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つわり

妊娠中に起こるつわりは、コレから母になる多くの女性にとって大変な体験だ。
義母のつわりはとにかく酷かったらしく、それを聞かされていた私は、妊娠発覚時点で戦々恐々としていた。
ちなみに義母だけでは無く、義祖母も酷かったらしい。
妻の遺伝子に深く刻まれた『ツワリヒドイヨー』と言う無意識は、私たち夫婦にも、例外無く降り注いだ火の粉である。

妻曰く最初の数週間は軽い車酔い程度の症状を感じていたらしい。
但し、車酔いを感じない妻にとっては「変だなぁ?」くらいの感じだったらしい。
その後、妻の食欲不振、吐き気は悪化の一途をたどった。
米は無理でも麺類は食べられたのは、つわりが本格化してから1週間程度だろう。
その先は、麺類も菓子パンも食べれず、胃に物を入れると吐き気を催した。
最終的に、唯一食べられたのはアイスくらいだろう。
アイス以外は、固形物は無理。
水分すら受け入れなくなり、脱水症状でブラックアウトするのでは無いかと、本当に怖かった。

絶望しかなかった。

昔、整骨院で働き、生理学を学んだわたしにとって、水分すら受け付けない妻の現状は『死』への片道切符としか思え無かったからだ。

私は何をどうすればいいのか分からず、ひたすら考えた。
ひたすら考えた。
必死で考えた。
しかし、答えなんて出るはずも無い。

科学的に、つわり自体原因不明なのだから。


終わった…


自分の中の自分が完全に諦めた。


それとは同時に、もう1人の自分が私にオラついてくる。


『思考を止めるな‼︎』

と。

『考え得るすべての可能性を試せ‼︎』
『オマエはその程度で妻を殺すのか?』
と…

私の中のエドワードエルリックも無茶振りが過ぎるとしか思えない。
しかし私は、本能の言われるがままに脳を再度フル回転させる事にしてみた。

その時、私の頭は、『つわりがどうこう』では無く、現状、妻に起きている症状にフォーカスを合わせてみた。

嘔吐。
吐き気。
倦怠感。
力が入らない。
思考力の低下。
冷たい物が食べられる…………


あ……れ…?

「コレ、全部熱中症の症状や無いか…‼︎」

私は過去に夏祭りに出ていた経験を持つ。
そこには熱中症にかかる子供達、大人達の症状を嫌と言うほど経験して来た。
そして年長者として、倒れる子供達を対処して来た。
もしかすれば、コノ対処法が使えるのでは無いか?と模索するようになった。


手始めに、氷嚢を買って来て、つわりで死んでる妻の首筋を冷やしてみた。

少し目が冴えた…

続いて、梅干しを潰して舐めさせてみた。
「あんんんまぁぁぁ……」
我が家自家製の塩だけで漬けた酸っぱい梅干しが異常に甘く感じたらしい。
すると、妻はお茶が飲みたいと言い出した。

水分が摂取出来る様になったのだ…
当然の事ながら、妻の顔色が回復して来たのである。

その姿を目にした私は、張り詰めていた物がフッ……と途切れ、その場で膝から崩れ落ちた。

安心した。

私の人生の中で、あれ程安心した日もない。
あれ程考えた日もない。
そして、あれ程神様に教えて貰った事もない。

『オマエの人生に無駄など無かった』のだと。

科学的な根拠は一切無い。
だが確実に妻の症状は改善へ向かった。
深夜に吐き気で起こされる事は無くなり、吐くが、少しでも固形物を食べられる様になった。

この症状のまま、その後約1ヶ月間つわりと戦い抜き、そして、私と妻は勝ったのだ。

コレはあくまでも私が今回の件で考察した内容になるので、重ねて述べるが、科学的根拠は無い。

つわりの症状が見られる妊娠初期。
つまり、女性の生理現象における、排卵が無事完了した後の女性の体のの状態は基本的には『高温期』に当たる。
これは、卵子が受精した際、細胞分裂を活発化させる為に、体の体温を上げる訳だが、そこに落とし穴がある。
想像してみてほしい。

体温が1.5度高い状態が2ヶ月続けば、人の体はどうなるか。

更に、冷え性が合間見れば、子宮で熱せられた血液は頭に上り、足が冷えるのだ。
東洋医学には『頭寒足熱』と言う言葉がある。
この状態は全くの逆であり、常に交感神経が優位になる。
常に興奮状態にある人間に、身体を正常に戻す力はどれだけ残っているだろうか?
更に、このトリガーを引く要因になるのが『発汗量』だと考えられる。
妻は汗をあまりかかない。
つまり、体の冷却能力が低いのだ。

そこに付け加えて、この時に、もう1人分の体を造らなければならない。
神経系を造らなければならない。
神経系を繋ぐ基本物質はナトリウムだ。
水分すら摂取出来ない状態でこれ程の要素が積み重なっては、低ナトリウム血症になるのは無理も無い。

ならば、やるべき事は一つ。

『冷やす!塩‼︎水ぅぁあああ‼︎‼︎』

ではなかろうか。

長々と書き綴ってしまったが、この経験を通じて、私は間違いだらけの道のりは『妻を支える為の一本道』なのだと悟った。

それ程の極限状態になりながら、妻が私を見る眼差しに一点の濁りもなく、彼女には入院もする気も無く、ただただ『貴方が救ってくれる』と信じてくれていた。

応えたかった……

そして、応えられて本当に良かったと今では思う。

つわりで苦しむ妊婦さんは、今も沢山居ると思う。
もしかしたら、私の妻と同じ症状とは違うかもしれない。
だが、もし、妻が妊娠中でつわりに苦しんでいたら試してみて欲しい。
『首筋を冷やす』
『塩分を与える』
この2点で、貴方の奥様の症状が緩和されるのであれば、私の思考を止めなかった甲斐がある。

そして、私の経験から奥様を救い出せたのなら、この記事の事は触れずに胸を張ってくれれば良い。

何故なら、貴方しか『奥様専用スーパーマン』になれないのだから。

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