1 神社のさとこと、おならブー
No.1 決定的証拠
サングラスの越しに、目の前の女をじっくり眺める。カップを持つ指が細くて実に上品だ。歳の頃は25歳くらいだろうか。髪は長い。赤い目立つワンピースが実によく似合う美女だ。
「あなた、医師免許は?」
私は女に聞く。
「持っていません。」
女はそっけなく答える。
「じゃあ、弁護士資格は?」
私は女に聞く。
「持っていません。」
女はサバサバした様子で答える。
「あなた、完璧よ。合格だわ。」
私は満足して女に言う。
「あなた、私の若い頃にそっくりなのよ。やっぱりあなたは私の娘よ。」
私はいう。
「今の質問であなたの娘だと決めるなら、ほぼ全員が条件に当てはまるわ。私の容姿があなたと似ているならともかく。」
女が言う。
「私があなたの娘なら、あなたは一体何歳で私を産んだということかしら?」
続けて女は身を乗り出して聞いてきた。
「40歳ぐらいかしら?」
自分で質問して、女は目を細めて私を見て答えを当てた。
「せいかーい。」
私はにっこりして答えた。これで歳がバレた。私はやれやれと横を向いた。
「わお、あなたが何歳か分かったわ。若い頃のあなたが想像できない。」
女は失礼なことを言った。
「ほら。これがあなたぐらいの年齢の私。」
私はそう言って、クラッチバックから写真を取り出して女に差し出した。
女はコーヒーカップをテーブルに置いて、差し出された写真を手に取ってじっくり見る。
「やっだ。これ私じゃない。」
女が言った。
ここは、昼下がりの高級ホテルのカフェだ。静かに景色を楽しみながら、顧客はそれぞれにゆったりと流れる時間に身を任せていている。マフィアのボスの私と、若いその女はこのカフェの特等席に座って、優雅にコーヒータイムを楽しんでいるように見えるだろう。
「時代はだいぶ前だけど、確かにあなたに見えるわね。」
私は肯定した。
「でも、この写真に映っているのは、私なの。」
私は女に告げた。
「うっそ。どこからどう見ても、私よ。」
女は言った。
「だから、あなたは私に似ているということなのよ。」
私は女に言った。
「違う、違う。ぜーんぜん違うわ。これは私の写真よ。そもそも、あなたの昔の写真なんかじゃないわよ。騙されないわよ。」
女は全否定してきた。
「だーかーら。これは私の昔の写真で、あなたの写真じゃあないのっ。」
私は女に言ってきかせた。
「よろしいですか?あなた、ここに映っているのは私ですよ。」
女は呆れたと小声で言ってから、また否定してきた。
「なーにをおっしゃるの?あなたが私に似ているからって、この写真に写っている私を、あなただと勘違いされても困るわ。」
私は強めに言った。
「あなた、タヌキね?」
女がボソッと私に言った。
私は正体を当てられて、図星で焦った。
ボス、何を言い争っているんですか、と言った様子でカフェのあちこちに潜んでいる部下どもがこちらの様子を伺っているのが分かる。
「そ、そうよ。私はたぬきよ。それがどうかしたの。そもそもあなた、この写真は私なの。」
私はドスの効いた声で女に言った。
どうやら、その日、このホテルにはテレビの撮影でドラマ班がやってきていたらしい。ホテルの優雅なカフェで騒いでいる二人の女に一人のカメラマンが気づいた。そのまま様子を撮影していることに、私とその女は全く気づいていなかった。
「あなた、これは私の写真よっ!」
「あなた、キツネでしょう?」
私は女の正体に気付いて、「キツネでしょう?」は小声でささやいた。
「違うわよ!人間に決まっているじゃないっ!」
女はかなりムキになって否定してきた。
「この写真は私の写真よっ!」
女は、写真は自分を撮ったものだとまた言い張った。
エンドレスだ・・・・・
その夜、私は家の広々としたリビングで、一息ついてビールを飲んでいた。
なんの気無しにテレビをつけて、ニュースの放映をぼーっと見ていた。
そこに、昼間のホテルのカフェで言い争っている二人の女性が映し出された。
一人は六十代の結構ドスの効いた、お金を持っていそうなおばさまらしく、もう一人は若いスタイル抜群の女性のようだった。
顔には全体的にモザイクがかかっていた。
「これは、私の写真よ!」
「いいえ、これは私の写真よ!」
二人は大きな声で言い争っている。
「こういう迷惑なお客もいるんですよね、、、」
スタッフの声が入った。
私はビールを吹いた。
「え?私、テレビに出ている?」
私は嬉しさ余って、のけぞって気絶した。
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