第97回アカデミー賞に近いのは誰だ?:主演男優賞編!
今年も重要3賞と呼ばれる全米映画俳優組合賞(SAG)、ブロードキャスト映画批評家協会賞(BFCA)とゴールデン・グローブ賞(GG)の候補が発表されて、今シーズン注目の役者がそろった。さて今一番勢いがあるのは誰でしょう。※は英国アカデミー賞(BAFTA)のロングリスト入りの印。
主演男優賞編
3賞全てに候補入り
・エイドリアン・ブロディ『ブルータリスト』※
・ティモシー・シャラメ『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』※
・ダニエル・クレイグ『QUEER』※
・コールマン・ドミンゴ『SING SING』※
・レイフ・ファインズ『教皇選挙』※
いずれか2賞に候補入り
・ヒュー・グラント『HERETIC』※(BFCA+GG)
いずれか1賞に候補入り
・ジェシー・アイゼンバーグ『リアル・ペイン 〜心の旅〜』(GG)
・ガブリエル・ラベル『SATURDAY NIGHT』(GG)
・ジェシー・プレモンス『憐れみの3章』(GG)
・グレン・パウエル『ヒットマン』(GG)
・セバスチャン・スタン『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』※(GG)
・セバスチャン・スタン『A DIFFERENT MAN』(GG)
【ひとこと】
激戦状態の他の俳優部門に比べて穏やかな主演男優賞。受賞は置いておいてノミネート5枠にそのまま収まりそうなトップ候補5名がいて、その後ろを2、3名の候補者が追いかける構図になっている。
トップ5の1人目は、ゴールデン・グローブ賞に輝いた『ブルータリスト』からエイドリアン・ブロディだ。ホロコーストを逃れて、アメリカへと渡った建築家を演じている。作中で三十年近い時間を描いているとのことで、ブロディは祖国を離れて、戦後アメリカ社会に揉まれるキャラクターの内面を丁寧に表現した。ブロディ自身の家族の歴史にも似た物語らしく、その入魂のパフォーマンスは批評家賞から大きな賛辞を得ている。2002年の『戦場のピアニスト』でオスカー主演男優賞に輝いたブロディが久しぶりにオスカーへと帰ってくる。素晴らしいことではないか。
ブロディ二度目のオスカーへの道を追いかけるのはトップ5の2人目。『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』からティモシー・シャラメだ。おそらく今アメリカで一番ホットな若手スターであるシャラメがボブ・ディランに扮する。あの特徴的な歌声と個性的な雰囲気を完全にその身に憑依させる。歌い方はもちろん話し方や、その身のこなしまでディランディランさせる驚愕の演技。まだ29才の彼がオスカーの歴史に名を刻む可能性は十分にある。『デューン』二作目の熱演もプラスにしかならない。
上の二人を追いかけるのは映画ファンにはたまらないベテラン。トップ5の3人目は『教皇選挙』からレイフ・ファインズだ。次の教皇を決める選挙、コンクラーヴェを取りまとめる枢機卿を演じて高評価を受けた。『シンドラーのリスト』や『イングリッシュ・ペイシェント』といったドラマから『ハリー・ポッター』シリーズ、『007』シリーズ等のアクションやファンタジー、『グランド・ブダペスト・ホテル』のようなコメディとその魅力を多方面に発揮してきたファインズ。陰謀や疑念が渦巻くスリラーである今作のエンジンとして緊張感を作品にもたらしている。自身28年ぶりとなる候補入りの日は近い。
トップ5の4人目は二年連続の主演男優賞ノミネートを狙う。『SING SING』からコールマン・ドミンゴは冤罪で刑務所に収監されている男を演じた。演劇を通じた更生プログラムに参加する事で、鬱屈とした日々に変化が訪れる。表現する喜びを宿した瞳の輝きや体の躍動感に心震わされること間違いない。作品自体は会員に浸透しきれてないようで重要賞で苦戦をしいられているが、ドミンゴは常に主演候補を獲得していて、ひとまず彼のノミネートはゲットしたいところ。
トップ5の最後に滑り込むのは『QUEER』のダニエル・クレイグだ。ようやくスパイを卒業し、近年は可笑しな探偵さんを演じて順風満帆のクレイグは今作で、メキシコで年若い男に夢中になるアメリカ人を演じる。異質な雰囲気の作品の中で、彼はキャラクターのどうしようもないエモーションの核心に触れる。これまで見たことがないほどに格好がつかないクレイグの姿に驚くことだろう。
この5人の牙城を崩せるのは誰か。唯一クレイグの対象作品が他部門でのノミネートが期待できないので、彼への票がちょっと不安定だ。
では『HERETIC』のヒュー・グラントはどうか。モルモン教の布教に訪れた主人公たちを恐怖に陥れる謎の男を演じ、批評家賞をはじめ賞レースを暗躍している。ゴールデン・グローブ賞とブロードキャスト映画批評家協会賞にもノミネートされたことは大きい。『パディントン2』等、彼のここ数年の目を見張る活躍も考慮に入れてほしいところだが、ホラー作品ということもあり敬遠されそうだ。
そしたら彼しかいない!セバスチャン・スタンだ!『アプレンティス』で彼は今地球上で一番注目を集める人物の一人であろうドナルド・トランプを演じた。トランプが如何にして今のトランプになったのか、その心温まらない成長の過程をニュアンスを持って演じ切る。話題性は抜群だが、題材となる人物が疎まれているのか批評家賞でも伸び悩んだ。アメリカ国内で評価されづらい分、海外票の後押しで何とか逆転を狙いたいところ。現に英国アカデミー賞ではロングリスト入りしていて、ノミネートの可能性がある。でもスタンの前にもうひとりの候補者が立ち塞がる。
それはセバスチャン・スタンだ。『A DIFFERENT MAN』でスタンは、神経線維腫症を持つ主人公を演じた。主人公が顔を変える手術を受けたことで生活がおかしな転調を始めるというブラックコメディで、彼は主人公の旅路の中にある人間の多面性を爆発させる。シリアスでいてコミカルのバランス感覚の妙が作品の重層的なテーマを何倍にも創造的に立ち上がらせる。ゴールデン・グローブ賞ミュージカル/コメディ部門主演男優賞を受賞する大金星。だが、これを受賞してしまったがために票が『アプレンティス』派と『A DIFFERENT MAN』派で割れてしまうのではないか。
結局トップ5が揺るぎない雰囲気ではあるが、自分で自分の票を食い合うという壁を乗り越えてスタンがオスカー候補INすることができるのか、乞うご期待。
第97回アカデミー賞のノミネート発表は1月19日1月23日の予定。それに先んじて今週の中頃から全体のノミネート予想をしていく予定です。