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実録 やっちゃばの風雲児 大木健二伝

天保通宝と脇差し

 ある日、建て替え中の物置き小屋を漁っていた健二は古びた箱に大量の
天保通宝を見つけた。天保通宝は小判を模した楕円の小銭で中央に四角い
穴がある。江戸末期から明治半ばにかけて流通していたものだが、埃がこ
びり付いていておよそ通貨には見えない。見えたところで、貨幣の価値に
は関心はなかった。数枚を手にした健二は、次に母屋の長持ちに放置され
たままの十数振りの刀剣から脇差しを抜き取ってきた。古銭と、脇差しで
削った青竹の軸で独楽を作ろうという算段である。小判の独楽はよく回っ
た。健二は仲間に見せびらかした。欲しがる子供には惜しげなくあげてし
まったので、結局、小判の独楽は手元にひとつも残らなかった。
 この脇差しで竹とんぼも作った。母屋の屋根を越えて大空に吸い込まれ
ていく竹とんぼを見ていると、自分が鳥になったみたいで気持ちが良かった。いずれ脇差しと小判の不祥事は父の新太郎の目に触れるところになり
伝来の家宝を粗末にしたとして健二は頭が割れるほどぶたれたが、翌日に
はけろっと忘れたみたい、またぞろ好き勝手な遊びで走り回っているのだ。

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