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「無麻酔スケーリング」について思う事

「無麻酔でのスケーリング(歯石取り)」問題ですが、とても注意喚起されている事案ですよね。動物病院スタッフの立場から言うと、やっている動物病院もあるけれど、私は反対派です。
おススメできない理由はたくさんありますが…とにかく危ないし痛いし治療にもならない。良いことないよ!ということです。その理由を説明したいのですが、少し変わった切り口にしてみようと思います。
「無麻酔スケーリングを、安全かつ意味のある医療行為とするための5つのポイント」
不可能なのですが…もしも系のファンタジーだと思ってください。

●法律違反をしないこと

「歯垢・歯石除去の際に出血などの危害を及ぼす恐れのある行為は診療業務に相当する」(農林水産省)ということで、スケーリングはデンタルケアではなく診療業務です。
また、「獣医師でなければ飼育動物の「診療」を業務としてはならない」(獣医師法)という点から、獣医師以外が行うと法律違反です。施術者は獣医師免許を有していることが大前提です。ちなみに動物看護士も国家資格化しましたが、診療業務はできません。

●エナメル質を傷つけないこと

エナメル質とは、歯茎から上の歯を覆っています。エナメル質があるおかげで、歯は歯として機能します。
エナメル質が欠けたら、下にある神経に刺激が伝わって痛みが生じます。

エナメル質は再生しません。欠けたらそのままです。人間はエナメル質が摩耗したり、歯茎が下がってエナメル質が無いところに水や食べ物が当たって痛みを生じたりすると、「知覚過敏」として歯医者さんに行きます。歯医者さんでコーティング剤を塗ってもらったり、クラウンで覆ってもらったりして痛くない状態にします。


動物のエナメル質は、人間よりかなり薄いとされています。エナメル質を傷つけないように、歯石取りをするときは「超音波スケーラー」を使います。(キーンという歯医者さんの機械音はこれです)刃物付きのハンドスケーラーで表面をガリガリ削るより、超音波で歯石を砕いたほうがエナメル質に優しいからです。ハンドスケーラーを使うときは、顕微鏡で歯を良く観察しながら…という専門医もいるほど、エナメル質は大切です。超音波スケーラーを動物が受け入れてくれるなら、またはハンドスケーラーでエナメル質を傷つけない技術を有している人が行うべきです。

●治療として成立すること

スケーリングは診療行為なので、歯周病を診断して治療することを含むはずです。歯周病治療とは、歯石を取る事ではなく歯周ポケットの汚れを取り、歯と歯周組織をくっつけることが目的です。
歯周ポケットがそのままになっていると、その溝から歯周病菌が掘り進んで歯の根元に到達します。そうなると「歯周病で歯がぐらつく」ことになります。歯周ポケットは歯を取り囲んだ全周にできるため、歯の前後左右からアプローチする必要があります。

●怪我をさせないこと、しないこと

歯医者さんのように口を開けておいてもらう必要があります。顎に負担をかけない形で、処置が終わるまで口をあけておいてもらわなければいけません。
顎を開けすぎると顎関節に障害が出ますし、猫ちゃんは構造的に口を開けている時間が長いと、血流障害をおこし失明するリスクもあります。
歯周病に関して言えば、歯石と一緒に除去された歯垢は菌の塊です。飲み込んだり、誤嚥したりしないよう(言葉で説明できればですが)動物によく理解しておいてもらう必要があります。
また、自己責任で獣医師が怪我をするのは構いませんが、人に怪我をさせてしまった動物と、その飼い主様がいることを忘れてはいけません。そういった意味で、彼らのために怪我をしないことも大切です。

●動物にトラウマを作らないこと

人間でも、子どもは歯医者と耳鼻科が苦手です。口、眼、耳など感覚器にアプローチする診療科は嫌われやすいです。
しかし、「トラウマになるくらい酷い事」はそうそう起こりません。動物のスケーリングでも同様に、医療者が自らトラウマを作りに行ってはいけません。
飼い主様とお出かけして楽しい気分だったのに…
そこから一転し、台の上で押さえつけられ
口をこじ開けられて刃物の付いた棒で歯をガリガリされた後、
何なら歯茎や舌を切って痛い思いをする…
家に帰っても顎が痛くて好きなオヤツからも血の味がする…
これを「トラウマにならないよう上手くやる」必要があります。

以上が「無麻酔スケーリングを、安全かつ意味のある医療行為とするための5つのポイント」です。
こんなにもハードルが高いなら、絶食して病院の麻酔下で処置してしまったほうが良いでしょう。
ちなみに無麻酔であれば費用負担は軽くなりますが、欠けた歯の修復や食欲不振の治療で診察した場合の負担は含まれません。そして口臭は改善せず、歯周病が進行して歯を失うリスクを考えたとき、果たして無麻酔のメリットとは…?
ふざけたタイトルを付けてしまいましたが、動物の健康と、飼い主様と一緒に過ごす楽しい気持ちを守ることも、獣医療者の仕事ではないかと思うのです。
無麻酔スケーリングに限らず、処置をする場合はメリットとデメリットをよく検討しましょう。

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