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第97回アカデミー賞に近いのは誰だ?:主演女優賞編!

 今年も重要3賞と呼ばれる全米映画俳優組合賞(SAG)、ブロードキャスト映画批評家協会賞(BFCA)とゴールデン・グローブ賞(GG)の候補が発表されて、今シーズン注目の役者がそろった。さて今一番勢いがあるのは誰でしょう。※は英国アカデミー賞(BAFTA)のロングリスト入りの印。

主演女優賞編


3賞全てに候補入り

・シンシア・エリヴォ『ウィキッド ふたりの魔女』※
・カルラ・ソフィア・ガスコン『エミリア・ペレス』※
・マイキー・マディソン『ANORA アノーラ』※
・デミ・ムーア『サブスタンス』※

いずれか2賞に候補入り


・パメラ・アンダーソン『THE LAST SHOWGIRL』(SAG+GG)
・アンジェリーナ・ジョリー『MARIA』(BFCA+GG)

いずれか1賞に候補入り


・エイミー・アダムス『ナイトビッチ』※(GG)
・マリアンヌ・ジャン=バプティスト『HARD TRUTHS』※(BFCA)
・ニコール・キッドマン『ベイビーガール』※(GG)
・ティルダ・スウィントン『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』(GG)
・フェルナンダ・トーレス『I'M STILL HERE』(GG)
・ケイト・ウィンスレット『LEE』※(GG)
・ゼンデイヤ『チャレンジャーズ』(GG)


【ひとこと】
トップ4名が手堅く前哨戦ノミネートを重ねて、オスカーでも候補圏内に入っている様子の主演女優賞。やっぱり作品賞候補の可能性がある作品からの演技は支持されやすい。

中でも主演女優賞有力なのは、オスカーでも作品賞受賞の可能性を秘めている『ANORA アノーラ』からマイキー・マディソンだ。シンデレラストーリーを現代的に変換した今作で、毎日が厳しいセックスワーカーを演じたマディソンはフレッシュなスターの輝きを放っているそうだ。新婚の幸せも束の間、ロシアの厳つい奴らが押し寄せる混沌の状況にひるまない生命力が眩しい。無邪気と哀愁を同居させる今年を代表するパフォーマンス。初ノミネート初受賞も夢じゃない。

こんなにすぐピッグになるとはタランティーノもびっくり

マディソン受賞をすんなりと許さないのは『サブスタンス』からデミ・ムーアだ。カンヌから始まった快進撃は長年の映画ファンの胸を熱くさせる。俳優人生の中でアップダウンを味わったムーアにしか出来ない豪快な演技は、クレイジーなストーリーのテンションのギアを何段階も上げてしまう。そもそもホラー映画、しかもボディホラーというオスカーでは受けそうにないジャンル映画なのに、ムーアの存在感と共にスルーできない人気を集めている感。ノミネート投票前での最高のタイミングでゴールデン・グローブ賞受賞!初ノミネートは間違いないだろう。

新たな代表作誕生!

女性たちの感情が爆発するミュージカル『エミリア・ペレス』の象徴とも言えるのがカルラ・ソフィア・ガスコンだ。麻薬カルテルのボスが、犯罪から足を洗うと共に、女性として生き始める物語で、ガスコンは理想を叶えた今の生活と、過去に置いて来た家族への思いの間で揺れ動く主人公の叫びをパワフルな歌唱と共に体現する。役柄同様にトランスジェンダーであるガスコン。ノミネートされるだけでその名はアカデミーの歴史に刻まれるが果たして。

ガスコン

ミュージカルといえば西の悪い魔女も黙っちゃいない。シンシア・エリヴォは『ウィキッド ふたりの魔女』で勝負に出る。緑の肌をもつ魔女エルファバを演じた彼女は、ブロードウェイで培った圧倒的なミュージカルの才能を武器に、肌の色のせいで周囲から疎まれるキャラクターの美しい心をエモーショナルでいっぱいに満たす。のちの善い魔女ガリンダに扮するアリアナ・グランデとのハーモニーも完璧な音色を奏でる。作品は大ヒット。箒に乗って空高く舞うエリヴォを誰も止めることはできない。

魔法にかけられて

ここまでの四枠は手堅いが、最後の一席を巡るレースが熾烈だ。

アメリカ俳優組合賞でサプライズノミネートを決めたのは『THE LAST SHOWGIRL』のパメラ・アンダーソンだ。その長く苦難の多いキャリアで放った大ホームラン。アンダーソンはラスヴェガスでショーガールとして何十年も働いてきた主人公を演じた。ショーが終演に近づく中で人生の岐路に立つ主人公を熱演し、キャリアベストの賛辞を獲得した。小さな小さな作品なだけに組合賞で認められたことはアンダーソンに対する支持が熱い証拠となる。

デミ・ムーアと共にカムバック・オブ・ザ・イヤー

そんな一方で、賞レース前の予想で受賞もあるのではとされていたのが『MARIA』のアンジェリーナ・ジョリーだ。近年、めぼしい作品がなかったが悲劇のオペラ歌手マリア・カラスを演じて、久しぶりの高評価を得ていた。オスカー的には好みの伝記映画ということもあり、二度目の受賞を目指していたが、アメリカ俳優組合賞からは落選、英国アカデミー賞ロングリストからは漏れて、頼みの綱だったゴールデン・グローブ賞では受賞を逃すというトリプルパンチ。実は同監督の『スペンサー ダイアナの決意』の主演クリステン・スチュワートは、今のジョリーと全く同じ状況下でオスカー候補入りを果たしていたが、スチュワートにあった後押し的な大量の批評家賞支持がジョリーにはほとんどないこともあり、オスカーへの道はギリギリでアウトな雰囲気が日に日に濃くなっている。

アンジー、元気出して

マディソンやムーアの他にも批評家賞で愛された者がもう一人いる。『HARD TRUTHS』のマリアンヌ・ジャン=バプティストは、常に不機嫌で人を寄せ付けない主人公が心に抱える重みを容赦ない生々しさで演じた。全米やLA、NY等の重要な批評家賞を次々に手中に収めている。ただ作品が会員内で浸透していないのか、演じたキャラクターが敬遠されているのか、重要賞では物足りない結果になっている。英国アカデミー賞ではロングリストに名を連ねており、ヨーロッパ会員の支持が重要になってきそうだ。

ノミネートされれば28年ぶり

ゴールデン・グローブ賞でオスカー前線に急浮上に成功したのは『I’M STILL HERE』のフェルナンダ・トーレスだ。軍による独裁政権時代のブラジルで夫を誘拐され、子供たちを育てながら反軍事独裁運動を続けた実在の活動家を演じた。家族のため、国のために戦い抜いた主人公の心に肉薄する。前哨戦ではイマイチ目立てなかったが、繊細にして感情に訴えるパフォーマンスへの支持は常に熱かった。ノミネート投票前のタイミングでゴールデン・グローブ賞を受賞したことは候補への大きなアシストになりそうだ。ちなみに彼女の母は四半世紀以上前に『セントラル・ステーション』でオスカー候補に挙がったフェルナンダ・モンテネグロ。モンテネグロは今作で年老いた主人公を演じている。

お母さんに続け

上の候補者たちが強すぎてエイミー・アダムスやニコール・キッドマン、ケイト・ウィンスレット、ティルダ・スウィントンらオスカー常連あるいはベテラン組も入ることの出来ない激しいレースが繰り広げられている。

現時点の個人的な予想はエリヴォ、ガスコン、マディソン、ムーア、そしてジャン=バプティストとしておこう。

 第97回アカデミー賞のノミネート発表は1月23日の予定。それに先んじて今週の中頃から全体のノミネート予想をしていく予定です。

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