「炎神編」(ヴァサラ戦記)
「それでは、お前は ”正義” か? それとも ”悪” か?」
「それは ”時代” に決めてもらう!」
※ネタバレ注意
①概要
炎神編とは、『ヴァサラ戦記』第45話~第56話までで描かれる、四番隊隊長の「炎神ビャクエン」を中心に描かれるエピソード群の通称である。
第二期、ビャクエン編など様々な表現がされるが、本記事では「炎神編」で統一する。
②あらすじ
火剣軍襲撃が過ぎ去ったばかりの第30話にてルトに話した通り、ビャクエンは「カルミアの里での任務」に向かうことが決まっていた。
そして同じく十二番隊隊長のアシュラも任務へ向かう様子が映し出される。
そしてついに長い過去編が明け、予定通りカルミアの里へやってきたビャクエン……。
しかし視聴者たちを待ち受けていたのは、敵であるはずのカムイ七剣「氷剣のネムロ」を背に庇い、逆にアシュラへ刃を向ける炎神の姿だった。
③任務の経過
驚きのシーンから一転、カルミアの里へ到着したビャクエンは不気味な氷気に包まれた里を進んでいく。
するとしばらくしたところで、突然辺り一面が凍り付くほどの冷気がビャクエンを取り囲み、カムイ軍の幹部兵「氷剣のネムロ」が出現する。そしてここから、いつものようにカムイ七剣vsヴァサラ十二神将の戦いが始まると思われたその時だった。
現れたカムイ七剣「ネムロ」の姿は、嘗てビャクエンとともに戦った同期の仲間である元四番隊隊長「水神ミツハ」のそれであった。
なんと氷剣のネムロの正体は、非業の死を遂げた少年ネムロの「負の感情」に引き寄せられたカムイによって、その精神を呪力と共に「ミツハの肉体」に植え付けられたことで生まれた『呪力の怪物』であった。
(一度死んだ者の呪力による復活は、通常の呪力よりも強い力を発揮することになり、ネムロの身体は大きな傷を負っても瞬く間に回復する、相手の刀身を素手で握っても平然としているなど、驚異的な変異を見せていた。)
動揺するビャクエンを見て不敵な笑みを浮かべわざわざ自らの手の内を明かしながら余裕を見せるネムロ。
一方、大切な人の肉体をいいように使われることに対して激しい怒りに燃えるものの「ミツハの肉体を傷つけたくない」思いと「敵を倒さなければならないという思い」との葛藤に揺れるビャクエン。
持ち前の精神力で葛藤を乗り越え、なんとかミツハの身体を解放しようと戦いを挑むが、どうしてもミツハへの思いを捨てきれないせいか、あと一歩のところで躊躇してしまい戦闘は長引いていく。
そして次第に氷の中で体力を奪われ続けた結果、ついに形勢が逆転……。
ネムロの氷殺剣「玉屑槍」によって大ダメージを負い、ミツハの名を呼びながら気を失ってしまった。
④ビャクエンとミツハの過去
ビャクエンが意識を失ったところで、場面は暫く過去へと巻き戻る。
時代はビャクエンとユダ、そしてミツハがまだ八番隊の隊員だったころ。
この三人の世代はヴァサラ軍史上まれにみる豊作、すなわち優秀な隊員が多く集まった世代であった様子。
(事実、登場する三人すべてが後に隊長になっている)
そんな同期組三人のところへ、ある「高難度任務」の知らせが舞い込む。副隊長を二人同時に起用するほどの重要任務だったが、この時点ですでに幹部クラスの活躍をしていたミツハも、副隊長たちと共に出陣することが決まっていた。そのため、負けず嫌いなビャクエン、そして彼の親友であるユダも任務に同行することに。
ところが、ミツハはともかくまだまだ新兵であったビャクエンとユダは、火の始末を怠ったり緊張で眠れなかったりと踏んだり蹴ったり。その結果、敵の夜襲を招いたり、狙撃に反応できずに庇われたりと、副隊長二人に迷惑をかけてしまうことになる。
(このとき、夜襲に対処して寝る際に寄り添ったのがアシュラ、狙撃から二人を庇い負傷してしまったのがギンベエである。こと出来事は、副隊長二人への感謝と尊敬、そして二人自身の弱さに向き合うきっかけとなった。)
そして迎えた敵陣への突入作戦……ギンベエの助力もあり、一人で先へ進んでいたミツハを助けるべく何とか追いつくものの、ここでも逆に彼女の実力を見せつけられてしまう。
一方、ミツハはどんどん敵陣を突破し、大将である「カラカル」へ果敢に斬りかかる。ところが「正義の形は一つとは限らない」と語るカラカルの言葉にややたじろいだミツハはその隙に敵の攻撃を喰らってしまい、彼女を助けようと無理な突撃をしたビャクエンも弾き飛ばされ、あとは気弱なユダを残すのみとなってしまった。
しかし、ユダは友人の危機に瀕してついに立ち上がる。
さらに、ユダに翻弄されピンチに陥ったカラカルがミツハを人質にとると、友人の勇気に応えるべく、そしてミツハを守るためにビャクエンも覚醒。
「赫灼炎舞」と「魔天楼」の共鳴による『煉獄炎魔不知火』でカラカルを攻撃。ミツハを解放することに成功する……のだが、これはギンベエの「魁の極み」による一時的な強化による極みだったために、その後はいつも通りの弱っちい二人に戻ってしまった。
しかし、解放されたミツハが「水の極み”戦場の人魚姫(バトルマーメイド)”」を開放すると、戦況は一転。
「纏いしは海の力……海神の怒りは洪水を起こし、大地をも揺るがす!!」
彼女はそのまま圧倒的な力でカラカルを撃破、任務は無事成功に終わる。
(なお、このときカラカルにとどめを刺そうと剣を抜くミツハをアシュラが制止するような場面が映るが、これは炎神編における重要な場面への伏線となっている。)
そしてこの戦果が影響してか、ミツハはついに「四番隊隊長」に就任。
彼女を祝う同期二人への感謝を述べつつ、彼らもまた隊長になれると信じて、かねてより考えていた隊訓を伝えた。
⑤『燃えよ!』
過去の思い出に触れて勇気を取り戻したビャクエンは、その瞳に再び炎を宿して目を醒ます。
驚くネムロは、今度こそビャクエンを葬るべく「超神術」を限界まで行使して応戦するが、決してあきらめな炎神の猛攻は留まるところを知らず、最後はミツハに背中を押されながら放った「紅朱雀・鳳仙火」によって、ネムロの再生限界を突破……撃破することに成功する。
そして、幻影として現れたミツハから愛の言葉を受け取り、ビャクエンはかつての友……あるいはそれ以上の大切な人との別れを告げた。
その後、人の闇の部分が心に沁みついたネムロの言葉にその熱い心で向き合い、人間のすばらしさを懸命ぶつけるビャクエン。
ネムロはそんな熱い言葉を聞き、自身に必要だったのは「残酷な現実の中で自らを満たしてくれるうざったい誰か」であったことを思い知り、羨望と悔しさをにじませながら死を覚悟した。
しかしビャクエンは、彼を「灯」で回復して罪を償いながら生きろと諭す。
こうして、カルミアの里での戦いは終わりを迎えた……かに思えた。
⑥裏切り者の正体
決着がついたと思われたのもつかの間……突如として「鬼の面」を付けた剣士がネムロの首を襲った。
その恐ろしい風貌と見覚えのある太刀筋から、とある人物の顔が浮かんだビャクエンは、その鬼の面を引きはがし、素顔を見て絶句する。
面の人物の正体は……ヴァサラ軍十二番隊隊長『竜神』アシュラだった。
何かの間違いだと考えたビャクエンは「もう勝負はついた」と必死に説得を試みるが、アシュラは画像の言葉を放つ。
ネムロはリンドウの竜騎士の姿にすっかり怯えきってしまい、ビャクエンはアシュラの尋常ではない様子と「言葉を話せる」という事態に困惑する。
そして次の瞬間、アシュラは衝撃の真実を明かした。
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「……すまないビャクエン。お前には言わなければならないことがある。」
「我らの師、エイザンを殺したのは……私だ。」
「そしてお前の友、ミツハを殺し……その亡骸を”闇の帝王”カムイに差し出したのも——」
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この事実を聞いたビャクエンは激昂……第44話最後のシーンにつながる。
⑦リンドウの竜騎士
ビャクエンの過去にてアシュラが竜の里の出身であることが触れられていた。『リンドウの竜騎士』と呼ばれるその里の出身者は、”アシュヴァラ”という土着信仰を持ち、長い間「国の暗殺部隊」として従事してきた一族であり、アシュラはそんな一族の子として生まれた。
(暗殺部隊のためか、リンドウの人々は皆深くフードをかぶった格好で腕を組む独特なポーズをしており、暗部なのに一目でわかるようになっている。)
しかし、ヴァサラの革命によってリンドウの民は厳しい立場に置かれることとなる。王国の破滅によってもはやこれまでと悟った竜騎士たちは、信仰に従って次々に自害。アシュラの母親も例外ではなく、まだ幼かった息子の目の前で切腹して息絶えてしまった。
この時のショックで「声」を失ったアシュラは助けを呼ぶこともできないまま彷徨い続け、母を弔ったあとに力尽きて倒れていたところをヴァサラに救われることになった。
⑧善と悪
自らの一族の滅びを見届けたアシュラは、この世の善悪……光と闇の在り方を知るべく、より多くを思考し、歴史を調べ上げた。
しかし、やはり言葉を失った代償は大きく、伝えたいことを伝えられないまま、救いたいものを救えないまま時間だけがすぎていった……。
だが、カムイはそんなアシュラに再び声を与える。
そして……何か重大な選択をしたであろうアシュラは自らの目的のために動き出したのだった。
その目的……すなわち彼が行き着いた結論とは「正義の暴走」を防ぐ「世の天秤」となることであった。
アシュラはヴァサラとカムイというこの世の光と闇を目の当たりにし、どちらの正義も行きすぎることが無いよう、調和の為にミツハやエイザン、そして味方の兵士たちを殺害していたことを明かす。
さらに、ヴァサラ軍とカムイ軍の「殺し合い」を引き合いに出し「この世に善も悪もない」という、ある種の現実ともいえる主張を展開するアシュラを前に、正義が何かを見失いそうになったビャクエンはついに迷い悩んでしまう。
しかし直後、たった今彼自身が救った人物にその肩を支えられる。
ネムロはアシュラの主張に対し「だからこそ何が正しいかを他人に預けてはならない」と反論。貫いてきた信念を曲げてしまえば、かえってその場の空気や感情に飲み込まれてしまい、それでは到底世の中を導くことなどできはしない……というカウンター的な決意を胸に、ビャクエンとネムロはともにアシュラへ立ちはだかった。
ところが、極みを解放した竜騎士アシュラの実力は圧倒的であり、2対1にもかかわらずビャクエンたちは追い込まれていく。
ネムロも倒れ、残ったのは顔に大きな傷を負ったビャクエンのみ……彼を竜の極みの奥義「百八龍」が襲い、絶体絶命と思われた……その時だった。
よぎる母の顔……その教えは「いつでも笑顔でいる事」だった。
踏ん張ったビャクエンは、死の淵で笑顔を見せる。
そして母の教え、師の教え、アシュラの考え……そのすべてに通じる彼の「生きる源」となるものを思い出し……笑った。
「愛は憎しみを生むかもしれない。だが愛があるから人は優しくなれる。
強くなれるッ!」
⑨『愛は人を強くするッ!!!』
「だからこそ我々は、国を愛し、民を愛し、そしてそれらを守るためにあるッ! それが師の教えッ!」
激動の時代に、迷う暇などない……迷っている間に失うくらいならば、己の目で見てきたものを信じ、目の前の命をより多く守るために戦う。
迷いを捨てたビャクエンは、なおも「雄弁は銀」と吐き捨てるアシュラの前で限界を超えたさらなる進化を遂げた。
(『終わらせないッ!』というセリフのタイミングで流れるOPテーマは神)
さらなる極地へと到達したビャクエンは、リンドウの竜騎士を相手に互角以上の戦いを繰り広げる。
その最中、アシュラは問う。
何がビャクエンという男を突き動かすのかと。
そして、たった一人で悩み迷い戦い続けたアシュラが「時代を変えるのは一握りの強者だ」と語るのに対し、仲間と共に『希望の灯』を継いできたビャクエンは「自身が灰になろうとも、意志の炎はヴァサラ軍の仲間が紡いでいく」と豪語する。
それは、アシュラの背中を見て育ってきた自分も同じだと……。
その「灯」が消えない限り、消さないために、ヴァサラ軍は立ち上がる。
そして渾身の奥義「紅蓮火産霊神」を放ち、ついにアシュラの百八龍を破ってその左腕を切断。
どんな時も「絶対にあきらめなかった男」の剣が、絶望の果てに「何かを諦めてしまった男」の剣を打ち破ったのである。
悪とは何か、善とは何か……それはヴァサラ軍が突き進んだ先で、時代に決めてもらう(冒頭の会話)。
もはやビャクエンの心が折れることはなく、戦況としても双剣使いであるアシュラは片腕となって大きく弱体化……視聴者はこのままビャクエンの勝利に終わるかに思われた。
……しかし。
「俱利伽羅龍王!!」
「炎帝白炎」
⑩衝撃の結末(第55話)
激戦のさなかで目を醒ましたネムロは、巨大な二つのオーラがぶつかり合うその瞬間を目撃する。凄まじい衝撃はと砂煙の中から現れたのは
……腹を貫かれた『炎神』の姿であった。
そう、ここまでの戦いですでに限界を超え続けてきたビャクエンは、その切先をアシュラに届かせんとするその瞬間にすでに力尽きていた。
しかし、死を前にしてもビャクエンは笑っていた。
アシュラはそんな彼の信念を認め、代わりに時代の答えを見届けることを約束して、そのばをあとにs
『リンドウの竜騎士が……殺しに情を移すとはな』
突如として、アシュラの背後に「闇の帝王」が現れる。
師エイザンの仇……そしてすべての元凶たる闇を前にして、ビャクエンは怒り、アシュラは沈黙する。
そして次の瞬間……カムイはもはや風前の灯火となったビャクエンを挑発するように、ネムロを踏みつけにしある口上を唱えた。
「冥府魔道・地……”外道菩薩”」
それはカムイによって殺され吸収されていた、師エイザンの力であった。闇の力はすべてを奪いさり、我がものとする悪魔の力だったのだ。
「カムイ……お前ぇ゛ッ!!」
「どこまで人を虚仮にすれば、気が済むんだァ!!!!!!!!!!!!」
そしてあろうことか、師が命を賭して使用するはずの決死の奥義を、己が道具としたネムロ(ミツハ)の命を生贄にして、ビャクエンにぶつけた。
そして、必死に追いかけてきた末にようやくたどり着いた先で、最悪の結末を前に『やめろッ!』と叫ぶジンを他所に、息絶えたビャクエンを、帝王は笑いながら養分として吸収。
(この時、なぜかカムイからはジンの姿が見えていない)
さらにはその現場には親友であるはずのユダが現れ、捨てられ取り込まれていく友人たちを笑いながら見届けているのだった。
(こんな笑顔はさすがに世の中から絶えるべきだろ)
かくして、カルミアの里で起こった信念と信念のぶつかり合いは
究極の闇がすべてを奪い去るという形で幕を閉じた。
・視聴者の反応と物語への影響
ただでさえ人気を博していたビャクエンが、殆ど主役で進んできた新章の結末が、こんな血も涙もないことになったために、視聴者からは悲しみを通り越した嘆きの声が噴出した。
ただ一方で、亡くなったことで天国のミツハに再会できたのではないか……というせめてもの救いを求める人もちらほら。
(それにしても、公式によって少々伸びてしまうことになるが……)
また、これを機に裏切り者であった二人の隊長(特にユダは行動原理さえ不明である)や、カムイに対する強いヘイトが溜まってしまった印象もある。
また、作中の情勢としても55話の最後にて、まさかの「カムイ七剣完全復活+α」な様子が映し出され久々の登場で画面のみんなにご挨拶をかますなどカムイ軍の健在ぶりが強調され他一方、ヴァサラ軍は総督の病状悪化、12人いた隊長がもはや半数しか残っていないなど、戦力差もやや絶望的になりつつある。
・引用リンク
ヴァサラ戦記(第二期)再生リスト
第二期OPテーマ(「灯」/3rdTimeLucky)