見出し画像

LAST WEEK REMIND~暗くなるまで待つんだ野郎どもとファーストカウ~

LAST WEEK REMIND
~暗くなるまで待つんだ野郎どもとファーストカウ~

1/28-2/3の振り返り

☆は4点満点

【映画】
・野郎どもと女たち(1955)
☆☆:それにしてもマンキーウィッツである。今作の監督と脚本を務めているジョセフ・L・マンキーウィッツ。彼の作品になかなかハマることがない。彼の丁寧にしてトーキーな性格描写は見ごたえがある一方で、それが間延びした印象を与えてしまう時がある。「イヴの総て」や「三人の妻への手紙」など、キャラクター達の複雑な心情をじっくりと描くときには良いのだが、「クレオパトラ」や「ジュリアス・シーザー」などの大掛かりな歴史劇は冗長に感じてしまう。舞台的に空間が限られている作品向きな作り手ということだろう。「野郎どもと女たち」はカラフルなブロードウェーミュージカルだ。魅力的なキャラクターと優れたナンバー、ゴージャスな振り付け、豪華絢爛なセットや衣装が揃っているが、大盤振る舞い過ぎて、やっぱり冗長になってしまった。F・シナトラ演じる金に困ったギャンブラーと、彼との結婚を14年待っているV・ブレイン演じる婚約者のカップル。M・ブランド演じるギャンブラーとJ・シモンズ演じる救世軍シスターのカップル。2組のカップルの遠回りな恋模様が音楽と共に描かれる。シナトラとブレインのカップルに大した新味はないが、珍しくミュージカルで頑張るブランドと、様々なことに純粋で真面目なシモンズのカップルが可愛らしい。キューバのシーンはどれもこれもキュートでイイじゃない。シナトラとブランドのそりの合わない雰囲気が笑える。それでも1シーンに2曲入れ込んだり、個性豊かなキャラクターが顔を揃えたりと作品が膨張した割には、ラストへあっけらかんと突入してしまう。全体的にナイスリーナイスリーな気の良さはあるが間延びしている。この感想みたいに。

・暗くなるまで待って(1967)
☆☆☆:アメリカが舞台なのに英国の気品ある空気が漂うのは、監督テレンス・ヤングが英国を中心に活動していたからか。派手な演出は抑えて、アパートの一室で繰り広げられる心理的攻防戦を静かに盛り上げている。A・ヘプバーン演じる盲目の女性はひょんなことから、犯罪グループと渡り合うことになる。彼女は己の機転と耳をフルに使い、生意気で賢い隣人の女の子に協力を求めながら、三人組の犯罪者と立ち向かっていく。彼女が一人、立ち向かう様に自立というコクのあるテーマも浮かび上がる。ヘプバーンの演技はドラマチック過ぎる時もあるが、舞台が限られていることもあり、作品に強弱をつけることに成功している。だが一番の立役者は主犯格を演じたA・アーキンだろう。どす黒いサングラスと奇妙な髪型、特徴的なしゃべり方で笑いを誘いながら、誰よりも冷血で恐ろしいキャラクターに命を与えている。ヤングのシャープでスマートな演出と舞台劇を基にした脚本が、部屋にある平凡な物(照明や冷蔵庫、電話等)を使って極限までサスペンスを高める。電話の着信音だけで、こんなにもゾクゾクさせられるとは。たまらないぜ。

・ファースト・カウ(2020)
☆☆☆☆:1820年代のアメリカ、オレゴンの森林にある貿易の砦で2人の男が出会う。料理人とビジネスの才がある中国人。作品はこの2人の生活を追うことに終始する。それでも、なぜか観せ切ってしまう。大きなことはほとんど起きない。作中で一番大それたことは、夜中に牛からミルクを盗み搾ることくらいだ。この一帯に一頭しかいない寂しそうな牛を優しく撫でながら、二人はミルクを盗み、そのミルクでドーナツを作り始める。そのドーナツが砦町で人気が出始め、二人はさらに大きな夢を掴み取ろうとする。この二人の純度の高い友情と、ささやかなことに喜びのあるゆっくりとした生活の営みを目にして、穏やかな気持ちになる。そこに言葉はいらない。生と死が繰り返される自然が、横たわる二人を包み込む様に残酷なほどの美しさをみる。

・ティル(2022)
☆☆☆:今から約70年ほど前のアメリカ・ミシシッピー州で14歳の少年エメット・ティルが白人らからリンチを受けて殺された。愛する息子を失った母親メイミーは喪失の中から立ち上がる。喪失の底へと落ちていく前半から、アメリカに生きる黒人のやるせなさを感じさせる裁判の後半まで、最も重要視されるのはメイミーの視点だ。確かにこの事件の裁判と彼女の行動が、後の公民権運動の大きな力に変わっていくのだが、核となる部分にはメイミーのエメットへの愛だけしかない。だからそれを完全に体現するダニエル・デッドワイラーが映画の心臓となる。例えば、息子の死によって悲しみに暮れていた彼女が、変わり果てた遺体と対面する場面。想像を絶する悲しみの表情から、ある決断をする決意の表情へと変わっていく様は、脳裏に焼き付く壮絶な姿だった。スクリーンを超えて覚悟が伝わってきた。確かにテーマは重いし、形式としては伝統的な伝記映画にも見えるが、メイミーの心情に肉薄することにより、差別の問題に関わりのない者はいないのだという、時代を超える重要なメッセージを伝えている。


【TV】
・スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー 第1シーズン第7話
・シッツ・クリーク 第6シーズン第13話
・吸血キラー/聖少女バフィー 第1シーズン第1話
・不適切にもほどがある! 第2話


【おまけ】
・今週のベスト・ラヴィット!
横田目悠

いいなと思ったら応援しよう!