あの時、あの場所で、彼らは何を見て、何を感じたのか。黒人少年たちの美しくも残酷なPOV「NICKEL BOYS」第97回アカデミー賞期待の作品紹介Vol. 7
AWARDS PROFILE Vol. 7
NICKEL BOYS
各映画サイト評価
Rotten Tomatoes: 77%(現時点)
Metacritic: 90(現時点)
IMDb: 7.1(現時点)
Letterboxd: 3.9(現時点)
あらすじ
1962年、ジム・クロウ法時代のフロリダでアフリカ系アメリカ人のエルウッドは警察から無実にもかかわらず車盗みの共犯者とみなされてしまう。少年院ニッケル・アカデミーに収容されてしまった彼はそこでターナー少年と友情を育みながら、腐敗した学校で行われている恐ろしい虐待からサバイブする...。
監督・キャスト・注目ポイント
2018年に発表したドキュメンタリー「Hale Country This Morning, This Evening」でオスカー候補に挙がったラメル・ロス監督による長編デビュー作となる本作は、虐待が常態化した学校ニッケル・アカデミー(フロリダに実在したというドージャー少年院が基になっている)でサバイブする二人の少年の物語だ。コルソン・ホワイトヘッドによる2019年刊行のピュリッツァー賞受賞の同名小説を基にしている。写真家としても活動してきた監督の、題材の視点に寄り添った作りが作品を特別なものにしている。
キャストにはエルウッド少年を演じるイーサン・ヘリッセ、ターナー少年を演じるブランドン・ウィルソンら新人たちを、アーンジャニュー・エリス=テイラー、ハミッシュ・リンクレイター、ダヴィード・ディグスら中堅からベテラン俳優陣が強力にサポートしている。
評価
テルライド映画祭で公開されて圧倒的な支持を集めている。エルウッド少年の視点とターナー少年の視点を主観で物語るという大胆な作風が、これまで作られてきたアメリカに生きる黒人の物語に新しい息吹をもたらす。その詩的な映像美に魅了されるとともに、非情な虐待を繰り返すニッケル・アカデミーでの生活を観る者に追体験させる。その群を抜いたキャラクターに寄り添った描写の数々に息を呑む。それは題材となる人々の生活を丁寧に切り取ってきた監督のこれまでのドキュメンタリーや写真家としての活動を想起させる。二人の少年の主観を大事にした特殊な作りが、指導という名のもとで暴力に晒される彼らの感じる身と心の痛みを実感させ、その感情に対処する心に触れる優しさが心に染みる。
キャストの素晴らしいパフォーマンスはキャラクターたちの想いを伝染させる。特に主人公の祖母を演じたベテランのアーンジャニュー・エリス=テイラーに注目が集まっている。巧みな撮影、忘れがたい音楽も美しい。その異質で実験的な作風だけに物語やキャラクターの感情に集中できないといった否定評価もあるが、人々に異なる視点を与えることで、世界そのものの認識の仕方を変えることができるのだと、驚くほど美しく思い出させてくれる作品になっているそうだ。
主観的に見ても客観的に見ても長後は衰えてます。