金魚鉢
金魚鉢み〜つけた!
子供の頃、金魚鉢がやたらと欲しくて、お小遣いをためて買ったことがあった。
まぁるいフォルムにヒダヒダのフチ、その上部にブルーの縁が描かれた涼しげな一品だ。
なんでそんなにそれが欲しかったのか、よく覚えていないが、たぶんかつて、母が水槽で金魚を飼っていたことが影響していたんだと思う。
母は、赤や白の優雅なフォルムの金魚や、ちょっとひょうきんな形の黒いデメキンが泳ぐ水槽を、下駄箱の上に置いていた。
餌をあげたり、時々、水を変えたりして世話をしていたのだ。
ある時、水を変える時に勢いがついて、金魚が水槽の底に頭をぶつけてしまったそうだ。
お魚たちは水中で息ができなくなると、水の上に浮かんできて、口をパクパクさせていた。一匹、また一匹と…
やがて水面に体を横たえて、みんなこと切れてしまった。
狭い庭の一角に穴を掘って、お墓を作ってあげたのを覚えている。
思えば、あれから母の具合はみるみるわるくなってしまった。
もしかして、金魚が頭を打ったのではなく、
母が頭を打ったのではないかと思っていた。
ゆらりゆらり〜
水の中を
金魚の尾が
泳いでいく
緑色の水草がゆれて
赤や白、黒や大きな目玉が
かわるがわる
水槽の中に現れて
私を翻弄した。
今でも母はまだ、あの時に閉じ込められているのだろうか。
何度もなんども
私はここにいるよ!
と必死に伝えたけれど、水槽の中の母は、回遊を繰リ返すばかり。
その中で、私はいったいどんなふうに見えていたのだろうか…
今はもう知るよしもない。
シロクマ文芸部|お遊び企画「金魚鉢」に参加させてください。
よろしくお願いいたします。