【決定】イアン・マートセン獲得について思うこと【アストン・ヴィラ2024年夏移籍考察(6)】
アストン・ヴィラサポーターの皆さん、そしてプレミアリーグや欧州サッカーのファンの皆さん、2023/24シーズンも応援お疲れ様でした。
2024年夏のオフシーズンは、アストン・ヴィラに関する移籍の噂がある選手や退団の可能性がある選手について個人的な見解を「note」で更新していこうと思います。
第6回はチェルシーからの加入したオランダ代表DFイアン・マートセン(22)についてです。
今季ローン先のドルトムントでUEFAチャンピオンズリーグ準決勝に大きく貢献した左SBのプレースタイルやアストン・ヴィラでの起用法について綴ります。
(1)移籍の流れ
6月28日にアストン・ヴィラはチェルシーからイアン・マートセンを非公開の移籍金で獲得したと発表しました。移籍金は推定3750万ポンド。契約年数は6年と報じられています。
彼の獲得を狙った理由は、左SBの補強が今夏の移籍市場における最優先事項の一つだったためです。詳しくは後述しますが、ルカ・ディニュとアレックス・モレノの31歳コンビでは不安がありました。
一方でアストン・ヴィラからオマリ・ケリーマンがチェルシーへと移籍することが決定的となっています。両クラブ間でのスワップ取引のような形になったのはPSR収益性と持続可能性に関する規則)が影響していると考えられます。
こちらはケリーマンの「note」で見解を書いているので、よろしければそちらでご確認ください。
(2)イアン・マートセンの経歴
マートセンはオランダのフラールディンゲン生まれの22歳。フェイエノールト、スパルタ・ロッテルダム、PSVとオランダの育成に定評があるクラブを渡り歩き、16歳の時にチェルシーユースに加入しました。
後にチェルシーでチームメイトになるノニ・マドゥエケとは、2002年3月10日と全く同じ誕生日。彼らの縁はユース年代にさかのぼり、マートセンが所属していたPSVユースとマドゥエケが所属していたトッテナムユースが試合を行った際に、マドゥエケの父親がマートセンの両親と話し、PSV移籍をコーチに推薦したことで彼はオランダ行きを決断します。
同じタイミングでマートセンがチェルシーに移籍したことでチームメイトになることはありませんが、彼らは晴れて2023/24シーズンに半年間限定でしたが同僚となりました。
本題に戻りますと、マートセンは18歳で迎えた2020/21シーズンにチャールトン・アスレティック(リーグ1)、翌2021/22シーズンにコベントリー・シティ(チャンピオンシップ)へとローン移籍します。どちらのチームでも主力選手として活躍すると、2022/23シーズンには彼の評価を大きく高めるキッカケとなるバーンリーでのローン生活が始まります。
チャンピオンシップ史上最速優勝を成し遂げたヴァンサン・コンパニ監督のチームでマートセンは左SBのレギュラーに定着。4得点6アシストと圧巻の活躍を披露し、リーグベストイレブンにも輝きました。
迎えた2023/24シーズンはチェルシーに復帰したものの、マウリシオ・ポチェッティーノ監督にほとんど左SBでは起用されず、前線での起用がメインに。冬に出場機会を求めて移籍したドルトムントで、UEFAチャンピオンズリーグ準優勝に貢献。CLのベストイレブンにも選出されました。
(3)イアン・マートセンのプレースタイル
彼のプレースタイルを一言で表すと、「攻撃センス抜群のレフトバック」です。
ファイナルサードで能力を発揮する選手で、クロスにシュートと左足の技術が抜群。バーンリー時代には直接FKを決めるなど、セットプレーのキッカーとしても優秀です。
ドルトムントではヌリ・シャヒンが今冬にアシスタントコーチとなったことで偽SBの戦術が取り入れられて、その中でマートセンがキーマンとなりました。アトレティコ・マドリードとのCL準々決勝1st legにてビルドアップのミスを突かれて失点を喫したことで、シーズン終盤は内側に絞る頻度こそ減りましたが、中盤の選手と遜色ない視野と技術の高さでチームの躍進を支えました。
このイメージが強いため「偽SB」専門と思われがちなマートセンですが、大外をアップダウンする純粋な左SBの役割も得意です。スピードもあり、2023/24シーズンのブンデスリーガでは全体で29位となる時速35.05kmを記録しました。
課題を挙げるとすれば守備の部分。地上戦での対応は印象ほど苦手にしていないですが、身長が167cmということもあって空中戦は大の苦手。今シーズンもブンデスリーガで空中戦は2度しか勝てず、勝率は18%に留まりました。ゴールキックをはじめ、相手のロングキックへの対応には気をつけなければはいけません。
ただ、1つ朗報なのは、アストン・ヴィラではこうした守備の弱点が評価の優先順位として低いということ。すでに所属しているルカ・ディニュとアレックス・モレノの両CBも守備が得意な選手ではないですが、それでも成立してます。どちらかと言えば攻撃面で違いを作ることが重要視されており、ポジション争いにおいて致命傷とはならないでしょう。
(4)イアン・マートセン獲得についての個人的見解
この移籍は今後のアストン・ヴィラにとって、大きなプラスとなる可能性があると思っています。その理由をいくつか解説していきます。
①プレースタイルとチームのスタイルがフィット
アストン・ヴィラの初期配置は[4-2-3-1]ですが、敵陣に押し込んだ際は[3-5-2]へと可変します。その際に左SBが左WGの位置まで上がって攻撃参加します。
このことからもわかるように、ウナイ・エメリ監督は左SBにWG並みの火力を求めています。この役割に自らドリブルで運べて、良質なクロスを持っているマートセンは適していると言えるでしょう。
彼がフィットできると断言できる理由は、バーンリー時代のプレーを見ているからです。2022/23シーズンに彼は[4-2-3-1]から[3-5-2]への可変をシーズンを通して経験済みです。彼が左CBのような形となって、右肩上がりの可変もありましたが、左肩上がりのパターンもあり、加入前からアストン・ヴィラの可変に慣れています。
なお、昨年バーンリーについての記事を『footballista 』で書かせていただきました。こちらは有料記事ですが、気になる方はご一読よろしくお願いいたします。
②既存の左SBの去就が不透明
2023/24シーズンのアストン・ヴィラは主にルカ・ディニュとアレックス・モレノの2人のレフトバックでシーズンを完走しました。彼ら2人は今年31歳を迎える年齢で、決して若いとは言えません。
今季のディニュはシーズンを通して一度しか怪我で離脱をしませんでしたが、その前の1年半は頻繫に負傷を繰り返しています。アレックス・モレノに関しては今季を通して負傷に悩まされました。
こうした経緯を踏まえると、今夏の左SB獲得は必須事項でした。世代交代にも成功するという意味でも、今夏の移籍市場に出ている選手の中では、彼が最もウナイ・エメリのサッカーに合う左SBと言えるのではないでしょうか。
③豊富な経験
マートセンは年齢こそ22歳ですが、今季終了時点でクラブキャリア通算158試合に出場しています。この年齢でこれだけトップチームで試合に出場している選手はそうそういません。
2023/24シーズンのCLでの戦いぶりも大いに評価できますね。CLでの難しい試合を自らの活躍で勝ち上がったことだけでなく、決勝でパスミスから失点に関与した苦い経験もあります。「成功と失敗」を繰り返すことで、さらなる成長にも期待できます。
CLファイナでの雪辱を2024/25シーズンのアストン・ヴィラで晴らして欲しいですね。
新加入選手についての考察も随時更新していこうと思うので、よろしければXのアカウント(@yoichiro_yasu)やこちらの「note」をフォローしていただけると幸いです。