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(連載小説:第2話)小さな世界の片隅で。

こんばんわ、徒歩です。今日はまた暑かったですね。不定期で更新中の連載小説(小さな世界の片隅で。)の続編を公開いたします。ご興味のある方、お暇な方はどうぞ。

~前回巻末:歩と初老の男の対面場面から~

”あの…。”

”なんじゃ。”

”僕は、死んだんでしょうか?”

”…。”

”そしてあなたは…?”

”…。”

~第2話~

”何だ、分かっているんじゃないのか?”

”いや…、ぼんやりとは。でも…自分の耳で、はっきりと事実が聞きたいんです。”

”ふん。”

初老の男は、渋々口を開いた。

”まず、君の事だが、死んでいるとも、死んでいないともいえる。”

”今は、こんな状態だ。”

初老の男性は、指をパチンと鳴らした。

すると、目の前に、ある景色がぼんやりと浮かんだ。

それは、ガードレールを突き破って、車のフロント部分が潰れた車が空中に浮かんだ状態で止まっている景色だった。

再び、初老の男性が指をパチンと鳴らすと、その景色は消えた。

”これは…?”

”今は、こういう状態じゃ。つまり、”一時停止”みたいなもんじゃな。”

“しかし、この状態は、わしの力でも、長くは保っていられない。”

”これから、どうするかは、君次第だよ。”

”ある決断をせにゃあならん。“

”…。”

”それから、わしの事だが。”

”はっきりとは、言えん事になっている。そもそも、わし自身、実体が無いのでな。空気みたいなもんじゃ。知られては困るのでな。”

“君に関わる事で、言える範囲でいうと、所謂、この世とあの世を繋ぐ役割も、わしの仕事の一つでな。”

“あの世に行く者の中で、予定に入っていない者や、ためらいがある者がいた場合は、わしがこの"一時停止"をして、本人と直接、話をして、その後の行き先を決める事になっておる。”

”君は、予定にも入っておらんかったし、大分ためらいもあったな。即刻、"
一時停止"をしたよ。“

“ちなみに、わしの姿だが、君に、どう見えているかは、わし自身にも分からん。”

”どういうふうに、意思が伝わっているのかも分からん。人間には、言葉という、ものを伝える手段があるんだろう?”

”わしはただ、自分の感覚を、君らに向けて伝えているだけにすぎない。”

“人間の目は、その姿や顔や形でもって、”ほんとうのこと”を、見誤らせたりするからな。届けたい言葉や思いも届かんようになったり、ねじ曲がって伝わったりする。姿や形は、時によっては、邪魔になるからな。”

”それは、耳に入る声や、言葉も同じじゃ。”

“だから、わしは、相手によって、姿を変えるんだ。”

“つまり、今のわしの姿や声や言葉は、今の君が、最も受け入れやすい形で見えていることになっておる。”

”そして、わしと話が通じないものなどおらん。それが例え、赤子でも、動物でもだ。言葉で話をしている訳ではないからな。“

”すまんが、今はこれぐらいの事しか言えん。理解してくれ。”

”…。”

しばし、間があった。西側の上流の方角に太陽が沈みかけ、川辺は夕日に赤く染まっていた。

これまでにあった、色んな事が頭に押し寄せてきた。
ここは、現実ではないという事は分かった。
極めて死に近い場所であることも。
目の前にいる初老の男性が、“あれ”であるかもしれないことを。

声を振り絞るように歩は、口を開いた。

”じゃあ、僕は…、これから…、どうすれば…、どうすれば…?”

再び沈黙があった。初老の男性の顔へ目をやると、柔らかく微笑んでいるようであった。そして、数回ゆっくりと小さく頷き、歩に声をかけた。

”…決断をせにゃあならんといったろう。”

”まぁ、その前に…。”

初老の男は、歩にゆっくりと近づいた。

”歩君…、つらかったな…。”

ゆっくりと言い、歩の肩を軽く2回叩いた。

触れられた肩は、じんわりと暖かかった。暖かさを感じるのは、いつ以来だったろう。

歩は、泣いた。ため込んでいたものが、一気にあふれ出たようだった。

同時に、足の力が抜け、膝から崩れ落ち、初老の男の前にしゃがみ込む形になった。

“僕は、いったい何てことを…、何てことを!”

歩は、握り込んだ拳で地面を叩きながら叫んだ。
叩いていたのは、地面じゃなく、歩の心だった。

“いや、よかったんだ…、あれで…。決めていたんだ。でも…。”

“父さん…、母さん…、心配してないかな…。千絵は?これから大丈夫か…?生きていけるか?”

保険金だけで、大丈夫か? お金だけで、大丈夫だろうか?
僕が居なくて大丈夫か?

自分を責めて、後を追ってきたりしないだろうか?

急に不安になってきた。

”おじいさん!いや、神様!、お願いです!せめて、一度だけ、一度だけでいいから、家族の様子をこの目で見せてもらえませんか?”

”僕はどうなっても構いません!みんなを、安心させて、安心させてあげて、旅立ちたいんです。お願いです!お願いですから!”

うずくまりながら、泣き叫んだ後、歩は、初老の男の足元から、おそるおそる顔を上げた。赤く染まった夕景が男の背後から差し込み、逆光で、はっきりとは分からなかったが、男の表情は、穏やかに微笑んでいるように感じた。

少し落ち着いてから、再び、初老の男が話を始めた。

”大分混乱している様じゃな…。“

”残念だが、ここにいる状態で、様子だけ見に行くというわけにはいかん。”

”…。”

”何度も言うが、ここは決断をする場だからな。”

歩は少し考えたあと、初老の男に尋ねた。

”それじゃ…、その決断っていうのは?”

初老の男は、ゆっくり答えた。

”歩君、もし君に後悔があるのなら、戻りたいという気持ちがあるのなら、やり直す方法が一つだけある。”

”時間を戻すんだ。”

”事故の前であれば、1度だけ。わしの力で、君の時間を戻す事ができるぞ。タイムスリップみたいなもんだ。”

“ただし、条件がある。”

(次号に続く。)

※本日もお疲れ様でした。社会の片隅から、徒歩より。

第1話。

※第1話~最新号はこちらから。


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