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彼女にとって人生はあなたが思うより悪いのかも「HARD TRUTHS」第97回アカデミー賞期待の作品紹介Vol. 20

AWARDS PROFILE Vol. 20

HARD TRUTHS

各映画サイト評価

Rotten Tomatoes: 98%(現時点)
Metacritic: 87(現時点)
IMDb: 7.4(現時点)
Letterboxd: 3.8(現時点)

あらすじ

 パンシーはいつもキレている。どうにもならない怒りと憂鬱に支配された彼女は身の回りの些細なことでぶち切れては周囲の人間を呆れさせていた。口論ばかりする辛辣な彼女の唯一の理解者は、性格がまるで逆の明るい妹シャンテルだけだった…。

監督・キャスト・注目ポイント

 イギリスの市井の人々を描く名手マイク・リー。近年は、画家J・M・W・ターナーの伝記映画「ターナー、光に愛を求めて」や、ピータールーの虐殺を描いた「ピータールー マンチェスターの悲劇」と、イギリスの過去のある時点に焦点を当てた歴史劇を作っていたが、今作で久しぶりに現代のロンドンに舞台を設定して、濃厚なキャラクターたちのドラマを指揮する。

マリアンヌ・ジャン=バプティスト

日々の生活から幸せを感じ取ることができない辛辣な女性と、その家族のドラマということで監督の持ち味である人間の感情の機微を掬い取る作品になっていそうだ。

何ですって?

問題を抱える主人公パンジーはマリアンヌ・ジャン=バプティストが演じており、監督とは1996年の「秘密と嘘」以来のコラボレーションとなる。主人公の明るい妹シャンテルは、マイク・リー作品常連のミシェル・オースティンが扮している。他にもデヴィッド・ウェバー、トウェイン・バーレット等が出演し、マイク・リー作品らしい強力なアンサンブルキャストを形作っている。

ミシェル・オースティンは明るい姉妹シャンテルを演じる

マイク・リーの特徴的な作品作りといえば、脚本を用いずに、俳優陣と綿密なリハーサルを通して、各キャラクター達を仕上げていき、撮影では即興劇のように演じさせるものがある。演劇界から出てきた監督ならではの手腕は、いつもキャラクターが物語を動かす魅力に満ちている。

評価

 トロント国際映画祭で公開されて、キャストの素晴らしいパフォーマンスを中心に力強い支持を集めている。2008年のマイク・リー作品「ハッピー・ゴー・ラッキー」では底抜けに明るい主人公の日々を描いていたが、今作では全くもって性格が真逆の主人公を中心にドラマが繰り広げられる。

些細なことが許せず、家族にキツく当たり、街で出会った人と口論する主人公パンジーの日々を容赦無く描いていく。実生活でも出会ったり、見かけたことがあるかもしれないずっと不機嫌な人に焦点を当てていて、監督の棘のありながらも根は優しいヒューマニストな見方がそんな主人公の生活にリアルな息吹を与える。もちろん匙加減抜群のユーモアだって顔をだす。

いつも不機嫌なパンジーを演じたマリアンヌ・ジャン=バプティストは、出会ったら思わず避けてしまいたい人間の胸の内を曝け出す圧巻のパフォーマンスを披露しているとか。対照的に生きる喜びに満ちた姉妹シャンテルを演じるミシェル・オースティンもまた印象的な存在感で輝いているそうだ。

抑えきれない心の痛みを感じる陰鬱な日々の暮らしを切り取りながら、その日々にある温かさや思いやり、ユーモアを捉えるところにリーの卓越したストーリーテラーとしての力が見て取れることだろう。


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