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蝋細工のような梅

ロウバイに出会ったのは約30年前、初めて訪れた横浜市内の公園。
生まれ育った愛知から、夫の転勤により二か月ほど前に神奈川へ転居。
社宅近くの広大な公園へ、親子三人で出かけた時のことだった。

木の看板に書いてあった「ロウバイ」
とっさに「狼狽」という字を思い浮かべた私は、
大学受験期の頃を思い出し、苦笑してしまった。


父はサラリーマンだったが、
たまたま転居を伴う転勤はなく、
私は生まれてからずっと愛知に住んでいた。
両親、祖父母、伯父伯母、叔父叔母はみな愛知県民。
地元で一生過ごすのが何より幸せ、と皆が思っている。

地元の高校、大学、
自宅から通勤可能なところに就職。
そして転勤のない地元の人と結婚、
スープの冷めない距離に新居を構え…

両親が思い描いていたであろう娘のライフプランだ。


その大きな期待を全身で感じつつ、最終的に応えることはなかった。
重く硬い扉をこじ開け、私は広い世界へと羽ばたいたのだ。



当時の国公立大学入試は共通一次試験を受け、
自己採点後二次試験での志望大学を出願するシステム。
希望していた第一志望大学のボーダーラインには、
残念ながら届いていなかった。
どこに変更しようか検討し、親に提案してみた。

このまま志望校を変えずに受験しても合格の見込みはないから、
可能性のある県外の大学を受験したいと思う。
近隣の県だし、受けるだけならいいよね。

絶対にダメ
受けるだけなら受けなくてよい
浪人はダメ
自宅から通うことが条件
国公立以外なら短大へ


私の学びたい事や希望ではなく、
親の意向で進学先が決まってしまう。
学費は親に出してもらうのだか、どうしても納得がいかなかった。

高校の担任に相談すると、
いくつか私立の女子大、短大の名を挙げられた。
その中には母の出身校も含まれていた。

私はその四年制大学を第二志望とした。
じっくり学び資格を取得したい。
部活動もしたい、日本全国を旅したい、アルバイトもしたい…
それには二年では短すぎると感じていたから。

母校は名古屋の女子大御三家といわれる一つであるが、
ネームバリューではなく、母と同じ学び舎という安心感があった。
そしてなにより賛同を得られそうな気がしていた。


県外の大学は受験しない
国公立は第一志望大を受験する
挑戦校~安全校は短大も含め5校受験する

結果、第一志望大以外は合格。
めでたし、めでたし
ではなく、ここから更に葛藤は続いた。


女の子が四大に行くと嫁の貰い手がなくなる、短大へ行け!


今の時代では考えられない暴言である。
しかし両親から真顔で言われた私は相当困惑した。

ついに我慢できなくなり、
「教育、心理学をじっくり学びたい、
 将来は幼児教育に携わりたい、
 ○○大学の四年制に行かせてください」
と懇願。


「狼狽」していた両親だったが、ようやく納得してくれた。
第二志望の四年制大学への進学が許された瞬間だった。


よくやったぞ私。

その後もしばしば両親との葛藤は続くが、
これはまたいつか機会があれば…



ロウバイ
蝋細工の様な梅

優しい香りと共によみがえる、受験シーズンの思い出。

繊細な花びら
蝋細工のよう


学名 Chimonanthus praecox
科名 ロウバイ科
属名 ロウバイ属
和名 蠟梅 蝋梅 黄梅
原産 中国



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