渦の中
高校を卒業してから、地元の百貨店に就職した。
かなり忙しい売り場に配属されて、いきなり複数のメーカーの担当を任された。
お中元、お歳暮、ハロウィーン、クリスマス、バレンタイン。
次々とイベントがあって、鬼のように目まぐるしい日々。
朝は7時に出勤。お昼休みや休憩なんて、とても取れない。
そして閉店まで、ひたすら接客、売り場と倉庫の往復。
閉店後は、山になった発送伝票を前に、黙々と商品を包装し発送作業。
毎日、日付がかわるまで仕事していた。
家に帰ると、既に1時を回っている。
そこからお風呂に入って次の日の準備をして寝る。
朝は父のお弁当と家族の朝ごはんを作るため、5時前に起床。
というのを繰り返す。
しんどかった。どんどん食欲がなくなって、けっこう痩せた。
3年目に入って、しばらく経った頃。
とうとう体が限界を迎えて倒れた。
医者からも「すぐ仕事を辞めなさい」と言われ、退職願いを出した。
すぐには受理されず揉めたし、嫌味も言われたけど。辞めた。
そしてしばらく休養することになって、ようやく気づいた。
完全におかしい、と。どう考えても過剰労働やん、と。
でも中にいる時は分からなかった。
しんどいと思いつつも、みんな当たり前のように働いている。
だからこれが普通なんだ。辛いと思うほうが間違ってるんだ。
そう自分に言い聞かせて、ギリギリのところで頑張っていた。
泣いた。あのまま辞めずにいたら、どうなってたか。
それを想像して、あまりの怖さに涙が止まらなかった。
全てのことに当てはまると思う。
中にいると、そこが普通で正しくて当たり前だと信じて疑わない。
でも違うんだ。少しでも疑問を持ったら。
少しでも誰かに「それっておかしくない?」と指摘されたら。
一度その渦の中から出て、外側から客観的に見ることが大事だ、と。
あえて自分を外に置いて、冷静に眺める。
そうすれば、それまで見えなかったことが見えてくる。
あの時、本当に辞めて良かった。
大事になる前に、抜け出す。
それを忘れずにいよう。