【1時間100クレジットで指揮官を好きにできる権利を売ります】case.ラピ
【1時間100クレジットで指揮官を好きにできる権利を売ります】
「……なんだこれは」
机に置かれたホワイトボードを見て眉をひそめる
「指揮官がお金に困ってると聞いて作っておきました!」
カウンターズのサポート役、シフティーが画面の向こう側から言う
「確かに今金銭的な余裕はないが……」
「はい!なので作っておきました!」
まるで役に立ちました!みたいに言われても……
「……それで?」
「はい?」
「これをどうしたらいいんだ?」
ただホワイトボードに書かれているだけの物をどう使えと
「首からかけて1日指揮官室にいたらいいんじゃないですかね?」
ノープランなのか……
「……まあ、本当に困ったら使わせてもらう」
優しさを無下にはできないと思い了承する
「はい!お役に立てたのなら光栄です!」
シフティーとの通信を終了し、一人
どうしようかと考え込んでいた……
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case.ラピ
コンコンと指揮官室のドアが叩かれた
「空いてるぞ、入ってくれ」
「失礼します」
赤い髪の少女は扉を開け、しっかりとした足取りで私の前まで歩を進めた
「面談だとお伺いしたのですが」
「ああ、面談なんだが
まあ、相談でもある
とりあえず座ってくれ、ラピ」
彼女にそう促すと、わかりましたと言いソファに腰を掛けた
「それで相談というのは?」
単刀直入に聞いてくるラピ
「これなんだが」
伏せていたホワイトボードをラピに見せる
「……」
まじまじとホワイトボードを見つめている
「シフティーが私のために作ってくれたそうなんだが……
もしこの権利を手に入れられるなら何がしたい?
ラピならば変なことを言わないであろうと、
信頼と実績の上にまず初めに相談しようと決めたんだ」
「……」
まじまじとホワイトボードを見つめている
「……ラピ?」
そんなに難しいことを書いていないと思うが……
「……あ、はい」
ようやく意識がこちら側へ戻ってきたのか、私の言葉に反応する
「大丈夫か?」
少し呆けた顔になっている
初めて見たなラピのその顔……
「大丈夫です
それで、これはいつからですか?」
急に目つきが変わり、真剣な表情になった
「いつからと言うか……まあ、もしニケ達が望むのならば今日からでも……」
言いかけたところで
「いくらまで払えますか?」
食い気味に遮られてしまった
「いくらまでというか……まあ、青天井……いや、1日が上限だから2400クレジットが天井の方がいいか」
「でしたら今払います」
「は?」
「しかし安すぎませんか?
100クレジットはちょっと……」
「いや、私の価値なんてそんなもんだと……」
「そんな事ありません
指揮官はどこまでも価値の高い人なのでもっと値段を上げるべきです」
きつい目で怒られてしまった
「そ、そうか
ならラピが妥当だと思う値段を教えてくれないか?」
「そうですね……1つ0を増やしてみては?」
「1000クレジットか……そこまでして払ってくれるニケ達はいるのだろうか」
「1000クレジットでも少ないかと思われますが……」
「ならなぜシフティーは私の1時間を100クレジットにしたんだ……」
「それはわかりませんが……100クレジットは安すぎるので……」
「わかった、じゃあ1000クレジットでいこう
それでラピ」
本題にいこう
「そうですね……実質1日指揮官を好きにできる……というのであれば」
「あれば?」
「デートを……」
指を組んで親指をもじもじと回している
なんともいじらしい格好だ
「なんだ、そんなことか
そんなものクレジットを払わなくてもしてやるが……」
「それはダメです」
きっぱりと言い放つ
「……なぜだ?」
「やはりその、規律は守らなければならないと思いますので
なので、しっかりとお支払いさせていただきます」
そういうとラピは財布から24000クレジットを取り出す
「本当にいいのか?
私は別に……」
「いいんです、むしろ受け取っていただかないと私が満足できません」
「そ、そうか……」
やはりラピはしっかりしている……
「では、受け取ろう」
「はい」
ラピからクレジットを受け取り懐にしまう
「ではいきましょうか」
「ああ、どこに行くんだ?」
「それは着いてからの秘密です」
そういうと私の手を引いて指揮官室から飛び出していった
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「何を見るんだ?」
ラピに連れられてやってきた場所はアークの映画館だった
「今日公開される恋愛映画です
これは指揮官の分です」
チケットの会計を済ませて1枚手渡してくる
「ありがとう
……恋愛映画?」
ラピもそういうのを見るのか、あんまり興味ないと思っていた
「私だってそういった物は見ます
戦場しか知らない私を戦場以外のところへ連れて行ってくれるのはこういった創作物ですので」
「……そうか」
「はい
行きましょうか」
「ああ」
ラピに連れられるままスクリーンの前
思ったよりも観客は入っていないようだ
「結構少ないんだな」
「あまり有名な製作会社じゃないので
指揮官はコーラでよかったですか?」
ズイッとカップを渡され、受け取る
「ありがとう、コーラでいい」
「よかったです」
柔らかい笑顔でラピが答えてくれる
「始まりますよ」
「ああ、静かにしようか」
映画のマナーとして人に迷惑をかけず、しっかりとストーリーを観よう
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「感動した……まさか映画で泣く日が来るとは思わなかった……」
「満足いただけたようでなによりです」
登場人物は主人公とその妻
愛し合う二人、それを邪魔するように主人公に余命宣告が襲う
残された時間は僅か半月
限られた時間の中で主人公と妻が思い出を積み上げていく
よくあるストーリーだが、スクリーンと音響が相まって、感情を何度揺さぶれたかわからない
「半月って短いな……」
映画の内容を思い出しつつしみじみと呟く
「……そうですね」
それに同調するようにラピも呟く
「私達も似たようなものですね」
「……ラピ」
「すみません……失言でした」
すぐさま頭を下げるラピ
「いや、大丈夫だ」
そんなラピの頭を撫でる
「ッ……ありがとうございます」
ブンッと音が鳴るように頭を上げる
「ああ……すまない、嫌だったか?」
気に障るようなことをしてしまっただろうか
「いえ、むしろ嬉しいのですが、その、恥ずかしくて……」
手櫛で髪を梳きながらそんなこという
「まあ、まだ時間はあるんだ
私達も思い出を作ろうか」
「……はい、ありがとうございます」
「それじゃあ次はどこに行こうか」
「その、指揮官」
ラピが俯きながら呼びかける
「どうした?」
「もう少し頭を撫でていただけませんか……?」
顔を上げ、顔を赤くさせてラピが言う
「……わかった、ただここじゃなんだ、指揮官室に戻らないか?」
人目もある、少し汗ばむ気候だ
「……はい」
これから起こるであろう事柄に2人共気付きながら、指揮官室へ戻っていった
〜case.ラピ END〜