの心情を吐露する
「……ありがとうございます」
頭を下げながらラピが言う
「ううん、いいんだよ
あ、じゃあここで」
指揮官室を前にしてラピに別れを告げる
「はい、とても楽しかったです」
「うん、なんだかんだ私も楽しかったよ」
バイバイと手を振りながら指揮官室に入る
何度も言うがラピが楽しんでくれたのなら私としても本望だから
だから今はこの時を楽しもうと思う
また戦場に向かう時に何も後悔しないように
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後日、指揮官室
コンコンとドアをノックする音
「失礼します」
ラピの声がする
「あ、ラピ、どうしたの?」
指揮官室のドアが開いてラピが入ってくる
「いえ、何か手紙が届いていたので」
「ん?なんだろ……」
送り主は……
「ルピー?」
「読んでみましょう」
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親愛なるお姉ちゃんへ
あの時買ったお金を請求しておくね
すぐには返さなくていいので頭の片隅にでも入れておいて
あ、お姉ちゃんなら現物でも全然いいからね
ルピー
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「……」
やけに金払いがいいと思ったら……
「すみません指揮官……本当は私が出すつもりだったのですが……」
ラピがまた頭を下げ
「……ううん、大丈夫まあ……ルピーだもんね」
私に関することならある程度のことはしてくれそうだもんね……
「私からも返すようにしますので……」
「ありがとう……えっと、金額が……」一の位から順に指と目で追って
「…………………」「…………………」
二人とも唖然として
「……申し訳ありませんでした」
心からの謝罪をするものと
「………………………………」
石のように固まってしまったものとで
時計の音だけが響き渡る空間がそこにあった
ラピと女指揮官とファッションと 〜FIN〜