33 未来の地球と辺境の星から 趣味のコスプレのせいで帝のお妃候補になりました。初めての恋でどうしたら良いのか分かりません!
<4章:解決>
No.94 婚約お披露目祝賀パーティー(沙織)
城で多くの人を呼んで祝賀会が開かれた。クーデーター阻止を祝う会と、帝が私を正式に紹介する会だ。帝と私の婚約が発表された。
「このたびはおめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
私はにっこり笑って美しい振袖を着た牡丹に頭を下げた。
貴和豪一族の家長は牡丹に変わっていた。牡丹は兄に変わって貴和豪一族を牛耳ることになったらしい。そこのいきさつは私もよく聞いていなかった。今度時間ができた時にじっくり聞いてみよう。
ザリガンコ・エクスロゲもいなくなった。事実上、赤の秘密結社のトップも牡丹になった。史上最高に美しい権力者の誕生かもしれない。
姉の琴乃は多くの男性陣の目を奪いながら、誰とも群れずに一人お酒を飲んでいる。姉のことだ。きっと頭の中は実家の牧場に帰って乗馬を楽しみたいと思っているはずだ。
「沙織さん。」
声をかけられて、私は振り向いた。
「五右衛門さん。」
五右衛門さんだった。
私は言葉がうまく出なかった。何から話したら良いのかわからず、焦ってしまう。
五右衛門さんは違う惑星の者だった。しかもすごい召喚術を見せられた。あれはブラックホール召喚か物質をタイムワープさせる術だ。ゲームに参加したナディアや颯介は異能を身につけたけれども、五右衛門さんはそうではない。忍術と魔術のようなものを身につけた人だ。
「五右衛門さん!」
すぐ近くに帝が嬉しそうにやってきて、私の背中に手をおいて優しく私にほほ笑んだ。
「本当にありがとう。助かった。」
「いえ、私の役目を果たしただけです。ナディアと颯介の登場が少し遅れてしまっても成功しなかったんです。そういう計算されたタイミングだっただけです。」
「すごいんだな。未来の技術は。」
「はい、私ではなく博士が算出した分岐点だったのですけれども。」
五右衛門さんは私たち二人の顔を見てすがすがしい笑顔を浮かべた。
「あの瞬間のおかげで、全てが良い方向に未来は変わっています。」
「そうなのか?」
「はい」
「私の今の別荘は木星にあります。宇宙鉄道で地球から木星までは小一時間です。」
「ほお?」
帝は頬を緩めて嬉しそうだ。颯介ならきっと東京―大阪間で木星に?というだろうと私は内心思った。
「N5062星雲に私の両親がバカンス先を見つけました。今、そこが6時間くらいでいけますよ。」
「なんと。」
帝はなんだかロマンを感じたようで、右手にもったお酒の杯をぐいっとあおって晴れ晴れとしたご様子になった。颯介なら東京ーハワイ間ぐらいと言うだろう。
「いつか行ってみたいな。」
「はい、沙織さんもいつか。」
「いえ、もう、歴史を変えたと言われて怒られるのは大変ですから。」
私は慌てて辞退した。
「我々はそれは言わないですよ。」
五右衛門さんは笑って言った。
「私の時空召喚術は地球に限定されて可能なんです。宇宙空間を隔てては、まだまだできないのですが、いつか必ずマスターしたらご招待します。」
「ありがとう!」
帝は始終嬉しそうだった。
「みなさん、ここにいる私の妻となる沙織の、奉行所の同僚である五右衛門さんがこちらです!」
帝は声を張って祝賀会にいる皆に五右衛門さんを紹介した。
「ぜひ、素晴らしい方ですのでお見知りおきを。」
「ありがとうございます。改めて、ご婚約おめでとうございます。」
五右衛門さんも杯をグッとあおって祝ってくださった。
No.95 ジュスタン・デイ・サヴォイアル伯爵の時空を超えた後始末
さて、物語を一区切りするタイミングで、いよいよ私の登場だ。
私はジュスタン・ディ・サヴォイアル伯爵。
私は訳あって永遠の二十歳だ。伯爵家のキッチン横の扉を使って久しぶりに1512年の我が家にワープした。西暦2018年から、1512年の秋へ。ガッシュクロース公爵夫人を訪ねるためだ。
ワープを手伝ったのは、ナディア・ガストロノムバックストッカー。彼女は2018年に生きる大富豪だ。裏の顔は国際スパイ。
「よう、昔の私!」
私をみた時の1512年のジュスタン・デイ・サヴォイアルは幽霊でもみたような顔で私を見つめた。彼はしばらく言葉を失っていた。中世ヨーロッパの伯爵として生きる1512年のジュスタンは、自分が永遠に生き続けるとは知らないのだ。
「お前は未来の私か?」
「そうだ。私は未来から来た。」
そう言われた1512年のジュスタンは激しくうろたえた。
「久しぶり、ジュスタン。」
そこにナディアが声をかけた。
「ナディア、これは一体?」
「詳しくは聞かないほうがいいわ。貴族の服が必要なのよ。ほら、未来ではその服はもうないから。」
ナディアはそう言った。
「貴族服がなくなる時代まで、私は生きるのか?」
「その未来の私が来ているのは、颯介と同じユニクロとやらに見えるが?」
1512年のジュスタンは呆然とした表情で、私の着ている服を指さして言った。
「ご名答。そうだ。未来の颯介とナディアが生まれてくる時代まで私は生きるのだ。」
2018年から来た私は過去の私にそう答えた。
「なんと・・・」
ジュスタンは苦悶の表情になった。そうだ、自分一人だけ数世紀にわたって永遠生き続けると聞かされると、そういう顔になるだろう。
「とにかく服を貸してくれ。重要な用事を果たさなければならない。お前も未来になれば今日の日の意味がやっとわかる。」
私は中世ヨーロッパに生きる自分にそう言った。
「分かった。」
というわけで、私は中世ヨーロッパの我が家の衣装室で一番高価な貴族服に袖を通した。王に謁見した時の服だ。
ナディアは私の亡くなった妻の豪華なドレスを着た。彼女は以前も着たことがあるので手慣れた様子で着こなしていた。
そして我々二人は、ガッシュクロース公爵夫人のオーストリアにある避暑地の城を尋ねた。
城の執事に我々二人は、黒の秘密結社の名前を名乗った。
「マブリマギアルナアブロッシュ。」
慇懃な表情をした執事は、その言葉を聞くと、一瞬で顔に緊張を走らせた。執事らしくもなく慌てた様子で駆け込むように城内に姿を消した。
こうして大きな玄関ホールで待たされること数分、すぐに城内に通された。
シンデレラが降りてきそうな贅沢な作りの階段を執事に続いて登って階上の客間に通された。
執事に部屋に通されてこれまた待つこと数分、メイドに出されたお茶を飲んでいると、ガッシュクロース公爵夫人がようやく部屋にやってきた。
歳の頃は三十代だろうか。鋭い一瞥をこちらに向けると、私とナディアを見極めるかのような表情を浮かべた。
「あなたがたは一体どなたなのかしら?」
夫人はたったまま、私たち二人に尋ねた。警戒しているのであろう。
「失礼。赤の組織からの使者です。」
ジュスタンが貴族式の挨拶を丁寧にして穏やかに告げた。
「赤・・・」
夫人は何事かやっと理解できたようだ。
「分かったわ。三人だけにしてくれる?」
夫人はそばに仕えていたメイドにそう告げた。
メイドはうなずくとそっと部屋からでていき、客間の扉が閉められた。
「あなたが送った手紙は赤の組織に届きました。あなたに依頼されたことを、赤は完璧に遂行しました。」
ガッシュクロース公爵夫人はそれを聞くと、安堵の表情を浮かべた。
「まあ、わかりました。伝えてくれてありがとう。」
「つきましては、この件は示談にしていただきたいのです。」
私はそう言って金塊を差し出した。
そう、大富豪のナディアからもらった金塊を二つも差し出した。
「まあ?なんと見事な!」
そう、未来の技術でなければこれほど綺麗な金塊は1512年ではお目にかかれない。
しばし、沈黙の瞬間が流れた。
「良いですわ。わかりました。この件はこれでおしまいということで。」
夫人はにっこりと微笑みすら浮かべてそう言った。
クーデターは起きた。しかし、そのクーデターはナディアの活躍で食い止められた。歪みなく、数億年にわたる地球の歴史を続けるのであれば、その線に従った後始末が必要だったのだ。
私とナディアはこうして役目を果たして、1512年のガッシュクロース公爵夫人の城を去った。そして、同じ時空にある中世ヨーロッパの伯爵家に戻り、1512年に生きるジュスタンに別れを告げた。
「やがて必ずこの時の意味がわかる。」
私は、1512年の私に固く約束し、熱い抱擁を交わして2018年に戻った。
2018年に無事に戻ってきた時、颯介とナディアと一緒に祝杯をあげた。
「我々の地球に乾杯!」
「我らがジュスタンに乾杯!」
「我らが同志に乾杯!」
No.96 初夜の前は断じてなりませぬ(沙織)
帝の手がゆっくりと私の頬に触れる。
私は息が止まりそうな魅惑に引き込まれそうになる。帝の瞳の中で私が揺れているのが見える。
「沙織。」
帝の声が私の耳元で優しく響く。肩に手がおかれて、唇に帝の唇が重なる。そのまま着物の帯がするすると解かれる。
衣ずれの音だけ響く。帯がはらりと床に落ちた。
私の着物の前が開けられる。あらわになった肩に帝の唇がそっと押し付けられる。
私は耐えられずに思わず小さな声をあげてしまう。
「しーっ」
帝はささやき、私の唇に人差し指を軽く押し付ける。
そのまま帝は私の腰に手を回し、着物が床に落ちた。私の胸があらわになり、帝が息を飲むのがわかる。
帝の手と唇が私の胸に近づく。
私は頭の中でまずいという思いと、このままでいたいという思いで葛藤する。
その途端、扉が吹き飛んだ。
「きゃあ!」
「え、なに!」
私と帝が叫ぶ中、美しい忍びが一回転して飛び込んできて、すたっと着地した。
「姉上!」
「琴乃さん?」
「沙織、さあ、お着物を着なさい!」
姉の琴乃はすました顔で床に落ちた着物と帯を私に放ってよこした。
綺麗な花模様の着物がふわっと空中に舞い、私の体にかかった。
「帝?挙式まではなりませぬ!」
「あ、あ、あ、あ、そ、そ、そうですね。」
姉の琴乃はそのまま帝に詰めより、帝を壁際に追い詰めた。ほんの数センチのところまで顔をグッと近づけて、手を壁に激しく打ちつけた。帝は、姉のあまりの剣幕にビクッと飛び上がった。
「なりませぬ。」
「よろしいか?」
「帝、お返事は?」
姉の琴乃に壁ドンされた帝は、真っ赤な顔でおろおろとうなずくだけだったが、返事をさいそくされて慌ててうなずいた。
「聞こえない!」
「わ、わかりました!」
帝は大きな声で叫ぶように返事をした。
「わかればよろしい。」
姉の琴乃は美しい顔に不適な笑みを浮かべて、私と帝をねめつけるようにみた。
「初夜の前は断じてなりませぬ。」
「うおーっちゆー」
そうささやくと、姉の琴乃は背筋を伸ばして部屋を出て行った。