魔法使いの夜、久遠寺有珠が誕生するまで(きのこ考察もあるよ)
初めに
2023年9月30日。今日は魔法使いの夜のメインキャラである久遠寺有珠の誕生日である。僕が有珠に出会ったのは大学2回生の頃だった。なのでざっと2年前になるのだが、この2年で様々なことが久遠寺有珠というキャラクター、ひいては魔法使いの夜というゲームを中心に変化してきた。魔法使いの夜をプレイした後、TYPE-MOON以外のノベルゲームをプレイするようになったし、紅茶を飲むようになった。またYoutubeで動画制作をしたり、夢小説を書いたりもした。そしてこのサイトを立ち上げたのも、辿っていくと久遠寺有珠と魔法使いの夜が根っこにあった。
というわけで今回は久遠寺有珠の誕生日と絡めて「いかにして久遠寺有珠というキャラクターが誕生したのか」を奈須氏やこやま氏などのインタビューや記述を基にしてまとめていく。
この記事が本編をクリアした人にとって、魔法使いの夜と久遠寺有珠を深く知る手助けになれば幸いである。
魔法使いの夜について
この世に存在する物語のほとんどは、物語があって初めて登場人物が存在する。二次創作やスピンオフはまた別だが、魔法使いの夜は前者である。だから久遠寺有珠が作品内の登場人物である以上、魔法使いの夜がどういったコンセプトで作られたのか知ることは非常に重要な作業である。
シナリオ担当の奈須氏は4Gmarer.net(2012)とファミ通(2022)のインタビュー記事内で、魔法使いの夜を”工芸品”や”宝石箱”と表現した。プレイした人ならこの表現に強く共感してくれると思う。さらにこの言葉の補強として奈須氏は次のように語っている。
このように、魔法使いの夜とはそれまでのTYPE-MOON作品とは異なるアプローチで制作された作品なのである。
以下まほよに対する小考察(本筋とはそこまで関係ないので飛ばしても大丈夫です)
まほよをそれまでとは異なるアプローチで作成した理由として「ノベルゲームやアドベンチャーゲームというジャンルそのものの底上げ」が触れられていた。だが僕はさらに根底に、奈須氏の「消費文化へのアンチテーゼ」があると考えている。
その根拠となるのが「月姫R」発売後の4Gamer.net(2021)である。その記事で奈須氏はこう述べている。
(続きは僕が運営している個人サイトからどうぞ)
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久遠寺有珠が出来るまで
過去の発言から、魔法使いの夜は工芸品・映画のようなイメージで作られた作品だということが分かった。ここからは、その中で久遠寺有珠が誕生した経緯を見ていこう。
久遠寺有珠について明言はされていないが、先ほど触れたまほよ原案が初出と思われる。しかし、奈須氏は有珠の設定が誕生した経緯をほとんど語っていない(もし文献があれば教えてください)。
①デザイン面
まほよのキャラクターデザインはこやまひろかず氏であるが、有珠のデザイン原案は武内氏が手掛けている [1]。つまり武内氏の原案にこやま氏が修正を重ね現在の有珠が誕生したのだ。
服装に関してこやま氏がいくつかコメントをコメントを残しており、各自まとめてみると
また、作品が進むにつれて多彩な表情を見せるようになる有珠だが、こやま氏はこの微妙な変化を描くのに苦労したようだ 。だが、奈須氏から有珠の性格について本質的な部分を聞いたことで、そこから順調に書き進められるようになったという。というわけで、ここからは有珠の性格も含めて設定面を解説していく。
②設定面
先に言ってしまうと有珠の本質的な性格は「夢見がちな少女」である。それは奈須氏の過去のコメントから分かる。
「不思議の国のアリス」からつけられた有珠という名前や、その魔術特性を含めてロマンチストであることが細かな所でも描写されている。また奈須氏いわく、有珠は型月作品の中で二つの面で特殊な立ち位置にいるキャラクターだという。
一つ目が「魔術特性」だ。有珠が扱う魔術を簡単に言うと「童話を現実にする魔術」である。しかし、よく考えるとこの魔術特性は型月世界のルールに反している。まず型月世界の魔術・魔法の定義をおさらいすると以下の通りである。
しかし、現在の科学技術を持っても「童話を現実にする」ことは不可能である。作中で見せた意志を持って喋る豚や、コマドリなど有珠の魔術は色々と魔術のルールから逸脱している。設定ミスか? と思われるかもしれないがそうではない。実際にこのことについて奈須氏も触れており、有珠の魔術についてこう語っている。
童話とはその多くが創作であり、創作の世界では時間を経ても”人に再現不可能”な事象がいくつも登場する。しかし型月世界のルールではそういった魔術が扱えないため、その例外として有珠を用意したのだという。
二つ目の面がキャラクター性である。
型月作品は作品の垣根を越えて、似た属性のキャラクターが登場する。例えば、遠坂凛・黒桐鮮花・遠野秋葉だ。このキャラクター達は「勝気なお嬢様属性」を持っているが、その雛型にはまほよの蒼崎青子がある。
しかし、有珠は「まほよ」の中でしか存在出来ないキャラであるという。
このような経緯を経て久遠寺有珠というキャラクターは誕生した。そこから11年後の12月8日、魔法使いの夜フルボイス版が発売される。有珠に”声”がつくまでにどのような物語があったのか。次はそれを見ていこう。
久遠寺有栖とフルボイス
「魔法使いの夜 移植版」の制作が始まったのは2018年である [2]。内容はPC版から変更がなかったため、TYPE-MOONがこだわったのは必然的に”ボイス”であった。奈須氏は同時期に制作が進んでいた「月姫R」と比較して、ボイスをつける際のコンセプトは「アニメではなく邦画のような声を求めて」と発言している。もちろん月姫Rがアニメ、魔法使いの夜が邦画である。この発言から10年近くの時間が過ぎても「まほよ」のコンセプトは当時から変わっていないことが伺える。実際、奈須・武内・こやま氏らで行われたキャスティングの際にも「生身に近い声」が基準とされたり、初収録の際には奈須氏から声優陣の方々に「特にキャラ性を意識せず、自然に演じてください」と声をかけていたという [2]。
そしてこのコンセプトの元、有珠の声優に花澤香菜さんが起用された。20名ほどいた候補者の中で花澤さんが選ばれた理由は2つあったという。それが「オーディション時の印象」と「青子との兼ね合い」である。
こやま氏はオーディション時の花澤さんの演技をこう評している。
さらに有珠より先に決まっていた、青子役の戸松さんとの相性も要因の一つであった。
収録は奈須氏ら立ち合いの元、毎日10:00~18:00までのローテーションで2か月間続いた。「月姫R」が3分の2ほど進行した中で始まった「まほよ」収録を奈須氏はこう振り返っている。
次は花澤さん目線で有珠と収録を見ていこう。
奈須氏のインタビュー内でも「戸松さん、花澤さんはスタジオでもデモテープの声とぴったり合わせてきて、さすがの貫禄でした」と語っている [2] ように、有珠の収録では花澤さんがキャリアの長さを示す形となったようだ。
最後に
奈須氏の学生時代から始まった「魔法使いの夜」は、”消費文化”をテーマにし「映画のように」をコンセプトに据えて、細かな装飾で彩られてきた。この作品をプレイし、久遠寺有珠というキャラクターに出会えたのは僕の人生の中でとても幸運な事だ。
だが、まだ魔法使いの夜は終わらない。劇場版を初めとして、奈須氏がインタビュー内で匂わせる2部、3部。これからまほよがどのような歩みをみせ、その中で有珠がどんな表情を見せてくれるのか今からとても楽しみである。
最後になったが、有珠誕生日おめでとう!
一生笑顔で過ごしてくれ~~~~~~~!!!!!!
参考文献
[1] 4Gamer.net(2012).TYPE-MOONの原点を辿る「魔法使いの夜」インタビュー。奈須きのこ&こやまひろかず&つくりものじ氏の3名に聞く,ノベルゲームの未来と可能性.https://www.4gamer.net/games/115/G011514/20120511075/
[2] ファミ通(2022).https://amzn.to/45YkGyd
[3] 4Gamer.net(2021).今甦る真月譚,新生「月姫R」クリエイターインタビュー。奈須きのこ&BLACK両氏が語る世界の裏側,そしてこれから.https://www.4gamer.net/games/546/G054681/20210919008/
[4] 魔法使いの基礎音律(2012).魔法使いの夜限定特典
[5] fateちゃんねる【ゆっくり型月解説】(2023).【Fate解説】型月世界の「魔法」と「魔術」の設定概要のすべてがこの動画で学べます!!【fgo】【総集編】.https://www.youtube.com/watch?v=3_7jLbmNrAU
[6] TYPE-MOONエース(2022).VOL14.https://amzn.to/3ERL5lx