古本屋初めてのお使い
神戸の古本屋生まれの私は、物心ついたときから様々な本に囲まれていました。今の古本屋がどうかは、わかりませんが、父親は古本屋は特色を出さないといけないということで、うちの古本屋の場合は兵庫県の郷土史に強いというのを特色にしていました。
ある日父親から、
「おい金を出すから(当たり前だ)この印南郡史(たぶん)を海文堂行って買うて来い」とおもむろに数万円(おいおいおい)渡され、当時写メもないので目をさらのようにして書名(小3の習う漢字ではありません)を覚え、元町の海文堂に送り出されました。いわゆるセドリ(たぶん)をさせられたのですね。海文堂は確か2013年に惜しくも店をたたまれ、今は薬屋になっていますが、私がセドリに送り出された当時の海文堂は、なんと向かって左側が新刊、向かって右側が古本を売っておりました。入口も別で中は間仕切りがありましたが、狭い通路でいききできていました。私は中に入ると、
結構に高い棚にある印南郡史(たぶん)を指さし、にこやかな主人に、
「あれを買うからおろしてください」というと数万円を差し出しました。
主人は、まったく驚いた風もなく
「ボク、お父ちゃんが読むの?(当たり前だ)」とにこやかに袋にいれ私の
頭をなでると「漫画一冊持っていき」と、のらくろをくれました。
無事に家に帰ると、父親は、これまたにこやかに出迎え、「なんかいうとったか?」と本を確認しながら問いかけ。私は本が間違ってないかとビクビクしながらも「なんもいうてなかった」と答えると、のらくろをみた父親は、「あーわかっとったかもな」と苦笑していました。
何故、のらくろでそう思ったのかは、わからないけれど、今思えば高額過ぎる初めてのお使いでした。
→海文堂は阪神淡路大震災直後でも店を開いて市民の気持ちを慰め、2階は
神戸らしく海事関係の専門書、ギャラリーと、素敵な老舗の(神戸っ子の記憶に残る)書店でした。