2023/7/13 サブゼミCA「性同一性障害特例法における性別変更要件に「手術」は必要か」


【記事】

性別を変更するためには生殖能力を失わせる手術が必要である、と定めた「性同一性障害特例法」が違憲であるか、最高裁が審理している。

現在、トランスジェンダーの人が性別を変えるためには、性同一障害と診断された上で、「(1)十八歳以上であること(2)現に婚姻していないこと(3)現に未成年の子がいないこと(4)生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態であること(5)その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。」という5つの要件を満たしている必要がある。
5つの要件のうち、手術に係る要件は(4)と(5)である。

最高裁は2019年には「合憲」と判断したものの、判決を下した裁判官のうちの二人は「裁判官2人は補足意見で「手術を受けるかどうかは本来、自由な意思にゆだねられるもので、違憲の疑いが生じている」指摘している。

そこで今回は、性同一性障害特例法における性別変更要件に「手術」は必要かどうかについて議論を行いたいと思います。私は性別変更要件に「手術」は必要であるという立場から立論しますので、皆さんは性別変更要件に「手術」は不要であるという立場から立論を行なってください。なお、今回は「性同一障害という用語を廃止すべきか」といった議論は射程に含めないこととします。あくまで、「手術」要件の議論にとどめていただけると幸いです。

用語の解説・定義
トランスジェンダー

こころの性とからだの性が一致していない人を指す。性同一性障害とは厳密には異なっており、自らの状態を病気としないために出現したという由来を持っている。
性同一性障害
「からだの性別」(sex)と、本人が自覚する「心の性別」(gender)が一致しないために苦しむ状態。2019年にはWHOによって精神障害の分類から除外され、性別不合として扱われる。
性同一性障害特例法
性同一性障害者のうち特定の要件を満たす者について、家庭裁判所の審判により、法令上の性別の取扱いと、戸籍上の性別記載を変更できるようにする法律。なお、性同一性障害特例法における性別適合手術は、「特例法の要件を満たすために手術をする」のではなく「手術をした人の性別を追認する」という法的な側面を持つ。

Q健康上で手術できない人は?
Aそもそも手術へのハードルが高い。診断を受けた上での手術である。
Q対象は?
Aトランスジェンダーの人は性別を変えられない。性同一障害であると診断されると手術が認められる。
Q.海外はどう?
A.北欧では医学的に診断されてなくても性別を変えられる。日本は多くの段階を踏まないといけない。
Q.性同一障害は障害者手帳を発行されるのか?
A.障害年金の対象ではない。


【意見・論点】


1.手術要件の撤廃はトイレや更衣室における(特に女性に対する)人権侵害を招きかねない
→手術を変更要件から撤廃すると、トイレや更衣室といった身体をあらわにする場面において書類上の性別と著しく齟齬が生じる場合がある。トランスジェンダーの人々の権利が最大限尊重されるべきであるように、その他の人々の権利を侵害する可能性は無視することができない。

Q議論に含めるべきでない
A性善説に基づいている。今まで権利の主張を体で分けていたのに変わると弊害が大きい。少数派の意見も考えるべきである。
Q身近な人からの差別、今までの人間関係に変化が起こる。
A自分の体の性と体が一致していないことに長年悩んでいる、身近な人にすでにカミングアウトしている人が手術を受ける。当事者からの強い要望でこの要件が成立した。

2.手術要件の撤廃は多くの法的な矛盾を生み出す
→手術要件の撤廃は、性同一障害特例法の他の要件にも抵触する。例えば、手術要件を撤廃するのであれば、性同一性障害と診断され、性別を変えた人は、身体的には同性の人と婚姻することが可能となる。一方で、現在の法律上では性同一障害と診断されていない人に関しては、戸籍上同性とされる人同士で婚姻することができなくなるために、両者に著しい法的な不均衡が生じる。さらに、性別変更をする前に子を出産した人は性別を変更できないのに、性別を変更した後であれば子を産むことができる、といった不均衡も生じる。また、戸籍変更後の男性が出産する可能性に関しても、現行法では対処できない上に、社会においても扱いが定かではないといった問題が生じる。
Q結婚、法改正されれば矛盾がなくなる?
A.ある程度解消される。手術要件に複雑な要因が絡んでいる。法律に関しては議論が必要
Q婚姻してから子供が欲しい、戸籍上の性別を変更して子供が欲しいという意思が強いのでは?
A.未成年であればいける、男性が子供を生むにはテクノロジーに限界がある。

3.犯罪防止の観点から手術要件は一種の明確な妥協点であり、その撤廃はかえって差別を助長するのでは
→1であげたように、手術要件を撤廃するのであれば、身体をあらわにする空間においては、手術をせずに性別を変更した人に対して何らかの配慮を行う必要がある。その際には、例えば「戸籍上は女性であるのに、女性用トイレに入ることができない」といった今まで以上の違和感を生み出す可能性がある。現在の「身体的特徴を線引きとして、犯罪防止・ひいては特に女性の人権の保護を行う」という妥協点は、かえって明確に基準を提示するものであると言える。

Q金銭面のハードルが高い、金銭面から手術を受けれる人と受けれない人がでてしまう
A,コストが高いのは、手術を簡単に行わせないため。仕方のないことである。

Q副作用がある。ホルモンバランスによってうつ病になる可能性
A女→男の方が危険性が高い。手術はイレギュラーなものである。手術後のサポートが手厚いから問題ない。
Q手術ミスの可能性があるのでは?
A手術待ちが多い、日本は医療的に遅れている。海外で受ける人が多い。

【反論・再反論】

1.性別適合手術は不妊手術と変わらないのであるから、それを強制する性同一性障害特例法における手術要件は人権侵害である。
→性別適合手術は最大限本人の意思に基づくものである。手術は全額自費である点においても、本人の強い意思に基づいて行われたものであるとする一種のハードルとなっている。性別適合手術は性同一性障害の人が意思に強く要望を出したことによって始まったという経緯がある上に、体に対して強い違和感を解消するために行われる「治療」としての側面がある。また、現行の性同一性障害法においては「手術をした人の性別を追認する」という手術が前提となっている点を考慮しなければならない。以上が、性別適合手術が強制的なものではないとする論拠である。また、性別変更に対して手術の要件の必要性に関してはその他の意見・論点で主張した通りである。

Q結果的に生殖機能を奪っている。法律が整った時は?
A.自分と違う性別で出産を行えるか?違和感があるままでの出産にはハードルが高い。

2. 国際社会では、手術要件の撤廃が主流となっている。日本もそれに追随するべきである。
→日本国内の事情を考慮せず、安易に手術要件を撤廃する危険性を考慮すべき。日本では法制度やハード面での対応が十分に行えておらず、段階的に導入する必要がある。例えば、意見論点の2であげたように、同性婚の問題が解決されないままに手術要件を廃止すれば、より著しい不均衡を生み出しかねない。(なお、「日本国内の事情」に関しては、あえて家族観の崩壊といった議論はしないこととする。)

戸籍を変えなければならない、戸籍上の性別を重視している社会構造を変えるべきである。

【先生からのコメント】

女子トイレを守れと主張する人(保守派)は体の性別を変えてから入れと主張。しかし、体にメスを入れることは人権問題的に難しい。最高裁の判決では原告に対する判決であると強く主張。これは原告のための裁判である。個別の問題で集積することが重要である。

【参考文献】

「性別変更、手術必須は違憲か 最高裁、トランスジェンダーの声聞く弁論へ」朝日新聞、2023年6月28日、朝刊、p.25




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