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猫と妊婦さんのトキソプラズマ症

動物病院では、たまに「トキソプラズマ」について、妊婦さんからご質問いただきます。猫の飼い主さんが結婚してママになることは、よくある事です。婦人科では、胎児への胎盤感染でおこる「先天性トキソプラズマ症」について説明を受けると思います。
病気についてネットで調べると怖い事が記載されていて、うちの猫は大丈夫かな?と心配になりますよね。また、ご実家に猫ちゃんがいる場合などは、帰省してもいいものか悩んでしまいます。トキソプラズマ症はどんなリスクを持つ病気なのか、ここで解説していきます。

トキソプラズマとは?

そもそもトキソプラズマは、寄生虫です。原虫というカテゴリーの生物が、自分の繁殖のために宿主として動物を利用するため、寄生された組織に問題がおこります。

トキソプラズマ症は、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)というアピコンプレクサに属する一属一種の寄生性原生生物(原虫)により起こされる感染症である。トキソプラズマはほぼ全ての温血脊椎動物(哺乳類・鳥類)に感染能を持つ。

国立感染症研究所HPより



トキソプラズマは「経口感染」します。感染力をもつ虫を、口から摂取して感染が成立するという事です。下記の2パターンあります。

●オーシストから感染する

トキソプラズマ症は、猫科動物が終宿主(寄生虫が繁殖して子孫を残すステージに利用される宿主)です。その他の動物は中間宿主(寄生虫が成熟するために利用される宿主)です。
ほぼすべての動物に感染する寄生虫ですが、猫がピックアップされるのは終宿主だからです。
猫の便からはオーシスト(子供の寄生虫が殻に入ったようなもの)が排出されます。トキソプラズマのオーシストは、感染できるようになるまでに24時間程度の時間を要します。オーシストは乾燥や温度変化に強く、感染できるようになってから動物の口に入って感染が成立するまで、数年単位の長い時間を砂や土に混じって過ごします。

●寄生虫入りの筋肉から感染する

トキソプラズマは中間宿主から中間宿主への感染が成立します。口から入ったトキソプラズマは、宿主の免疫に追い出されないように、筋肉や神経の中に隠れて成長します。生肉がダメな理由は、筋肉に隠れている虫も感染力を有するからです。しかし、オーシストと違いこのステージの虫は抵抗性が強くないため、加熱で感染力を失います。

猫に感染したらどうなる?

症状が明確に現れず、感染に気付かない場合もあります。
一般的に急性期は、食欲不振、発熱などが見られます。筋肉や神経の組織に慢性的に感染した場合、食欲不振、発熱、貧血、心筋障害、中枢神経障害、眼病変をもたらします。
神経発作をおこす原因の一つにトキソプラズマが関係していることもありますが、最近は野良猫ちゃんが減ったため、診断される機会はかなり減りました。

トキソプラズマ症の特徴まとめ


・ほぼ全ての哺乳動物と鳥が感染する
・猫科動物は「終宿主」、その他の動物は「中間宿主」
・「終宿主」便にオーシスト(子供の寄生虫が殻に入ったようなもの)を排出する
・感染後は、筋肉や神経に隠れて成長する
・感染は、猫科動物が排出するオーシストを飲み込むか、虫がいる生肉を食べることで成立する
・症状は様々だが、食欲不振や発熱、心筋障害、神経発作を起こすことがある

感染が成立する条件や可能性

感染を防ぐため、知ってほしい事はいくつかあります。

●猫が感染していてもオーシストを排出しない期間、かなり排出量の減っている期間があります。口から感染して、便に出てくるまでに数日~2週間程度かかり、10ー14日ほどは大量のオーシストが排出されます。それ以降は虫が筋肉に隠れてしまうため、オーシストの排出は減り、感染が成立しにくくなります。免疫力の低下などで再活性化する可能性はあります)。そして、排出されたオーシストが成熟し感染能を獲得するまでに少なくとも24時間を要します。

過去に感染している場合、次の感染がおこっても免疫が働きます。これは妊婦さんにも言えることで、妊娠前に感染していた場合は、抗体を有しているため胎児へ胎盤感染はおこりません。血液検査で感染歴は確認できるため、婦人科でご相談ください。

●妊婦さんが感染しても、胎盤感染する確率は30%程度、さらに胎児が先天性のトキソプラズマ症を発症する確率は20%弱とされています。

筋肉の中の虫は、67℃になるまでの加熱、あるいは中心が-12℃になるまでの凍結が有効とされています(レンジは中心の温度が確実に上がる保証がないため、加熱が推奨されています)。

妊婦さんに推奨される対策は?


上記を踏まえて、やった方が良いトキソプラズマ症対策は4点です。

生肉、井戸水、公園の砂場やガーデニングの土、新しい猫の導入や野良猫との接触は避ける

・口周りを触る前、物を口にする前に手洗いする(石鹸で寄生虫は死滅しませんが、オーシストの数が減ることで感染率は下がります)

・飼い猫は室内飼育する(感染の機会を減らす)

便は24時間以内に処理する、または家族にやってもらう

トキソプラズマは中間宿主からも感染するという特徴のある寄生虫で、私たちに身近な存在の猫科動物が終宿主であるという点から、感染対策が啓蒙されています。
しかし、正しい知識を持って対策していれば、必要以上に怖がることはありません。幸せなペットライフを!


【参考文献】
国立感染症研究所HP 
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/3009-toxoplasma-intro.html
獣医師会HP  https://x.gd/bQaQU


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