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【禍話リライト】布の訪問


家にインターフォンがある人は全部取り外すべき、という話。

【布の訪問】


 ピンポーン

 夏。
 一人暮らし。
 マンション。
 5階。

 インターフォンが鳴った。

近所に友達が多い環境だったので、酔っぱらった友人たちがたまに訪ねてくることがある。時計を見ると夜の10時。たぶんその内の誰かだろうと思った。

「はいはい」

玄関の覗き穴をのぞき込むと、見えない。

(誰かふさいでるな)

訪ねてきた酔っ払いがイタズラで覗き穴をふさいでいるんだ。そしてドアを開けたら驚かせるのだろう。くだらない。

と思って、ドアを開けたら誰もいなかった。

(あれ?)

逃げたなら逃げたで、酔っ払いの酒くさい匂いとか、人のいた気配とか。

(しない……)

誰もいない。

(え、気持ち悪い)

一歩を廊下に踏み出したそのまま、開けたドアの外側を見た。
びしゃびしゃに濡れた白い布が、ドアにびたんと力強く張り付いていた。覗き穴のところに。
息を詰めて見ている間に、布はびしゃりと廊下に落ちた。

しばらく見つめたまま動けなかったが、このまま放置するのは無い。手でつまむのは厭だったから、家の中からつまむものを持ってきて拾い上げる。

(雑巾?)

くらいの大きさの、びしゃびしゃに濡れた白い布だった。

(気持ち悪い)

申し訳ないと思いつつ、集合ポストのところにあるチラシを捨てるゴミ箱に布を捨てた。

あまりに気持ちが悪かったので、一応近くに住む友人たちに電話をして「今うち来た?悪い冗談とかした?」と聞いてみるも、誰も来ていないという。今飲んでいるらしい。確かにそんな時間である。あいつらは違う。

(愉快犯にしては、ちょっと)

1階ならともかく、こんなイタズラをするのに5階まで上がって、降りて? 面倒だろう。
意味がわからないし、上手く説明もつかないこのことは誰にも詳しく話さなかった。変なイタズラがあった、くらい。

その週の日曜日。

「お前なんか凹むことあったらしいしさあ、ドライブでもいかね? たまには遠出してリラックスしようぜ」
「そりゃいいな」
車を持っているやつがそう誘ってくれたので、仲間の4、5人で集まって遠出した。

途中、普段は通らないような田舎道を通った。普段通らない道をあえて通る。ドライブあるあるである。
と、途中で急に車が止まった。

「え?どした?」

助手席にいたのだが、外を見てみると止まるようなところではないのがわかった。
そこには沼があった。看板もある。

『溺レ〼 注意』

この辺りの溜池みたいなものだろうな、と思う。たぶん深い。

(なんでこいつ車止めたんだろ)

溜池は子供が入れないようにか柵で囲ってあった。
その柵に、白い布が何枚も引っかけてある。
大きさは雑巾くらい。

(覗き穴をふさいでたあの布くらい)

その布は4、5枚、柵の一番上の、子供が入らないようにだろう張り巡らされた有刺鉄線の上に、"ふわっ"と引っかかっていた。

(意味が……)

わからない。まさかそんなところを雑巾で掃除をするわけじゃないだろう。
そして、その布はこんな場所にあるのに綺麗だった。
ということは、たぶん、定期的に……入れ替えられている?
あの布が?

(知らないけど!)

車を降りて確認したくはない。というか、なんなんだ。

「出せよ!車!出せ、出せ!」

ええ?と運転手が言いながら車を出した。
不服そうだ。意味がわからない。

「ていうかなんで止まったんだよそもそも!信号でもないし……!」
「いやいやいやいや、お前が『止めてくれ』っつったんだろ」

驚いたことに、運転手も、後ろの連中も、「そうだよ、お前が止めてくれって言ったんだろ」と口をそろえた。気分が悪くなったとか電話がかかってきたとかかな、と思っていたらしい。そうしたら当の本人は外をちょっと見て「すぐ出せ」という。なんなんだ、と。

「えぇ?オレ言った?」
「言ったって!」

多勢に無勢だ。言った覚えはないのだが、言ったのかな……と弱気になる。
仲間は「やっぱお前疲れてるんだって」と心配してくれた。
その後は特に何も起こらず、仲間からはきっと仕事で疲れてるんだ!とか、悩みでもあるのか?とかとにかく気を遣われ、酒を奢ってくれたりした。かなり楽しく過ごした。
帰りは「気持ち悪りィ」とその道は通らなかったので、もちろん何も起こらなかった。

そんな風に、「疲れてるんだ」と納得してくれた仲間たちだが、自分はまだ解せない。
なんか厭だ、気持ち悪い、と言う気持ちがずっとあった。

 その話を、いつもの仲間ではなく、他県の知り合いに誘われた合コンみたいな集まりで話す機会があった。怖い話しようぜという流れだったのだ。
唯一持っている自分の不思議な体験。
濡れた白い布の話。

話すと、みんな「へえー不思議だね」「どういうことなんだろうね」と、まあややウケ、ぐらいの反応を返してくれた。話はそれで終わりだった。そんなものだ。

 その後、SNS経由であの場にいた男から連絡が来た。

(オレは合コンに行ったのに!)

普通男から連絡来るか?と若干憤慨しながらメールを開けてみると、画像が添付されている。

ーーーあの溜池の写真だった。

 柵。
 『溺レ〼 注意』。
 白い布。でも数が減っている。
 ○月○日の写真です。と書いてある。
 最近だ。


(なんで)

だって、合コンでは特定できるような状況は話してない。出身県ぐらいしか言ってない。
何?どういうこと?

『これ何ですか?どういうことですか?』
動揺してそうメールすると、

『 ご え 』

と返ってきた。

(ご え?)

分からなかった。

今も、分からないままだ。

ーーーそんな風に聞いた話を、一言多いと有名なオオイさんに話してみた。

「それは『ご縁があった』ってことじゃないかなあ」

とのことだった。

……インターフォンは取り外した方がいい。


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こちらは毎週土曜日夜11時放送の猟奇ユニットFEAR飯による怖い話を語るツイキャス・禍話 様の配信を書き起こし・構築・編集したものになります。

◆出典:シン・禍話 第四十八夜(2022/2/05配信)
00:03:50〜

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/722501390

◆タイトル/参考サイト
禍話wiki 様
https://wikiwiki.jp/magabanasi/

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