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郵便屋さんとスーパーカブとその日常。6
note版郵便屋さんとスーパーカブとその日常。です。
こちらのエッセイはアルファポリス、カクヨムでも多重投稿されています。
最新話はアルファポリスでチェックしてみてください。
年末繁忙期編4 〜年賀レイアウト〜
12月20日になると本格的な年賀状体制が始まります。
まず、集配課の空きフロアでダンボール製の年賀状専用大区分棚を設置します。
これは何かと言いますと、通常郵便物を大区分している棚は通常郵便物で使うので年賀状を大区分する為の専用の棚なんです。
年賀状の物数が少なくなった現在は郵便局にもよりますが、通常郵便の大区分で使われている棚を通常郵便の残留が無い様に空にして点検してから同じ台で年賀状を大区分するやり方を行なっていますが、とにかく年賀状の物数がピークの時代ですから半端じゃないんですよ。その年賀状の量が。
この時代は何度も言いますが、手作業の時代です。
毎日年賀状の大区分をしても引き受けピーク時には1日では大区分しきれずに翌日回しなんて普通です。
そうすると残った年賀状はその年賀状専用のダンボール製の大区分棚にそのまま置いて次の日に作業の続きを行うやり方をしていました。
その設置が終わるとその大区分棚の側に大区分した年賀状を入れたり、道順組み立て済みの年賀状を並べるアルミ製や木製の棚を並べる為の脚立を置いていきます。
これを我々は脚立を「馬(うま)」
アルミ製や木製の年賀状を並べていく棚(両手を広げて持つぐらいの横に長い大きさです)の事を「竿(さお)」と呼んでいました。
担当区にもよりますが大体1区あたり馬が3〜4台。5区あったので20台前後は必要ですね。
この馬は横から見ると二等辺三角形の様に立てられ両サイドに竿が上から下へ6本程並べる為の腕があります。
ですので一つの馬に12本の竿が掛けられるわけです。
この竿に大区分した年賀状にまだ未作業の印の赤色の仕切り札を区分口ごとに差し込んで並べていきます。
道順組み立て済みの年賀状は未作業の年賀状に混ざらない様にこれは作業済みの印の青色の仕切り札を区分口ごとに差し込んで並べます。
その各区ごとに設置した馬の隣のスペースに女子高生を中心とした年賀状道順組み立ての内務作業員用の机と椅子をアルバイトの人数分並べます。
この馬と竿を運ぶのがとにかく大変で、馬はアルミ製ですが大きいし持ち上げて運ぶのも力がいるし、竿はまだこの頃はアルミ製よりも木製棚を多く使っていたので重いのです。
「お前、若いから力有り余っとるやろ?しっかり運べよ」
「えーッッッ!?」
てな感じで肉体労働は若手の役割です。
当然、新年を迎え年賀状作業が終わるとそれらを片付けるわけですよ。若手中心となって。
年が明け作業台などを片付ける時には今まで作業事故を起こさない為に掃除をしていなかった分の大量の埃がフロア全体を舞います。
年賀状作業の疲れもピークのタイミングでこの作業ですから、私は毎年この作業が終わると熱を出し体調を崩していました。
後にマスクをつけて作業をするとそれを防げれる事に気がつきます。
マスクって本当にこういう時有効ですね。コロナ禍でもマスクをしていたら風邪も引きませんでしたから。
レイアウトが終わるといよいよ年賀状作業が始まります。
今回もご愛読いただきありがとうございました。
年末繁忙期編5 〜恐怖の13連勤〜
さて、12月の半ばになると新しい勤務表が出ました。
勤務表は4週間を1勤務として作られます。カレンダーの様な物の日付の欄に日2とか中2とか非とか書かれています。
説明しますと、
日2は日勤。
この頃は8時出勤ですね。
中2は中勤。
11時から19時45分までの勤務で仕事の後半は夕方からの便(3号便といいます。)を走ります。
非は非番。
お休みの事ですね。
あと、週休の週。
祝日の祝。
と、いった表記がそのカレンダーに書かれています。
今回の勤務表では1月の第1週終わりまでの4週間分が記載されています。
先輩達が、年末年始は休みが無いぞーと脅かすものだからドキドキしながらその勤務表を見ると。
あれ?
普通に非番、週休と12月23日は天皇誕生日で祝日なのでその日も祝の記入がしてあるよ!
やった!なんだ、びびらせやがって。
先輩達も人が悪いなあ。
と、思って勤務表を見てると…
各休みの欄に「广」の記入があります。
なんだこれ?
「あー。それなあ廃休の廃のマークや」
「廃休…ですか?」廃休ってなんだろ??
「そう。休み買取りや。お前、こんなに年末に休めるわけないやろう?
こんなに休んでたら仕事進まんやろ?」
「え?て、いう事は…」と、1月2日の非番日までの連勤日を数えると…
13日…
13日ーッッッ!?
「まあ、それだけ金が付くで良いやろ?
あと、年末年始で繁忙期手当が付くから超勤代もいつもより割り増しになるぞ。
お前、給料安いんやから年末年始で稼がなあかんで!」
え〜ッッッ!!
そうなんです。まさかの13日連勤が待ち構えてるとは思いもしませんでした。
今では最長でも10日程の連勤になる様に勤務指定するようになっていますが、この時代はこれが当たり前でした。
書き忘れましたが、この頃はまだ完全週休2日制ではなく1勤務4週間の内3週間は非番日があり週休2日なんですが、1週間は非番日が無く、6日間出勤なんです。
そこで、職員の先輩達はその未非番日週に年休を入れて年休消化の週にしていました。
しかし入局したばかりの私にはまだ使える年休が無いため、その週は涙の6日間出勤になるわけです。
ただ、郵便局も翌年の4月から完全週休2日制になり、涙の6日間出勤を経験するのは数ヶ月だけでした。
「お前、ラッキーやのお〜」
と、ニヤリと笑う先輩の残念がる声が懐かしく頭に残ってます。
さてさて、こうして地獄の13日連続出勤が始まるのです。
余談ですが。
世間一般で完全週休二日制が浸透し、「華金」という言葉が生まれたのはこの頃です。
まあ、この時代の集配課は貯金、保険課や窓口業務、そして世間一般の様に土日連休では無くて、非番、週休が不確定。
勤務によっては土曜日、日曜日も出勤なので「華金」という言葉には縁が無いんですけどね。
現在の郵便屋さんは通常郵便の配達は土曜日、日曜日もお休みなので「華金」という言葉が使えそうですね。
その言葉が使える様になるまで約30年程掛かりましたが。
さて、初めての13連勤の年末繁忙期を郵便屋さんになったばかりの若者はどう乗り越えるのか?
お楽しみください。
今回もご愛読いただきありがとうございました。
年末繁忙期編6
〜手書き地図の修正〜
「おーい!地図の修正終わったか?」
「あ、ちょっと待ってください!
まだ、少し…」
「どれ?貸してみ?
ん?ここの家も住んでる人変わってるぞ?」
「あ!本当だ!」
「こっちの地図は俺がやるから、お前は○○町を手直ししてくれ」
「はい!わかりました!!」
明日から始まる年賀状配達の高校生のアルバイトの随伴訓練用の配達地図の手直しも佳境です。
この時代のA郵便局の配達地図は手書きの地図です。
ゼンリンの地図もあるのですが、小さく見づらいという理由で手書きの地図が使われていました。
そして、何よりも手書きの地図だと情報が書き込みやすいメリットがありました。
例えば同じ苗字の家が並んで住まわれてるとします。
その手書きの地図だとその世帯主や家族の名前を書き込んだり「誤配注意!」など間違って配達しない様に注意喚起が容易に出来る利点があるんです。
あと、配達順路を間違わない様に赤ペンで矢印を書き込みやすい等もあります。
その配達地図の原簿がありまして、薄い白色の曇った様な透明な樹脂製の紙に歴代の先輩方々がボールペンで定規の線で道路や家の並びを書いた手書きの地図で、家の世帯名は鉛筆書きになっています。
転居などあると鉛筆書きの世帯名も変わるので、それを消しゴムで消して新しい世帯名を書き込んでいくのが基本的な原簿修正になります。
もし、新しい住宅が数件建った場合はその家の並びをボールペンで新たに書き足していくのですが、大きな新しい新興住宅地エリアが出来ると地図原簿を一から新しく作らないといけないので大変な労力になります。
その地図原簿をコピー機でコピーしたものに配達順路の矢印や注意喚起を書き込んで新しいビニール袋に入れて完成です。
配達地図の基本は初めてそのエリアを配達する人でもその地図さえあれば間違わずに配達できるように。
アルバイトの高校生達が安心して配達出来る様にきっちりと丁寧に仕上げる様に。と、この時に先輩方に教わりました。
ですが、この配達地図に対する丁寧さやこだわりが郵便局によっては考え方が違うのです。
私のキャリアの半分はA郵便局。
そして後半はB郵便局でした。
そのB郵便局で、年末の地図修正の時に配達地図の原簿を探しても見当たらない。班員に聞いてみると
「あんなもん使わんで。いつも使っとる地図に修正ペンで消して新しい名前を書き足して、それをコピーした物をバイトに渡しとるわ」と。
「それじゃあ、何度もコピーした物をコピーしていたら文字も読みにくくならないの?」
実際、私がこのB郵便局に移動して初めて配達したエリアの地図はボロボロの手書きでした。
「配達地図原簿もあるけど、何年も使ってないからいちいち手直ししてたら時間が掛かるよ?」と別の職員。
「コピーを手直しして修正した方が早いし、原簿から手直ししとったら面倒くさいだろ?手直しした地図を二部コピーして一部を保管してもう一部をバイトに渡せば良いわ。
どうせ、1週間も配達してたら地図なんか見なくても配ってくるって」
そのやり方を何年もやっていて地図保管のファイルにはいつ手直ししたコピー地図なのかわからないボロボロの地図や、最近手直ししたのか以前に手直しした地図なのかわからない同じエリアの地図が複数枚出てきて、どれを使って良いのかわからない管理状態に愕然としました。
確かにそのB郵便局のベテラン職員が言う事も正論かも知れませんが、何事もキッチリ綺麗に管理するのが当たり前のA郵便局で基本を学んできた私にとって、郵政が指示していたキッチリとしたやり方を手間が掛かって面倒くさい。と、早さと要領ばかりの職人肌のB郵便局の職員のやり方に慣れるのには時間が掛かりました。
現在では年賀状の枚数が激減し、年賀状の機械区分も発達した背景もあり年賀状配達はアルバイトを使わずに職員が配達していますので、年末に配達地図の手直しは行なっていません。
私がいた班では新しく配達を覚える職員が使う地図は手書きの地図を使わせていましたが、班によってはゼンリンの地図のコピーに配達順路の矢印を書いた物を使っていたり、矢印無しのコピーを渡して配達に行かせてる班がありました。
で、その職員が誤配すると
「地図通りに配れやんのか?」と怒ったりするベテラン職員もいたりします。
その地図があれば誰でも配達できるが手間が掛かる地図。
手間が掛からないが何も注意喚起も無く配達順路の記載も無いただのコピー地図。
あなたならどちらを選びますか?
今回は配達地図のお話でした。
今回もご愛読いただきありがとうございました。