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スタートアップ

●夢を叶えるために必要なこと、その1。

「なにしてる?」

 新学期。席替えをしてすぐ。目の前の席の、話したことのない女子生徒が、ノートを覗いてきた。

「リサーチ」

 集中力を切らすことなく、葉月は答える。

「なんの?」

 女子生徒は葉月の机で頬杖をつく。

「ヒミツ」

 ずっと下を向いたままの葉月はそれすら気にせず、スマホでなにかを検索しながら、ノートにまとめていた。


●夢を叶えるために必要なこと、その2。

「まだ続けてる?」

 体育祭の片付けの最中。女子中特有の力仕事であるテントの鉄柱を運びながら、かの女子生徒は聞いてきた。

「続けてるよ」

 一緒に持ち上げた鉄柱は、ずっしりと重い。

「でも、そろそろ飽きる頃?」
「飽きないよ!」

 葉月の大声に、周りにいたクラスメイトたちが振り向いた。
 

●夢を叶えるために必要なこと、その3。

「雑草?」
「よもぎ」

 河川敷によもぎを摘みにきたら、ジャージ姿の女子生徒と鉢合わせた。彼女は挨拶もなしに、横に座る。葉月はひたすら葉っぱを見分けて、よもぎだと思われるものをビニール袋に入れていく。

「どうすんの?」
「よもぎ餅つくるの」

 羽状の葉っぱ、繊維の密集。手にとって、裏側も見て、らしいものは袋につっこんで。結構な量のよもぎが集まった。

「なんで?」
「おばあちゃんがそうしてたって言うから」

 葉月が立ち上がると、女子生徒も一緒に立ち上がり、振り替える。

「あ、こんにちは」
「おお、みゆちゃん。お友だちかい?」

 女子生徒は犬と散歩中のおじいさんと親しげに挨拶を交わした。親しげに話す二人の横で、犬が片足あげて用を足していた。
 葉月はゆっくりと、袋をひっくり返す。

「どうした?」
「場所を変えます」

 空になった袋を、元通り結んで、ポケットにしまった。


●夢を叶えるために必要なこと、その4。

 葉月は咳をして、喉の調子を整える。
 目の前には恥ずかしそうにこちらを見ている、小さな画面の中の自分がいた。
 深呼吸を1つ。そして練習通りに言葉を紡ぐ。

「初めまして! 今日からユーチューバーのhazukiです!」

 さあ、ここから、夢を広げていこうか。


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