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ペットの「旅立ち」について知っておいてほしいこと

ここ数十年で、動物と私たちの距離はとても近くなりました。
以前は外で飼育され、病気の発症が寿命であった動物たちは、室内で大切にされ病気は治療する・予防する時代になりました。
彼らと私たちはパートナーや家族、親友となり、かけがえのない存在です。

成人したり、結婚したりして、いつか独立していく人間と違って、動物たちはずっと幼く、変わることなく側にいてくれます。私たちの人生そのものを、一緒に生きてくれているような存在です。

彼らとの別れは、誰しもが考えたくないテーマであると思います。しかし、動物の寿命は私たちより短いということも、忘れてはいけません。彼らが病気になったとき、旅立とうとしているとき、私たちは何をしてあげられるのか、そのヒントは「グリーフケア」にあります。
「グリーフ」とは、大切なものを失う経験、または失うかもしれないと感じたときにおこる、心と体の反応のことを言います。

卒業や失恋もグリーフの一つです。大切な家族である「うちの〇〇ちゃん」が病気になったとき、私たちは日常を失うというグリーフを抱えます。寿命に関わる病気でなくても、闘病はグリーフです。
大きなグリーフに直面したときに、3点お願いがあります。

●インターネットに時間を盗られないでほしい

病気が分かった時、ご家族はとてもショックを受けます。
出来ることなら、「いま伝えられたことが嘘であればいい」「どこかにブラックジャックのような名医がいて、どうにか救ってくれるかもしれない」「よく効くサプリメントや薬が世界のどこかにあって、手に入れることができれば助かるかもしれない」と考えます。

セカンドオピニオンを検討することは、手段の一つであり間違っていません。しかし、残りの時間が少ないとき、インターネット検索に時間を割いてほしくないのです。
動物にとってパソコンやスマホを長時間、真剣に見つめる飼い主様は、どう見えるでしょうか?自分の体調が良くないことは、ペット自身にも分かります。
そんな時、家族に話しかけてほしい、笑いかけてほしい、抱っこしてほしい、そんな気持ちでいるのだとしたら、向き合ってあげて欲しいのです。

●たくさん名前を呼んでほしい

動物たちはとてもポジティブに生きています。
いつものようにお散歩で走って、同じようにフードを食べ、時には抱っこして!と飛びついてきたりします。
そんな時、この子は病気だから「体にいいものを食べなくてはいけない」「走ったりなんかしたら、病気が悪くなるかも」「抱っこして痛いところに触ったら可哀想」と、大切であるが故に考えてしまいがちです。

しかし動物には、その違いが分かりません。家族が同じようにしてくれないことを、不安に感じるかもしれません。病院への通院などが増えていれば、尚更です。病気になっても、可愛いうちの子です。見た目が変わっても、鏡を見て落ち込むことはありません。ポジティブに生きることを応援してあげましょう。そして、たくさん褒めて、名前を呼んであげてください。

「名前」は特別です。家族になったときに、最初にあげたプレゼントです。たくさん名前を呼ばれることは、彼らにとって幸せなことです。

●日常を変えないでほしい

日常が当たり前にあることが何より大切で、難しいことだと思います。ご家族だって大きなグリーフを抱えています。上手く笑えない日も、落ち込んで涙が出る日もあります。
ただ、日常は動物にとって、とても「安全」で「安心」です。
動物病院で嫌なことがあっても、家に帰ったらいつも通り!よかった!もう大丈夫!その安全と安心が、1番のプレゼントです。家で笑えないときは、動物病院を上手く使ってください。病院でグリーフを吐き出したら、笑顔で接してあげられるはずです。

●頑張ることと、頑張りすぎることの境界線は、とても微妙

動物たちは、ご家族の期待に応えて頑張ろうとすることが多いように思います。頑張りすぎていると感じたときは、「頑張らなくてもいいよ」と勇気を出して伝えてあげましょう。

●旅たちのタイミングはそれぞれ

共働きや一人暮らしの世帯で、動物と暮らす方も多くいます。病気の動物にお留守番をさせることに、後ろめたさを感じるご家族もいらっしゃいます。
とくに「看取り」ができないかもしれない不安というのは、大きなグリーフです。仕事をお休みになったり、ペットカメラを設置したり、不安の解消法はいくつかあると思います。
私たちからお伝えできることは、お留守番だって「日常」です。もう少しで家族が帰ってくるかな?帰ってきたら撫でて名前を呼んでもらえるかな?と感じながら、日常の中でお迎えが来ることは、決して不幸ではありません。

グリーフは誰しもが感じることです。大切なうちの子であればある程、その程度は大きくなります。後悔しないお別れはないのかもしれません。しかしながら、同じ時間を過ごしているうちに、たくさんのプレゼントをしてください。特別なものではなく、必ず「日常」をプレゼントしてください。

少し重いテーマではありますが、いざとなってからではなく、いま知っておいてほしい事をつづらせてもらいました。みなさんと動物の生活が豊かでありますように、私たち動物病院スタッフもお支えします。

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