WRC 2023 Rd.11 Rally Chile BIOBÍO
ちょっと名前が可愛い
ビオビオ、そんな語感になんか可愛いな・・・ヨーグルトみたい。と思ったスペクテイター達は少なくないと思う。ダノンビオってあるし・・・(笑)
ラリーチリは4年ぶりの開催、2019年にWRCに登場し、ヤリスWRCを駆ったタナックが優勝したことを覚えている人も居るだろう。だが、2020年は国内の情勢不安に伴う政治日程との重複によりカレンダーから外れてしまった。
本当であれば、20年シーズン当時はチリ、アルゼンチンと南米2連戦になる予定だった。しかしながらコロナウィルスの影響でカレンダーが大きく狂ったのは皆が知るところだ。
ラリーチリの特徴はウェールズとフィンランドを掛け合わせたようなと形容される。路面は硬く中々掘れない、更に高い速度域でありながら路面にはキャンバーも大きくついており、そう易々と挑戦者たちを完走させてはくれないだろう。
またラリー期間となる9月末~10月しょっぱなというのは、南米ではまだまだ肌寒く、春が近づいてきたぐらい。日本で言う3月ぐらいの感じなので、気温と路面の兼ね合いも前戦アクロポリスとは全く変わってくる。
そしてこのチリが今シーズンのグラベルイベント最終戦となる。長かったようであっという間だったクロアチア以降、ポルトガルからのグラベル7連戦のトリを務めることになる。本ラリーは全16本のSSが設定され、競技区間距離は320.98㎞、総走行距離は1239.43㎞となった。
元王者ここにあり
浮き沈みの激しかったラリーチリ、SS1ではラッピがクラッシュ、キツめの左コーナーにアプローチする際に、イン側のブロックにマシンが乗り上げてしまい大きく転倒。マシンはパネルがバラバラになり割とショッキングな見た目。しかしラッピもヤンネもケガは無かった。
SS3でもタナックの僚友のルーベがコースアウト、どうやらペースノートのコールを聞き間違えたか、コールそのものが間違っていたのか、割と緩めの右コーナーで大きくコースから飛び出し、そのまま横転、ラリーリタイアとなってしまった。
早々にRally1が2台も消えた金曜日を経て、土曜日はタイヤ戦略が各選手の喜怒哀楽を大きく左右した。
もちろん笑ったのはタイヤ選択が当たったタナックで、自身の今季初優勝のスウェデッシュラリー以来の勝利を奪取。追いすがるヒョンデ勢との差を上手くコントロールし、2019年のヤリスWRCで自身が挙げた優勝から4年、再びこのチリで勝鬨を上げた。
終始安定したドライビングと、一度のスピンこそあったもののそこはご愛敬。プーマRally1もトラブルを起こさず、このチリの肌寒い春先を誰よりも速く駆け抜けて見せた。
タナックはこのチリで都合7本のSSでベストタイムを記録し、安定感と速さで週末をリード構築し、後続をほぼ1分以上離す展開に終始した。
最終日は少しばかりペースを抑えていたが、タナックといえばトヨタ時代はロバンペラと同じく、もう走り切れば勝ちという状況でもパワーステージを取りに行っていた。だが彼がここであまりそうした素振りを見せなかったのは、それが出来ないのではなく、プーマRally1を労わってのことだったのかもしれない。
ラリーチリ 2023 最終結果
1位:オイット・タナック/マルティン・ヤルヴェオヤ(フォード)
2位:ティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガ(ヒョンデ)
3位:エルフィン・エバンス/スコット・マーティン(トヨタ)
4位:カッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン(トヨタ)
5位:勝田 貴元/アーロン・ジョンストン(トヨタ)
6位:オリバー・ソルベルグ/エリオット・エドモンドソン(シュコダ) ※WRC2
7位:ガス・グリーンスミス/ヨナス・アンダーソン(シュコダ) ※WRC2
8位:サミ・パヤリ/エンニ・マルコネン(シュコダ) ※WRC2
9位:ヨアン・ロッセル/アルノー・デュナン(PHスポーツ) ※WRC2
10位:ニコライ・グリアジン/コンスタンティン・アレクサンドロフ(シュコダ) ※WRC2
マニュファクチャラーズが決着
マニュファクチャラーズタイトルはドライバーズよりも一足先に早く決着、SS15でスニネンがリタイアしたため、ヒョンデがヌービルしかポイントが持ち帰られなくなった。
条件的にはヌービルがエバンスとロバンペラより上位の2位に居たため、パワーステージでそのどちらかを上回れば阻止は出来たが
スニネンと直前まで2位争いをしていたことが、ヌービルにとっては不利に働いてしまった。
ヒョンデといえばヌービルのために順位を入れ替えるなどが良く見られるので、今回もスニネンが譲るのではと言われていたが
どうやらアビテブール監督は、ドライバーズとマニュファクチャラーズ共にやや望み薄の状況にあって、それを実施しなかったようだ。
今回、SS14までとても調子の良かったスニネンのパフォーマンスについて評価したかったらしく、チームメイト同士の2位争いを許可したのではとも囁かれている。
結果的にはそれがヌービルのタイヤを消耗することに繋がってしまい、スニネンがリタイアする急転直下の流れもあり
ここではポディウムよりも、パワーステージに焦点を当てていたトヨタ勢が躍動。パワーステージを1-2で締めくくりトヨタが3年連続の獲得と通算7度目の戴冠で決定した。
トヨタはこれで通算7回目のマニュファクチャラーズタイトルを獲得、日本の自動車メーカーによる3年連続マニュファクチャラーズタイトル獲得は95年から97年にかけて連覇していたスバル以来だ。
トヨタにとっても、今までは93年から94年の2年連続が最大だったため、記録を更新することになった。
(ドライバーズがロバンペラとエバンスに絞られたため、トヨタの3年連続タイトル総なめが確定している)
マニュファクチャラーズタイトル獲得の総数でも7回となったトヨタはランチア10回、シトロエン8回に続く歴代3位の記録まで上がってきた。
早ければ来年シトロエンに並び、ランチアにタイ記録となるのは2026年、そして単独1位には2027年が最速での到達となる。筆者はトヨタが向こう後4年間は連覇することを願ってやまない。
各チーム其々の週末
◆トヨタガズーレーシングWRT
ついぞケニア以来のトヨタとしての連勝が途切れた。というより、このラリーチリでは土曜日のタイヤ選択で、トヨタ勢は全員フルソフトパッケージを選択。これが大失敗も大失敗だった。
普通であれば、明確なやらかしとして"なにやってんだよもぉー!"って言われるところで、筆者もあーあー、このエントリーでどう扱おうかなー、アクロポリスで完全勝利したのに、打って変ってチリじゃ酷い結果だ。とかって書かなきゃいけないじゃん。と思ってたぐらいだ。
現に、土曜日の午前の終わりに、エバンスが後輪を両方バーストしたと聞いた時は、もうだめだ観るのやめよう、辛っ。ってふて寝したほどだ。
マニュファクチャラーズタイトルについても、完全に次戦持越しだと思っていたし、このチリは良いとこナシじゃん!!!と目に見えて自分が盛り下がっていたのだ。夕飯のメニューも決められないほどテンションダダ下がりである。
だが、日曜日、SS15で事は動いた。先述の通りスニネンまさかのコースオフ、そしてそこから一転してタイトルが決まった。
トヨタはラリーの勝者ではなかったが、紛れもなく"勝者"としてこの週末を締めくくることになった。
"これもまたラリーだ"という言葉を改めて強く感じた言わざるを得ない。
◆MスポーツフォードWRT
スウェーデン以来、半年以上を経てようやくタナックがポディウムの真ん中へ帰ってきた。ここ数戦、マシンの信頼性不足によって初日でいきなり優勝争いから消えることが珍しくなかったフォード。
しかし、ここ南米のチリでようやく、待望の今季2勝目を飾ってみせた。なによりの原動力は19年のチリを制したタナックと、土曜のタイヤ選択を上手く当てたことだろう。
トヨタ勢がソフトフルパッケージで大失速をする中、タナックはハード4本、ソフト2本をチョイス。これが上手く機能・・・もとい他がペースを維持できない中快適にラリーを支配し、結局最終日も後方との差を上手くコントロールし久々の美酒を手中に収めた。
SS3でルーベがリタイアする一幕もあったが、なによりチームとしては後半戦にも1勝を挙げることが出来、ミルナー監督も日曜日の夜のディナーは大変美味しく感じたことと思っていたが………
◆ヒョンデ シェル モービス WRT
思えばその魔物は既にSS1で姿を顕わにしていたのかもしれない。オープニングでいきなりセカンドドライバーのラッピが大クラッシュ。
クルマはバラバラだが、クルーは無事であることがなによりであった。しかし、この週末13pt差をつけられればゲーム終了という中、いきなり3台の内1台が完全にラリーリタイアになったのは痛手であった。
土曜日は、タイヤチョイスで自滅したトヨタを後目に2位~3位を堅持、その勢いのまま日曜日まで進み、マニュファクチャラーズタイトルの望みを何とか繋くかのように見えた。だが日曜日、スニネンが路肩の切り株にマシンを当ててサスを破損、そのまま路肩へ滑り落ちてしまった。
これで2台がノーポイント、完全に後がなくなり、トヨタを抑え込むにはパワーステージでロバンペラかエバンスより上回る必要があった。
だが、ここまでチームオーダーを出しておらず、スニネンとヌービルで競っていたためタイヤをある程度消耗させていたため、ヒョンデ勢にとっては泣きっ面に蜂であったことは言うまでもない。
ポディウムを諦め、パワーステージに最初から狙いをつけていたトヨタ勢をSS16では捕まえることは出来ず、タナックもそのスピードを抑えたため、ヒョンデはSS15以降急転直下で一人負けを喫する週末となった。
ラリーチリのおわりに
【またもや野望叶わず】
土曜日、大チョンボをかましたトヨタを見てきっとヌービルはまだ望みを捨てなかったに違いない。メイクスと違い、ドライバーズタイトルは繰り上げが無いので、下位に沈めばその分ポイントは無くなるからだ。
だが、SS8時点でヌービルの前に居たエバンスが後輪を両方ともバーストさせSS9でヌービルの後ろに回ったのに対して、ロバンペラはタイヤを壊さずにSS9を走り終えた。
ヌービルにとってみれば一つでも順位を上げて、ロバンペラと59pt差以内に詰め寄り、残るターマック2戦で気を吐き、追い詰めることも彼の中にはプランとして立案されていたかもしれない。
だが、その全ては、僚友の最終日リタイアで無に帰した。よりによって競り合ったのは僚友で、ある程度タイヤを使っていたため、路面が硬く中々掃除が終わらないチリの大地で迎えた最終SS。
名実共にパワーステージの鬼であるロバンペラを前にヌービルはタイムを上回ることが出来ず、エバンスにも抜かれ結果的に今年も大願成就とはならないことが決まった。
ベルジャンの呪いという言葉がどうしても筆者の頭を過る。
【ミュンスターの相棒がやらかす】
土曜日の朝、今回フォードからRally1デビューとなったミュンスターは青ざめた。それは何故か。
ラリーを行う上で、決して欠かすことができないペースノートを相棒のルイス・ルーカがホテルの部屋に忘れてきたというとんでもない自体に見舞われたためだ。
2人のコーディネーターを務める関係者により、ペースノートは回収されたが2人の手元にはすぐに届けられないため、ペースノートの全ページを写真撮影しルーカの携帯電話に送られた。
なんとも"情報処理端末機器が普及した今"だからこその荒業だが、携帯電話の中の写真を見ながらリーディングするルーカはさぞ読みにくかったに違いない。
ペースノートを忘れ、ルーカが携帯電話を凝視しながらコールをする羽目になったことについて、ミュンスターはインタビューに笑いながら答えていたが、隣に座るルーカ本人はただただ気まずそうであった。
【タナックがヒョンデに復帰】
このチリを制したタナックだが、ラリー後すぐに来期のシートについて噂が流れ始め、それは水曜日には現実のものとなった。
昨シーズンの22年に、ヒョンデの体制的な問題と自身の取り扱いについて不満を持ったタナックは古巣のMスポーツ フォードへと復帰した。
だが、今季はスウェデッシュラリーで早々に移籍後初勝利を挙げたが、その後は車両トラブルに見舞われることが多く、タナックにとってみれば失望だったかもしれない。だが、このチリで2勝目を挙げ、MスポーツにはタナックがいてこそWRCが盛り上がるな。なんて筆者が思っていたらこれだ。
とても驚いたし、やはり本人としては勝ってナンボなので、再合流の決断を下したのだろう。
既に公式にもタナック復帰のことは発表されており、上記のRALLY PLUSの記事にも引用の通り、タナックのコメントが翻訳されている。
タナック本人は前向きなコメントを出しているが、Mスポーツの首領、ウィルソンはタナックに感謝を述べると同時に残念でもあると失望を隠していない。
だが、タナックがこうして戻り、ヌービルとのフル参戦でダブルエース体制に戻るという事は、ラッピの扱いが変わることを意味する。
ラッピの契約がどのような物か分からないが、2年契約のフル参戦を結んでいたのであれば、これは契約中にラッピが3rdドライバーとして扱われ、あまつさえイベントによっては3人目を差し換えるのがヒョンデの常套手段故に、イベントによってはラッピが居ないという年に再びなり得る。
専ら海外では、ソルドの引退説を唱える人もいるし、ラッピのMスポーツへのトレードがあるんじゃ?と唱える人も見かけた。その全てが今のところは噂にしかなり得ないため、後々の公式発表を待つしかない。
次戦は3か国を渡るセントラルヨーロッパ
次戦ラリーチリは10月26日~10月29日に行われ、チェコ、オーストリア、ドイツを跨ぐ非常にユニークなラリーとなる。
セントラルヨーロッパ戦について簡単な紹介を添えるべきなのだが、タナックの電撃移籍の件であんまり気に効いた文章が出てこない。
日本のSNSなどでは、タナックの"落ち着きない"移籍癖に失望したとコメントする人をちょくちょく見かける。
契約ありきの世界なので、思い通りにならなければ環境を変えるのはそうなのだが、義理と人情を重視しがちな日本社会においてはちょっと歓迎されないのもまたわかる。
勝田選手との仲良しエピソードもあって、筆者はタナックに失望したとは言いたくないが、複雑なのは確かで、もう後1年はMスポーツをなんとか盛り立てて欲しかったなと思う………
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