ピアノか土地か?先祖の亡霊の血と涙の旋律「ピアノ・レッスン」第97回アカデミー賞期待の作品紹介Vol. 17
AWARDS PROFILE Vol. 17
ピアノ・レッスン
各映画サイト評価
Rotten Tomatoes: 90%(現時点)
Metacritic: 69(現時点)
IMDb: 6.6(現時点)
Letterboxd: 3.4(現時点)
あらすじ
大恐慌後の1936年、ピッツバーグ。チャールズ一家の若息子ボーイ・ウィリーは家族のピアノを売って、かつて先祖が奴隷時代に働いていた農地を買い上げようとする。だが、妹のバーニースは先祖たちの顔が彫られた歴史あるピアノを手放すべきではないと主張する...。
監督・キャスト・注目ポイント
戯曲家オーガスト・ウィルソンは生涯を通して、アメリカに生きる黒人の物語を伝え続けてきた。その物語や精神に影響を受けた人は多数いる。今や大ベテランのデンゼル・ワシントンもその一人だ。ワシントンは、「オーガスト・ウィルソンのセンチュリー・サイクル」と呼ばれる激動の20世紀アメリカを生きた黒人たちを描いた十話からなる戯曲を一つずつ映画化しており、1950年代のごみ収集人とその一家を描いた「フェンス」、1920年代のマ・レイニーと彼女が率いるバンドマン達を描いた「マ・レイニーのブラック・ボトム」に続き、今作は三作目となる。大恐慌後の1930年代を舞台に、奴隷制のトラウマが色濃い黒人一家のドラマを紡ぐ。
監督はデンゼルの息子であるマルコム・ワシントンが務めている。若干33才の彼にとって今作が長編監督デビュー作となる。また「マッドバウンド 哀しき友情」の共同脚本を担当したヴァージル・ウィリアムズと共に脚本も執筆している。
主人公のボーイ・ウィリーを演じるのは、これまたデンゼルの息子ジョン・デヴィッド・ワシントンだ。「ブラック・クランズマン」「TENET」と目覚ましい活躍が続く彼が、満を持して家族のプロジェクトに参加する。
他のキャストには、サミュエル・L・ジャクソン、レイ・フィッシャー、ダニエル・デッドワイラー、コーリー・ホーキンス、マイケル・ポッツ、エリカ・バドゥと目を見張る濃厚なメンツが揃った。この内、ワシントン、ジャクソン、フィッシャー、ポッツは2022年に再演された舞台版に引き続きの出演となる。既にトニー賞の候補にも挙がっているだけにパフォーマンスの熱の高さに期待だ。基となる戯曲はピュリッツァー賞に選ばれるなど高い評価を得た名作とのことだが、映画版はどうなるか。
評価
今年のテルライド映画祭でお披露目されて、上々の評価を得ている。舞台の詩人たるオーガスト・ウィルソンの物語に流れる豊かな詩情をキャッチ、原作のエッセンスを大事にしながら映画の形式へと拡大させるワシントンの確かな演出が光っているという。ピアノや土地が持つ歴史的意味を紐解きながら、遺産の向こうに見える先祖の存在に敬意を払う。
過去と未来が議論される一家のリビングでキャストたちは熱い演技合戦を披露している。ワシントン、ジャクソン、フィッシャー等が舞台版に引き続き、力強い演技を引き出し合う。そんな男たちの空気に支配された一家の中でも、主人公の妹バーニースを演じるダニエル・デッドワイラーの魂の演技は一際見ごたえがあるという。
家族の遺産であるピアノに大きな意味を見出す彼女の覚悟に心震わす。苦しい状況の中で綿々と命を繋いできた黒人の亡霊たちを感じさせる超自然的な描写の数々が窮屈になりかねない舞台劇の枠を広げる。黒人たちの沈黙した魂たちの声が、ピアノの旋律と共に今、立ち上がる。
11月22日よりNETFLIXで配信。
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長後の都知事としては衰退し切るまで土地を守ると誓います。