アルマーニに引き寄せられる。。
日伊合弁会社に勤める傍ら、時々、日本からの輸入業者の、商談通訳も引き受けた。
イタリアでの商談通訳デビューは、ボローニャの国際展示会,’LINEA PELLE' 人間の皮革以外なら、どんな動物の皮革もありそうな、、その時世界最大級の皮革素材がメインで、その周辺素材の展示会。
この展示会場の設計者は、我が国の誇る建築家、丹下健三氏。
日本人として、私はとても嬉しい。
設計者をイタリア人から教えてもらったのはちょっと、恥ずかしいけれど。。
この展示会でデビューした時の、この輸入業者さんとは、私が帰国する数年前までご一緒し、毎春、秋のお馴染みの展示会となった。
展示会のブースを訪問し、輸入業者からの質問、出店業者からの返事を訳し、その後、サンプルの依頼をしたりして、商談が進む。
始めて訪れるブースでは、おもしろい反応を見ることができる。
私たち東洋人数人が近づくと、イタリア人出展者たちはほとんど、英語で対応しなければならないか、、と少々プレッシャーを感じている人が多い。
中には流ちょうな英語を話す展示者もいるけれど、その数は少ない。
そこで、私が登場。
’Buon giorno!’
この一言で、出店者の顔が輝く、愛想もよくなる。
イタリア人はやっぱりイタリア語で商売をする方が好き。
イタリア語通訳を使うメリットは大きかった。
今はどうかな、、
さて、この輸入業者さんの、展示会後の週末に、ペルージャに足を延ばしたいとのご依頼に、私は内心小躍りした。
懐かしいペルージャ。
暮らしていた時には、縁のなかったいいホテルに泊めてもらい、その日はご希望で、ペルージャのサッカースタジオを見学。
。。その横に、サルヴァトーレがバスケットをしていた、バスケットコートがある。
街を散歩していると、どこからか、’ナカタ~!’と、何人かが私たちを見て、嬉しそうに叫ぶ。 そうだ、中田選手が、ペルージャチームで活躍していた頃だった。
翌日、フィレンツェに向かう。
フィレンツエでは、ファッションリサーチも兼ねての散策。
有名ブランド店が集まる、Via Dei TornabuoniにあるGiorgio Armaniにも入る。
仕事の一環、プライベートでは入らないお店、お客様が入っていったので、その姿を追うように入っていくと、、、それが見えた。 運命の出会い。
濃紺の一枚仕立てのロングコート。 少し抑えたエレガントな照明の店舗の奥に、柔らかい光のスポットライトを浴びたそのコートに引き寄せられる。 これは私のコート。 こんなことは今までになかった。 一目ぼれ。
笑顔の素敵な店員の女性が、試着いかがですか、と聞いてくる。
袖を通す、腕の長さもぴったり。 ますます気に入る。
そのコートは、その時の展示会での一連の通訳費全額より少し高い金額だった、でも見た瞬間虜になった。
お会計の時、店員さんが私に言ってくれた言葉が、最高に嬉しかった。
お客様がこのコートをとても気に入ってくださって、またお似合いですので、店長が5%割引してさし上げなさいということです、と。
普段はメルカートの古着、頑張ってもアウトレットの服ばかりだった私は、質の高い接客を受け購入する醍醐味を味わった。
その後、日本の友達に頼まれて、ミラノのMonte Napoleoneの、あるお店入った時、女店員さんたちが、このアルマーニのコートを見て、囁き合っている。
ああ、この人たちには分かるんだ。 私はただ好きになっただけだけど、プロの彼女たちはその年の新作だということが瞬時に判る。
そのジョルジョ・アルマーニの一枚仕立てのコートを、今でも、気に入って着ている。