不適切ですが、それが何か?「BABYGIRL」第97回アカデミー賞期待の作品紹介Vol. 19
AWARDS PROFILE Vol. 19
BABYGIRL
各映画サイト評価
Rotten Tomatoes: 90%(現時点)
Metacritic: 82(現時点)
IMDb: 6.0(現時点)
Letterboxd: 3.5(現時点)
あらすじ
会社のCEOとして素晴らしいキャリアと絵に描いたような美しい家族を手に入れたロミーは、会社のインターンの若者サミュエルと危険な恋に落ちる。その関係は彼女の手に入れたもの全てを奪いかねないものだった...。
監督・キャスト・注目ポイント
監督、脚本のハリナ・ラインの興味は常に、人と人の間に発生するダイナミック=力関係に向いている。監督デビュー作となった「INSTINCT」では、刑務所で働くセラピストと性犯罪を犯した受刑者との一線を超える関係性を綱渡りで描き出し、英語デビュー作でもあった前作「BODIES BODIES BODIES」では人狼ゲーム要素を用いて、繋がっているようで繋がっていないSNS世代の若者たちの心理を炙り出してみせた。
そして今作では優秀なCEOと野心溢れるインターンの禁じられた恋を着火剤にしてありとあらゆる導火線に火を点ける。仕事でも家庭でも成功したロミーを演じるのは今現在、黄金期突入中のニコール・キッドマンだ。中堅からベテランの域に足を踏み入れつつある彼女だが、精神的にも肉体的にもチャレンジングな役柄に挑み続ける様は圧巻だ。
そんな彼女とセクシャルな関係を結ぶ若きインターン、サミュエルにはハリス・ディキンソンが扮している。近年「逆転のトライアングル」「アイアンクロー」等で多数のキャストに埋もれない存在感をみせる彼だが、今年は他にもスティーヴ・マックィーン監督の「ブリッツ ロンドン大空襲」の公開も控えていて、まさしく期待の新星だ。また他にもアントニオ・バンデラスやソフィー・ワイルドが出演している。
評価
ヴェネチア国際映画祭でお披露目されると、その刺激的なエロティックスリラーに魅了される者が続出し、ニコール・キッドマンに女優賞が与えられた。エロティックスリラーという一つのジャンルを飛び出して興味深いテーマにも恐れることなく切り込む爆発力と瞬発力のある作品に仕上がっているという。
今作で描かれる職場内の力関係は、エイドリアン・ラインの「幸福の条件」やポール・バーホーベンの「氷の微笑」のような作品から影響を受けているそうで、80年代90年代に量産されていたこのジャンルを再び現代の世に解き放つ。
職場内の恋愛、それもCEOとインターンの関係性、おまけにCEOには夫子がいる。嫌われそうなキャラクターたちによる嫌われそうな行いが繰り広げられるのに、キャラクターたちの渦巻く心模様を繊細に描くことで、最初から最後まで目の離せない作品に仕上がっているそうだ。徐々にCEOとインターンの力関係がシフトしていくピンっと張った緊張感の中で、ポッと心の隙間に入り込むユーモアがスパイシー。そして今作のエンジンとなるのはセックスだ。その雰囲気、その限界、その過ち、その興奮が物語のメロドラマを絶頂のステージへと誘う。
主演キッドマンは恐れを知らぬエネルギーで身も心も丸裸になり、新たな自分を発見する主人公に魂を込める。キッドマンの相手となるディキンソンも堂々とした佇まい。彼の挑発的な眼差しに本能が掻き乱される。
メロドラマの楽しさと予測不能のスリリングな展開に満足する者もあれば、議論する者も現れることだろう。ハリナ・ライン監督による#MeToo後の世界を生きる我々に向けた挑戦を受け止めろ。