ニケと眼鏡と指揮官と
嫌な予感はしていたのだ
なぜ今、私はこんなことになっている
「さあさあ店長?」
「も、もう逃げ場はありませんよ?」
「指揮官の眼鏡姿、私も見てみたいですね〜」
「さんせーい!」
「ミスター?どうするの?」
「君の眼鏡姿……とてもお似合いだと思います、だからはやく」
「指揮官……わたしからもお願いします」
気がついたら私は、どこから集まったのか、指で数えると2進数でも足りないであろう、と錯覚するニケ達に取り囲まれていたのだ
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「7号〜いる〜?」
雑務を終えて一人
ソファに座って目頭を押さえ、疲れ切った体を癒そうと目をつぶった時にエーテルの声が聞こえてくる
「7号〜?」
応えなければならないだろうか
「……ここにいるぞ」
極めて普通に、だが心底嫌そうにその呼びかけに応えてみる
「嫌そうだね7号〜」
前半の空白の時間が気になったのかエーテルが無言でツッコミを入れてくる
「そんなことはない、」
自然体、自然体だと自分に言い聞かせエーテルへ返答する
「どうだか」
薄ら笑いを浮かべながら
「今日はね、面白いものを持ってきたよ」
内ポケットから物を取り出す
「……眼鏡ケース?」
それは一般的な
━前哨基地でも売っている━
眼鏡ケースだった
「そう、まあ、重要なのは中身なんだけどね」
トントンとケースを指で叩かれる
(開けろということか?)
恐る恐る手に取り、中身を確認する為にケースを開けた
「眼鏡……?」
それは一見、何の変哲もない眼鏡だった
それを聞いてエーテルは
「そうそう、眼鏡
でもただの眼鏡じゃないよ」
にやりと
「なんでも透けて見えるの」
なんでもないように、そういったのだった
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(どうするべきだ?)
私は考えていた
「7号の資料が欲しくてさ
もし女性のあられもない姿を見れるものが"そこ"にあって、相手は何も知らないってわかってる状態なら、どんな感じになるのかなぁって」
あっけらかんと、それでも、からからと笑いが聞こえそうな声で彼女は言った
たしかに私はニケのお願いをなるだけ聞いてあげたいとは思っている
だが、それはあくまで個人の事に対してであって、他の誰かを巻き込むような事はしたくないのだ
今回はどうだろう
「なんでも透けて見える眼鏡か……俄かには信じがたい……
いやでも、もしかしたら……本当に……?」
悶々と一人、指揮官室で考え込んでいたとき
「失礼します指揮官」
聞き慣れた声がドアの開閉音のあとに耳に入ってきた
「ラピか」
私の右腕であり、何かにつけてサポートをしてくれているラピであった
「はい、前回の作戦レポートのお手伝いをと思いまして」
「ああ……ありがとう」
そういえば作戦レポートを書くのを忘れていた……いや、正確には書いてるのだが……その、納得いかない部分が多くて……
この話はやめにしよう、長くなってしまうのでね
「では、よろしく頼むよ」
と、レポート用紙をラピに渡そうとしたところで
「……珍しい物をお持ちですね」
机の真ん中においてあった眼鏡ケースにラピの照準があった
「ああ……これは」
エーテルからの、と言おうとしたところで
「誰からですか?何のためにですか?また貰い物ですか?私も贈らせてください」
と早口でまくしたてられてしまった
「落ち着いてくれ、ラピ
ちゃんと説明するから」
かかった状態のラピを諌めながら状況を説明する
「なんでも透ける眼鏡……ですか」
「ああ」
「はあ……エーテル……また変なことを……」
「私もそう思う」
「とりあえず、かけてみては?」
「……!?」
なんでもないように言うラピに驚いてしまった
「ものは試しだと、男は度胸だと、 とある文献で読んだ気がしますので」
「ラピ?何を言って」
「別に指揮官の眼鏡姿が見たいのではなく、ええ、ただ純粋にそれをかけた時に何が見えるのか気になっているだけです」
今日のラピは何か変だ
いつものような冷静さを感じられない
「いや、その、かけないが……?」
「なぜでしょうか」
「なぜって……別に見たいわけでもないし……」
「指揮官は本当に男性なんですか?」
性別を疑われてしまった……
「男性なんだが……エーテル個人で解決する話ならいいんだが、他のニケ達を巻き込みたくないんだよ」
心の内をあける
「だから眼鏡をかけないと?」
「ああ、第一、何も知らない相手にそれはしたくないだろう?
プライベートな部分なんだ、公私は分けないとな」
「……指揮官になら別に……」
小さな声でラピが言った言葉は聞かないふりをしておこう
「なに、丸一日かけなければエーテルも諦めてくれるだろう、多分」
いや、わかっている
そんなに諦めのいい奴ではない
わかっているがそう思いたいのだ
「でしたら、相手の許可を取ればいいのでは?」
まるで名案!のように言い放つ言葉ではないぞラピ
「いや、多分エーテルはそこを求めていないと思う
私をからかってるだけだよきっと」
「でしたら……仕方ありませんね……」
声色が、低くなった……?
「少しばかり手荒くいかせていただきます」
そういうとラピは眼鏡ケースを手に取り中身を取り出すと、装着可能!状態にし私に向かってきた
「!!!待てラピ!」
身を翻してラピの突進を避ける
「チッ……」
舌打ち!?
「待てと言っている!これは命令だ!」
「すみません!今回ばかりは聞けそうもありません!」
狭い室内、鬼ごっこをするにはあまりにも過ぎる
「くそ……外に出ないと……!」
「待ってください!」
ギンギラギンに目を輝かせながら向かってくるラピをどうにか巻いて外にでた
我ながら何で逃げ切れたのかよくわかってないが聞かないでくれ……
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「くそ……!早すぎる……!」
相変わらずラピの追跡は終わらなかった
疲れ知らずの体をあそこまで使うとは……
「身を隠せる場所……身を隠せる場所……!」
その時、目の前に女神像が見えた
「ええい……ままよ!」
私は女神像裏
わかりやす過ぎるが身を捩り女神像と一体化する
(どうにかなってくれ……!)
足音が近くなる、全速力のそれは女神像を素通りしていった
(た、たすかった……?)
何故私を見失ったのかわからないがラピはどこかへ行ってしまったのでとりあえず一安心だ……
近くのベンチに座り大きく深呼吸する
「水が飲みたい……」
ボソッと呟いた次の瞬間
「冷たい…!!」
頬に当たる冷たい感触
驚いて横を見ると
「指揮官様じゃーん、何やってるのこんなところで?」
「アニス……」
顔もさることながら一番目を引く場所をもっている、カウンターズ所属ニケ、アニスだった
「近くを通りかかったら指揮官様がぐったりしてたから気になって来たら
水が飲みたい
って言ってるし
ラピはすごい形相で走ってたし」
「あ、ああ……うん」
アニスにも話すべきだろうか……
「どうしたの?ラピの大切なプリンでも食べた?」
可愛らしい笑顔で聞いてくる
「いや、そんなことをするのはアニスくらいだろう」
「えーひっどいなぁー
で?何があったの?」
「なんと言えばいいんだろうか……」
言葉を出力しあぐねていると
「指揮官様はさ、私達の裸みたくないの?」
ゾワッと
「……なんだって?」
寒気が
「ラピがさBlaBlaで教えてくれたんだー
指揮官様の眼鏡の話」
寒いぼが
「なん、だ……」
鳥肌が
「逃げてるって聞いてふらついてたらここにいたしー」
「済まないアニス……!」
気がついたら駆け出していた
「あ、待ってよー!指揮官様ー!」
あそこにいては危険だと
私の危険信号が黄色に点滅していた
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「はあ……はあ……」
助けてくれと願いながら前哨基地の周りを駆け巡っていた
後ろからは様々な私の呼び方をしてニケ達が迫ってくる
「鬼ごっこは……苦手だな!」
なんでこんな事になってしまったのだ……助けてくれ誰か……!
と念じ
「アークだ……!かくなる上は……!」
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「それで、私の部屋に来たと?」
彼は腕時計を弄りながら私に聞いてきた
「はい……助けてください……」
涙目で彼の顔を見ながら必死に懇願する
「……なぜ君はそうトラブルを持ち込むのだ……」
彼、アンダーソンからはそんな言葉が零れ落ちた
「そんなに持ち込んでないじゃないですか…!」
息を切らしてるせいで上手く話せない……
「いいや、持ち込んでいる」
「持ち込んでません!」
「……はあ……まあいい
これから会議があるのでね
この部屋にいるのは構わないが私は席を外す」
腕時計を見ながら話している
「あ、ありがとうございます!」
「ではな」
そういうとアンダーソンは部屋を出ていってしまった
(鍵をかけなければ…!)
思い立つと同時にドアに向かって歩き、鍵に手を伸ばそうとした瞬間
「見つけましたよ、指揮官?」
細い目、ショートヘア、白衣の天使……
メアリーがドアを開けてきた
……大量のニケたちを後ろに引き連れて
>冒頭に戻る
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「さあさあ店長?」
「も、もう逃げ場はありませんよ?」
「指揮官の眼鏡姿、私も見てみたいですね〜」
「さんせーい!」
「ミスター?どうするの?」
「君の眼鏡姿……とてもお似合いだと思います、だからはやく」
「指揮官……わたしからもお願いします」
まだ色々言われたのだが書ききれないので省略する
なんでここに一同に会しているのか
どうやってアンダーソンの部屋の中に収まったのか
なぜそこまで私の眼鏡姿にこだわるのか
理由もわからないまま手足を掴まれ、今、眼鏡をかけんとしていた
ああ……済まないみんな……非力な私を許してくれ……
目をつぶっていたら耳に何かがあたった感触
初めから目を閉じていればたとえ眼鏡をかけても見ていないのと同義だ
(静かだな……)
「……これはなかなか」
誰かの声が発せられた
カメラの音がしきりになっている
(見世物か……)
目を開けず今広がっている光景を想像してみる
(多分皆が皆写真を撮っているのだろう)
そしてそれを何に使うのか……
「ミスター?いつまで目を瞑ってるの?」
ロザンナだ
「今開けたら大変なことになる
見られたくもないのに見るのは失礼だろう」
然とした態度で切り返す
「今更何?それよりもっと凄いもの見てるじゃん?」
空気がピリついた
「やめろ!その話は今するんじゃない!」
あの夏ですらその場の空気が(1名によって)ピリついたんだぞ!
今話すと皆が皆誤解するだろ!
「往生際が悪いねミスター
みんな覚悟の上だよ
だから開けなよ
じゃないと……」
「わかった!開ける!開けるから!やめろ!」
恐る恐る目を開ける
あー……何でこんなことに……
後悔と自責の念と良心の呵責で胸が一杯になりながら目に光が飛び込んできた
「……あれ?」
そこには大所帯のニケ達と
身につけられた衣服が確かにあった
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「これ、不良品だぞ」
エーテルに眼鏡を渡してそういった
「あ、7号かけたんだ」
「……何も聞いてくれるな」
「にしても不良品?」
「ああ、何も透けなかったぞ」
「おかしいなぁ……ちゃんと造ったのに」
「まあ、ありがたかったが」
「ふうん、残念だった?」
「言ってないぞ」
「顔に書いてるよ」
「嘘を付くな」
「そっかあ……あ、じゃあもう一回かけてよ」
「なにがじゃあなんだ
……まあいい、貸してみろ」
「話が分かる〜
はい」
エーテルから受け取った眼鏡をかける
「おお〜似合ってるね〜流石色男」
小さく煽るような拍手をしてくるエーテルに内心呆れながら
「これでいいか?満足したか?」
「ちょっと待ってね〜」
「なんだ……うわ!」
エーテルの体が、顔が、口が、息がかかりそうなところまで近づいていた
「あ〜やっぱり……スイッチが切れてる」
残念そうにエーテルが言う
「スイッチ?」
「これ起動しないと透けないんだよね〜
よっと」
カチッと音がなって少しだけ眼鏡が光る
「眩しいっ……!」
数秒光ったあと、徐々に視界がクリアになっていきあたりが見渡せるようになった
「7号」
いつの間にか後ろに回り込んだエーテルの方を向く
「…!!」
「今、何が見えてる?」
笑いかけるエーテルの
笑いかけていると思われるエーテルの
「骨組みだ……」
あまりにもスケルトン過ぎる骨組みが見えていた
〜FIN〜
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