ミステリー通りコナン商店街
あらすじ
小南商店街はさびれきっていた。そこで町興しをバンビ企画という会社に依頼する。同社の鬼頭社長は曲者ではあったが、ミステリー商店街にするという企画を立案し、商店街は活性化した。しかし、五年が過ぎ、商店街は再び衰退していた。そこで再度バンビ企画に商店街の活性化案を依頼した。疑似殺人事件を商店街で起こし、参加者が犯人を推理するという「ミステリーツアー」が開催された。ところが、実際に殺人事件が起こり、商店街は大騒ぎとなる。商店街に住む犬小五郎と猫マリリンが活躍する。
ミステリー通りコナン商店街
1 ちょっと話につきあってくれ、ワン!
吾輩は犬である。名前は小五郎(こごろう)という。
人間の子どももそうであるが、産まれてくる子は親と性別、名前を選ぶことはできない。だから、吾輩のちょっと意味深な名前に文句をつけられる筋合いはないことをご承知いただきたい。吾輩の飼い主は小さな薬店を経営する阿笠(あがさ)小太郎(こたろう)という頭の禿げあがった中年オヤジだ。
阿笠家の家族構成は、つまり吾輩の家族構成でもあるが、妻の裕子、長女の伊佐美(いさみ)、長男の大五郎(だいごろう)である。伊佐美は中学一年、大五郎は小学校五年だが、こやつらは吾輩が小さい時はよく面倒を見てくれたが、いまは部活や遊びで忙しいと、まったく散歩に連れていってくれなくなった。
妻の裕子は生粋の猫派ということもあって、最初から吾輩のことを無視していた。
そんなわけで、主人小太郎が毎日吾輩の世話をしている。ご主人様のことをあまり悪く言えないが、吾輩を連れて散歩する時には、吾輩を利用してギャルなどと交流する狡猾な奴だ。
「まあ、可愛い。名前はなんていうの」
「小五郎でござる。豆芝でござる」と主人小太郎はぬけぬけと言う。そして女子中学生や女子高校生たちの胸の膨らみや生足にいやらしい目を這わせている。
「おい、お前はいいな。視線が低いからスカートの中がよく見えるだろ。首輪に盗撮カメラでも括(くく)り付けるか。おまえ、この間は綾香(あやか)に頬ずりされていたな」
はあ、情けない、綾香は羽生(はにゅう)美容室の一人娘でまだ高校二年生だが、母親に似てかなりの巨乳だ。
こんな家族構成だが、また、食事や寝床などに文句を言えば切りがないが、吾輩はまあ平穏に幸せに暮らしている。
一軒隣の写楽(しゃらく)法務事務所の柴犬ミミがどこかの雑種犬と恋をして産まれたのが吾輩ということは、このしけた商店街では周知の事実である。しかし皆、小太郎に遠慮して、吾輩のことを豆芝ということにしてくれているのだ。残念ながら、吾輩を産んだ実の母親のミミは昨年亡くなってしまい、父親がどこのどいつかわからない吾輩は犬としては天涯孤独となってしまった。
東京郊外の私鉄沿線の各駅停車しか停まらないこの小南(こみなみ)駅前の、このしけた「コナン商店街」は果てしなくさびれきっている。隣の御殿山(ごてんやま)駅は急行も特急も停まるし、駅にも立派な立体舗道があり、巨大な駅ビルもそびえたち、住宅雑誌とやらの住みたい街投票とやらで、いつもベストテンに入っている町だ。さらに駅周辺には巨大な高層マンションが建ち並び、ヨーロッパ風の赤レンガが敷き詰められた舗道が特徴の商店街には多くの人々が集まっている。
それに比べてこのコナン商店街はと考えるだけで、吾輩は本当に情けなくなる。
これもすべて五年前に商店街の名前を「小南(こみなみ)商店街」から「コナン商店街」と改名したからだと、マリリン姐さんが言っていた。おっと、マリリン姐さんとは、『マロン』というケーキ屋で飼われている黒猫だ。
彼女とは犬・猫の種別、性別を越えて気があい、よくこの町内の情報交換をしている。なにしろ吾輩は昼派で夜は早寝だが、マリリン姐さんは夜行性でよく夜中に商店街の屋根の上を徘徊、いや失礼、彼女にいわせるとパトロールしているからだ。吾輩はまだ2歳だが、マリリン姐さんはすでに7歳で姐御として絶対的な権力を持っている。いまでもその黒い毛艶は妖艶に輝き、吾輩を魅了している。
「あんたのご主人阿笠小太郎と写楽法務事務所の写楽歌右衛門(うたえもん)が、商店街改悪の元凶なのよ。ミステリー好きのこの二人が提唱して、さびれた商店街の町興(おこ)しとして、『ミステリー通りコナン商店街』なんて名前にしちゃったのさ。閉店を考えていた商店街の他の店も、何かせねばと同調したのはしかたないがね。たまたま彼らが阿笠と写楽という名前だっただけなのにさ」
「えーと、『阿笠』と『写楽』? それが何か?」
ミステリーなど、主人の小太郎がテレビで見ているのを覗き見たことしかない吾輩には、マリリン姐御の言っている意味がわからない。ここはマリリン姐御に当時の顛末を語ってもらおう、なにせ吾輩は五年前にはまだ産まれてもなかったのだ。
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