第97回アカデミー賞に近いのは誰だ?:助演女優賞編!
今年も重要3賞と呼ばれる全米映画俳優組合賞(SAG)、ブロードキャスト映画批評家協会賞(BFCA)とゴールデン・グローブ賞(GG)の候補が発表されて、今シーズン注目の役者がそろった。さて今一番勢いがあるのは誰でしょう。※は英国アカデミー賞(BAFTA)のロングリスト入りの印。
助演女優賞編
3賞全てに候補入り
・アリアナ・グランデ『ウィキッド ふたりの魔女』※
・ゾーイ・サルダナ『エミリア・ペレス』※
いずれか2賞に候補入り
・ダニエル・デッドワイラー『ピアノ・レッスン』(SAG+BFCA)
・マーガレット・クアリー『サブスタンス』※(BFCA+GG)
・イザベラ・ロッセリーニ『教皇選挙』※(BFCA+GG)
いずれか1賞に候補入り
・モニカ・バルバロ『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(SAG)
・ジェイミー・リー・カーティス『THE LAST SHOWGIRL』※(SAG)
・アーンジャニュー・エリス=テイラー『NICKEL BOYS』(BFCA)
・セレーナ・ゴメス『エミリア・ペレス』※(GG)
・フェリシティ・ジョーンズ『ブルータリスト』※(GG)
【ひとこと】
現時点までの前哨戦で熾烈な部門となっているのが助演女優賞だ。トップランナーは二人いる。ゾーイ・サルダナとアリアナ・グランデだ。
クライムミュージカル『エミリア・ペレス』からゾーイ・サルダナはパワフルなミュージカル演技を披露している。歌って踊って、とめどないエネルギーがスクリーンから溢れ出す。その個性的な存在感からか、SFのジャンルで自分の素顔を隠したキャラクターを演じてきた彼女だが、今作では自分自身のラテンのルーツへと立ち返る。主人公の麻薬ビジネスから足を洗う手助けをした弁護士の役で、女性として生き始めた主人公と再び運命が交差したことで危険な世界に巻き込まれる。ゴールデン・グローブ賞を受賞し、一歩リードでオスカーへ弾みがついた。
サルダナに待ったをかけるは『ウィキッド ふたりの魔女』からアリアナ・グランデだ。もはや音楽界でトップの一人として数えられる彼女だが、デビューは俳優としての方が先。TVシリーズ『ビクトリアス』ではキュートなキャラクターで親しまれていた。そんなグランデは今作で演技という彼女のルーツに立ち返る。後に善い魔女と呼ばれるガリンダを演じた。美しく明るい人気者だけど魔法の才能はないガリンダを持ち前のカリスマと圧倒的な歌唱で魅せていく。後の西の悪い魔女エルファバを演じたシンシア・エリヴォとのパーフェクトハーモニーにうっとり。新進の俳優にも優しい部門だけに一気に受賞の可能性もある。映画の大ヒットも大きなアシストとなる。
ミュージカル対決となりそうな助演女優賞だが残りの三枠はオープンなレースとなっている。重要賞にもおいても候補の顔ぶれがバラバラで混戦模様だ。
『教皇選挙』からイザベラ・ロッセリーニは尊敬を集めるベテラン中の大ベテラン。ハリウッドを超えてワールドシネマのロイヤリティでもある彼女にとって初めてのオスカー候補入りを狙う。出演時間が限られているとのことだが、男ばかりのキャストの中で彼女が作品にもたらす意味合いは大きい。功労賞的意味合いの票を集めやすそう。
『サブスタンス』のマーガレット・クアリーからも目が離せない。近年はさまざまな作品で大活躍。2024年は『ドライブアウェイ・ドールズ』、『憐れみの3章』と大胆不敵な作品で新鮮な風を巻き起こしていたが、特に今作ではそのぶっ飛んだ内容を体現するネクストレベルのパフォーマンスを披露した。デミ・ムーア演じる老いたTVスターの若いバージョンを演じていて、ムーアと共に大いに評価を受けている。ムーアが勢いづく中で彼女にも風は吹いている。
ちょっと皆さん、『ピアノ・レッスン』を忘れないで。ダニエル・デッドワイラーにもチャンスをください。家宝のピアノを売るか売らないかで議論する家族のドラマで、彼女は先祖の血と涙の歴史と精神が刻み込まれたピアノを売ることに反対する。ピアノを通じて先祖の想いにアクセスするスピリチュアルなパフォーマンスは迫力たっぷり。作品の根幹となるテーマを体現させた。アメリカ俳優組合賞ノミネートでオスカー候補入りが見えてきた。2年前の『ティル』の悲劇が繰り返すことがないことを願う。
ゴールデン・グローブ賞のドラマ作品賞受賞で勢いづく『ブルータリスト』からはフェリシティ・ジョーンズが参戦。エイドリアン・ブロディ演じる移民建築家の最愛の妻を演じる。長尺の作品を強力に照らし出す優美な佇まいと力強い眼差しは移民の物語に豊かな息吹を与える。批評家賞にはちょこちょこ顔を出しているが重要賞ではゴールデン・グローブ候補のみ。微妙なポジションにいる。
実力派アーンジャニュー・エリス=テイラーは『NICKEL BOYS』で主人公の祖母を演じる。主人公のPOVで描かれる作品だけに彼女が彼らに与える温かな眼差しを観る者はダイレクトに浴びる。『NICKEL BOYS』が批評家賞で愛されているのに合わせて、彼女もあちらこちらでチョイスされているが、重要賞では作品もろともスルーされ気味だ。批評家受け止まりになってしまうのか。
ゾーイ・サルダナに強いフォーカスが当たっている『エミリア・ペレス』だが、セレーナ・ゴメスも一緒に候補入りを狙う。ガスコン演じるマフィアボスの妻の役どころで、犯罪から足を洗い、女性として生きる主人公を追い求める複雑なキャラクターを演じ切った。音楽、演技と活躍してきたゴメス。最近はTVシリーズ『マーダーズ・イン・ビルディング』でも大物相手にコメディセンスを発揮している。ミュージカルとなる今作では持ち前のパワフルな歌声を響かせているそう。『エミリア・ペレス』への支持が日に日に熱くなってきているだけにオスカーノミネートの日は近い?
個人的にはサルダナ、グランデ、ロッセリーニ、ジョーンズ、クアリーの5人がノミネートの席に収まりそうな予想ではあるが、そこに待ったをかける有力候補がまだまだいる。
重要なアメリカ俳優組合賞で逆転候補入りを決めたのはモニカ・バルバロとジェイミー・リー・カーティスだ。
『THE LAST SHOWGIRL』はラスヴェガスで長年、ショーガールとして働いてきた主人公が最後のショーに臨む様を描いたドラマで、ジェイミー・リー・カーティスは主人公と一緒に苦難を乗り越えてきた元ショーガールにして今はカジノで客にカクテルを運んだり、踊ったりするビヴァテイナーを演じている。カーティスの地をいくようなキャラクターで主人公を演じるパメラ・アンダーソンを支える。二人の友情は砂漠に囲まれたラスベガスのオアシスとなる。アメリカ俳優組合賞からの支持は、俳優たちの姉御的存在カーティスが逆転候補入りを決めるサインになるかもしれない。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』でフォークシンガーのジョーン・バエズを演じたモニカ・バルバロは正攻法でオスカーに挑む。『トップガン マーヴェリック』の戦闘機のコックピットから脱出し、歌唱パフォーマンスとギターの演奏を特訓。フォークの巨人ジョーン・バエズのソウルを捉えた。ソロでも、シャラメ演じるボブ・ディランとのデュエットでも目と耳に訴えかける華麗なパフォーマンスでオーディエンスを魅了している。作品の年末公開で批評家賞では出遅れるもジワジワとその支持を集めている感。主演シャラメはもちろん助演男優ノートンにも風が吹いているので、もしかしたらバルバロも一気にオスカー候補に名を連ねるかもしれない。
完全に出遅れた感じの『HARD TRUTHS』のミシェル・オースティンと『喪う』のナターシャ・リオンにも注目してください。全米映画批評家協会賞にも選ばれてます。
グランデとサルダナ以外、誰が来るか分からないエキサイティングな部門だ。
第97回アカデミー賞のノミネート発表は1月19日1月23日の予定。それに先んじて来週の中頃から全体のノミネート予想をしていく予定です。