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二度目の恋 第1話

 人はどんな恋をするのだろうか。

 オレにとって、二度目はない。そう思ってる。オレは北山司(きたやまつかさ)。いつの間にか、45になった。未だ、ひとりでいる。オレは生涯、多分誰とも結婚なんかしないだろう。この先もずっとひとりでいるのだ。あの女のことだけを思ってね。

 オレの仕事は、大型汎用機と言われた時代のコンピュータのプログラマーをやっている。今の時代にこんな時代遅れな仕事をしているなんて、不思議に思う人もいるかもしれないが、この仕事も、実は細々と続いている。こんな仕事だから、やっているのは男ばかりだ。それもオレと同等、いやそれ以上の年齢の人ばかりだ。若い子はいない。本当に人手が足らなくなったら、補充するのだろう。オレはこの仕事に満足している。こんな仕事ができる人材はあまりいないので、それなりの給料をもらっているからだ。恐らく、老後もひとりでやっていけるだろうくらいには、貯蓄も貯まっている。

 ここ何年かは、会社と家の往復ばかりだ。休みの日にも誰とも会うこともない。そんなオレのところに、ある手紙が届いた。同窓会の案内だった。中学の時のだ。オレにとっては一番思い入れがある時期だった。それなのに、誰とも連絡を取っていない。まあ、せっかく案内を送ってもらったんだし、行ってみようか。オレはそんな気になっていた。

 中学の時、オレには一目惚れした子がいた。自分でも不思議なくらい積極的になって、彼女にアタックをした。彼女は鹿野香澄(かのかすみ)といって、割と背の高い、オレにとっては可愛らしい感じのする子だった。

 彼女はオレからの求愛に、ごめんなさいとは言わなかった。でも、本当に好いてくれてるのかもよくわからなかった。デートも2、3回くらいした。といっても、ふたりで話をしたくらいのデートだったけどね。彼女は歩いて20分くらいのとこに住んでいたけど、手紙をよく書いた。当時は電話か手紙。そんなもんだった。学生のオレらにとって、電話は高くつくので、やはり手紙が主流だったのだ。どんなやりとりをしたのか、今となっては覚えていないが、最後に彼女からの手紙の中で、「私だけじゃなく、もっといろんな人と付き合ってみれば?」と言われたことが、当時のオレには、嫌われたんだとしか思えなくて、それ以上付き合うことはなくなった。たったそれだけでしかなかったけど、オレには忘れられなくなっていた。みんなからには「だんだん恋に恋してるって感じになるんだ」とか言われたりした。でもオレは、またいつか、偶然会って再燃するかもしれない。そんなことばかり考えていた。だから、他の女になんか目も向かなかったんだ。

 そんな彼女も来るのだろうか。オレは当日を思い、年甲斐もなくドキドキしていた。そうなると仕事もそっちのけで、早くその日が来ないのか、そればかり頭を駆け巡った。どんな服装で行けばいいんだ?どんな髪型で行けばいいんだ?できるだけ自分を良く見せたい思いでいっぱいだった。中学卒業から30年、みんなどうなっているんだろう。でも、香澄のことが、一番頭の中に膨れ上がっていた。

 当日、オレはドキドキしながら、会場に向かった。来ていたのは20人くらいで、男女ほぼ半々だった。

「いや~、おめ~全然変わらんなあ。」
「だいぶ、薄くなったよ。」
「貫禄でてきたな。」

 男どもはだいたい誰だかわかったが、化粧するとわからなくなる女子たちは、わかるまで時間がかかった。でも、みんな旧姓の名札を付けておいてくれたので、わかりやすかった。その中に、オレのお目当ての彼女も来ていた。オレはすぐには話をすることができなかった。でも、やはり何も変わってなかった。オレにとって、香澄は中学のままだったんだ。

 同窓会では、まあ30年も経っているんで、それぞれ自分の近況を話していくことになった。オレ以外みんな既婚だった。まあ、そんなもんだろう。すぐにオレの近況を話す番になった。

「北山です。今は、製造業の会社で、大型汎用機というコンピュータのプログラマをやっています。」
オレが簡単に話を終わらせようとすると、みんなから質問が挙がった。
「結婚してるの?お子さんは?」
「オレはまだ独身です。」
「ええ~、うっそ~。」

 ちょっと意外だったのかも知れない。オレは、雰囲気的にいい家庭を築いているように見えたみたいだった。だから、オレが独身だということは、みんなにはとっても意外だったのかも知れなかった。

 香澄は当然結婚していた。お子さんもいるって言っていた。そうだよな、もう45だもんな。
「でも、意外ね、北山クンが独身だなんて。」
「鹿野さんと別れたからなん?」
「いや、そんなことないよ。」
でも、内心、そうだ、とつぶやいていた。

 オレの傍に彼女がやってきた。
「結婚してなかったの?」
「まあね。」
「私のせい?」
「いや、そんなことないよ。」
「なんか、申し訳ない気持ちになるわ。」
「気にすんなよ。たまたま、出会いがなかっただけだよ。」
「そう?」
「ああ、そうさ。」

 でも、本心はそうじゃない。いまでも、オレは彼女にぞっこんだった。30年という月日が経っても、オレの気持ちは変わってなんかいない。でもいまさら、そんなこと、言えやしない。彼女はすでに結婚していて、家庭がある。オレの入る隙間なんてないんだ。そう思うと、なんか絶望感しかなかった。

 その後、2次会とかあったけど、オレは1次会で帰った。もう十分だ。彼女の近況もわかったし、もうこれ以上話してもなんかつらいだけだった。

 家に帰ると、電気のついていない、いつもの淋しい部屋だ。これから先もずっと一人で生きていくんだろう。また、いつもの生活が始まっていくんだろう。

 しばらくして、会社でオレに声がかかった。えっ、なんで?そりゃ、若い時には何度か声はかけられたことはあったが、この年になってからはとっても久しぶりだ。きっとからかわれているだけなんだろうと思ったが、どうやらマジだった。

「明日、合コンなんでお願いしますね。」
「オレなんかでいいのかよ。」
「だって、北山さん、独身でしょ?」
オレが独身だから誘っているのか。まあそうだよな、普通。彼女なんて作る気もないけど、たまにはそういう場にいってみるのもいいのかも知れない。

 合コンは5人×5人だった。当然、オレが最年長。20代、30代、40代とバラエティに富んでいる。相手もまあそんな年代のメンバーなんだろう。だが、行ってみてびっくりした。全員20代。そりゃ、無理がある。ええとこ、男は30代までだろう。オレは早々に帰るつもりになっていたが、とりあえず、しばらく付き合うことにした。早速、自己紹介だ。20代のヤツから順に自己紹介を行って、最後のオレの番になった。

「オレは北山と言います。年齢は45歳、仕事はコンピュータのプログラマをしています。」
だが、そんなオレの自己紹介に意外な反応があった。誰が言ったのかわからなかったが、「ステキ」という声が聞こえた。まさかな、聞き違いだろう。

 まずはそれぞれが座った近くの人同士が話をしていたが、一旦席を変えることになった。オレの横に来たのは、最年少の22歳の子だった。ちょっと年が離れ過ぎだよな。
「北山さんは、20代でもいいですか?」
何言ってんだ?
「どういうこと?」
「えっと、歳の差って、気にする方ですか?」
「まあ、普通そうじゃない?」
「私じゃ、若過ぎますか?」
「オレの感覚からするとそうだね。」
「でも、彼女作りにきたんでしょ?」
ここで、人数合わせだったなんて言えないな。
「まあ、そうだけど。」
「だったら、いいですよね。私、北山さんの隣でいろいろお話したかったんです。」
マジか!
「そうなんだ。オレのどこがいいの?」
「私、同年代より、北山さんくらいの方がいいんです。」
変わった子だな。
「そうなの?でも、話合わないと思うよ。」
「大丈夫です。初めて聞く話が新鮮なんです。」
そんなもんかな。でも、あんまり弾まないと思ったけど、結構、盛り上がった。オレも久しぶりに若い子との話を楽しんだ。

 帰り際に、彼女は連絡先の交換を求めてきた。
「LINE交換して下さい。」
「オレ、LINEはやってないんだよ。」
「じゃ、メール?」
「だね。いいかな?」
「はい、大丈夫です。」
まあ、一応交換しても、それっきりというのもあるし、あまり気にしないとこ。でもほんと久しぶりによくしゃべった。あの子、ほんとにオレが気に入ったんだろうか。

 翌日、昼休みは昨日の合コンの話で盛り上がった。
「北山さん。河合つばささんとよくしゃべってましたね。オレ、狙ってたのになあ。」
「なんや、そんなら、遠慮せんと、話すればよかったのに。」
「だって、せっかく、いい雰囲気になっているのに、お邪魔できないっすよ。」
「20以上も離れているのに、付き合うなんてないだろ。」
「そうですか?最近、そういうの多いっすよ。」
「ほんまか?」
「芸能人にもそんなのいるし、歳の差カップルというのも、いい感じっすよ。」
マジか。本当にそんなことになるなんてことはないだろう。

 結局、5人中、オレをいれて3人がいい感じだったそうだ。なんとなく、ちょっと若返った気分だった。まあでも、自分から連絡なんか、よう取らんし、どうせ来んやろう。あの時だけの楽しい思い出だ。そう思っていたんだが、彼女からメールが来た。マジか。

 長々と書いてあったが、要はこの前のお礼と、今度、会いませんか?ということだった。ふ~ん、そっか。って、会わないかってか?絶対、物好きなんだろう。こんなおっさんのどこがいいんだ。とは、思ったが、もう一度、会って話をすれば、やっぱりってこともあるだろうし、まあ、自然消滅するだろう。オレはそう思って、彼女に会うことにした。

(つづく)

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