北海道×宇宙医学イベント(北医起業部 × SMYJC)(2023/12/21 Thu)
北医起業部は宇宙医学の学生団体SMJYCとコラボして、北海道の医療系学生を対象にしたオンライン宇宙医学イベント『宇宙×医療〜北海道×宇宙医学の可能性〜』を開催しました。今回はその1部をご紹介します。
ゲスト講師
ゲスト講師には、東京慈恵医科大学で教員をされている墓地本宙己先生をお呼びしました。先生の航空医学研究室は、1965年に開設された日本最古の宇宙医学研究室であり、墓地本先生はJAXAにてフライトサージャン業務医師としても働かれています。
※ フライトサージャン・・・宇宙飛行士の健康管理を行う専門医
当日内容
北海道大学医学部生、札幌医科大学医学部の学生を中心に25名を超えた参加者が集まりました。先生の講義内容を一部ご紹介します。
1. 宇宙医学の始まり
宇宙医学は様々な医学分野の中で、『極限環境医学』の1つに位置します。
その理由となった歴史を振り返りましょう。
● 1903年
ライト兄弟が動力機の初飛行に成功(航空医学)
● 1953年
ニュージーランドの登山家エドモンド・ヒラリーがエベレスト初登頂(高地医学)
● 1961年
ガガーリンが有人宇宙の初飛行成功(宇宙医学)
● 1965年
アルゼンチン軍が初めて南極点到達(極地医学)
気球や飛行機によって人類が空を飛び、上空へ移動することが可能になったことにより航空医学が発展します。
1961年宇宙への最初の有人飛行が行われました。ソビエトのパイロット、ユーリイ・ガガーリン(Юрий Алексеевич Гагарин)は、ボストーク1号(Восток-1)で、108分で地球を周回し、無事に帰還、世界初の宇宙飛行士になりました。『地球は青かった』が有名ですね。
アルゼンチン陸軍の南極探検隊(Operación 90)がアルゼンチン隊として初めて南極点に到達したそうです。
このように宇宙医学は、『普通では生命維持不可能な環境』の医学:『極限環境医学』の1分野です。
2. 宇宙医学とは?
極限環境における医学の1つ、宇宙医学では、その極限環境である『宇宙環境』を次の3つに定義します。
1. Closed Environment:閉鎖環境
2. Radiation:放射線
3. Microgravity:微小重力
この環境下で、どのように人体が変化するかを観察し、そのメカニズムを解明するものが宇宙医学です。
人体は地上の1Gに適応して生活しているため、宇宙の0Gの環境に置かれたらさまざまな影響が出てきそうですよね。
実際に宇宙に放り込まれた人体の変化の様子は、以下のグラフによって知らされています。(縦軸:人体影響度、横軸:時間)
宇宙へ行って『約1.5ヶ月で適応』することが知られています。
簡単に解説をします。まず最初に起こるのは『宇宙酔い』と言われています。乗り物酔いに似た症状で、めまい、嘔吐、食欲不振などが起こります。
続いて起こるのは、『体液シフト』と呼ばれ、人体体液のうち約2Lの体液・血液が上半身に集まって顔がむくみます。(下半身はスリムになります)
※ 体液量(L)・・・人体の体重の60%が液体です。ex. 体重60kgの人は36L
このように『宇宙環境で起こる人体のメカニズム』を解明することが宇宙医学ということがわかりました。
3. これからの宇宙医学に求められること
先生から最後のメッセージとして『これからの宇宙医学に求められること』を伝えていただきました。
宇宙飛行士の健康管理
無重力をはじめとした宇宙環境で、
人体の組織・細胞に与える影響のメカニズムを解明する研究宇宙に滞在する『民間人』の診療
これからは宇宙飛行士だけでなく、『民間人が宇宙へ行く時代になる』ので『宇宙での民間人の診療』が大切になってくるとおっしゃっていました。
4. 宇宙医学を学ぶ教材
最後に先生から宇宙医学を学ぶ教材として3つ提示してくれました。
勉強してみたい人はぜひ活用してみましょう。
1. 宇宙生命科学入門・・・宇宙生物実験について網羅的に学べる。
2. Space Physiology and Medicine ・・・宇宙医学・生理学について系統的に学べる
3. 宇宙航空医学入門・・・日本の宇宙医学の学会(日本宇宙航空環境医学会)刊行の教科書
改めてご講演いただいた墓地本先生に感謝申し上げます。
北海道での宇宙医学普及へお力添えありがとうございました!!!
北海道大学医学部4年 岡本大樹