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ステージは私の精神、そしてオペラは私の魂「MARIA」第97回アカデミー賞期待の作品紹介Vol. 22

AWARDS PROFILE Vol. 22

MARIA

各映画サイト評価

Rotten Tomatoes: 74%(現時点)
Metacritic: 65(現時点)
IMDb: 6.8(現時点)
Letterboxd: 3.5(現時点)

あらすじ

 オペラ歌手として世界にその名を轟かせ、歴史にも名を刻むマリア・カラスはスランプに陥っていた。時は1970年代、フランスのパリで、彼女は栄光のステージへのカムバックを試みる…。

監督・キャスト・注目ポイント

「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」ではジャクリーン・ケネディ「スペンサー ダイアナの決意」ではダイアナ妃、と20世紀の重要なヒロインたちを描いてきたパブロ・ララインが、このトリロジーの締めくくりとする今作で描くのは、20世紀最高のソプラノ歌手とも言われるマリア・カラスの晩年の肖像だ。全盛期を過ぎて、かつてのような美しい歌声を響かせることもできず、健康状態もボロボロになっているカラスが、久しぶりに舞い込んだツアーのオファーを前に苦悩する物語だそう。「スペンサー ダイアナの決意」でも組んだスティーヴン・ナイトが脚本を担当し、カラスの複雑な心情を描き出す。

マリア・カラスという大役を担うのはアンジェリーナ・ジョリーだ。近年静かなキャリアだったが、まさに役柄と同じように再び舞台のスポットライトを浴びる。七ヶ月に及ぶ姿勢、呼吸法、イタリア語、オペラ歌唱のトレーニングを積み難役に挑んでいる。主人公を支えるスタッフにはピエルフランチェスコ・ファヴィーノアルバ・ロルヴァケルの二人を揃えた。他にもハルック・ビルギナー、コディ・スミット=マクフィー等が出演している。

パリ、ギリシャ、ミラノとカラスの足跡を辿るようなロケーション、そしてスカラ座での撮影が作品に重みを与える。撮影監督は、任せて安心のエド・ラックマンだ。美術や衣装に至るまで当時のパリの空気に染まった舞台に酔いしれる。ヴェネチア国際映画祭でプレミア公開されて、主演アンジェリーナ・ジョリーのパフォーマンスを中心に支持を集めている。

評価

 ララインの20世紀の重要な女性トリロジーの締めくくりに相応しい、オペラティックなマリア・カラスの人生を彫刻のような美しさで描き出す。かつての栄光の影で、体調も優れない彼女の静かな立ち振る舞いの下には、どうにもならない激しいもがきを感じさせる。カラスとオペラの悲劇的な関係性を浮かび上がらせながら、欠点の多いカラスの丸裸の心情を優しく見つめる。

その肖像に重みを与えるのはアンジェリーナ・ジョリーの素晴らしい演技だ。悲しみと憂うつ、それに薬も服用しているカラスの生々しいエモーションを体現する。荘厳さも力強さも繊細さも併せ持ったその複雑怪奇な人物像を見事に立ち上がらせている。作中の歌唱シーンのほとんどは、実際のマリア・カラスによる音源が使われているが、重要な場面でジョリーの歌声が使われているそうだ。

晩年と全盛期を行き来しながら、シュールレアリスム的撮影で捉えられた音楽シーンも相まって、幻想的な伝記映画に仕上がっているという。一方で、単調な伝記物とする評や、あまりにも美しく作られた映像ばかりでキャラクターの奥底にある感情を捉えきれていない等の厳しい指摘もある。

とはいえ、マリア・カラスの魂に触れるようなアンジェリーナ・ジョリーの献身的なパフォーマンスには皆、跪く他にないようだ。真のアーティストにしか見えない世界へと誘われる。

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