【富士山お中道を歩いて自然観察】番外編 シラビソとオオシラビソ
富士山には、シラビソ、オオシラビソ、コメツガ、トウヒ、カラマツなど、マツ科の針葉樹が複数種類が分布しています。
今回は、マツ科のうち、モミ属の2種(シラビソとオオシラビソ)について、書籍からの情報を中心にご紹介します。
外見的な違い
外見的にはよく似ているので見分けに迷うことがありますが、見慣れてくると葉の並びや樹皮が違うのでなんとなく分かります。
枝から漂う柑橘系の香りの違いで分かる!という人もいますが、私には難しいです。
シラビソ
シラビソは富士山でよく見る針葉樹の一つで、お中道の図鑑でも取り上げています。
オオシラビソ
分子系統的には・・・
シラビソとオオシラビソは同じモミ属ですが、実は似て非なるものです。
陶山・津村( 2013)によると、シラビソは東アジアに広がる北方針葉樹の一つですが、オオシラビソは遠く離れた北米に分布するモミの仲間に分類され、両種は系統的には大きく異なっています。
ちなみに、北海道に分布するトドマツはシラビソと極めて近縁関係にあるそうです。
確かにトドマツとシラビソの外見はそっくりです。
オオシラビソの別名がアオモリトドマツなのは、"青森で見られるトドマツ” ということでしょうか。
分布の違い
太平洋側のシラビソ、日本海側のオオシラビソ
さて、富士山での亜高山帯林の主体はシラビソであり、オオシラビソではありません。他に、奥秩父や南アルプス、八ヶ岳でもシラビソが優勢です。
つまり太平洋側に位置する山々ではシラビソ(一部ではツガ属のコメツガも)が亜高山帯林の主体です。
一方のオオシラビソは、北アルプス北部や苗場山などの日本海側の山々や、東北地方の蔵王山や森吉山、八幡平、八甲田山などで亜高山帯林の主体となります。
なぜ分布域が異なるのか
亜高山帯林が太平洋側ではシラビソ林、日本海側ではオオシラビソ林になるのはなぜでしょうか?
その理由は、雪と関係があるようです。
「雪山の生態学 東北の山と森から」の第6章では、以下のように書かれています(アオモリトドマツはオオシラビソの別名)。
この章では、シラビソと同じように太平洋側の亜高山帯林の主体となるコメツガが、なぜ日本海側では少なくなるのかについて検討しています。
早池峰山での調査の結果、多雪環境下でのコメツガは、発芽後数年以内に消滅してしまうことが分かりました。それと比べてオオシラビソは高いレベルで実生密度を保っていました。
こうなる理由を、大量の雪解け水による地表の水浸し環境が長く続くことが、コメツガ実生の枯死に繋がるのでは、と述べています。
そして、
とまとめています。
コメツガでの研究ではありますが、多雪環境下での実生の定着阻害がシラビソでも言えるのかもしれません。
現在の分布状況と関連して、シラビソやオオシラビソなどの亜高山帯林の成立史も大変興味深いので、次回にまとめてみます。
そして太平洋側と日本海側の違いは、落葉広葉樹であるブナでも面白い研究がありますので、こちらもご紹介できたらと思います。
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引用・出典
清水建美 編・解説, 木原浩 写真「山渓ハンディ図鑑8 高山に咲く花」山と渓谷社, 2002
陶山 佳久・津村 義彦「日本産針葉樹の遺伝的多様性」地球環境 Vol.18 No.2 127-136 (2013)
梶本卓也・大丸裕武・杉田久志 編「雪山の生態学 東北の山と森から」東海大出版, 2002
シラビソについてはこちらでもたびたび登場します。ぜひご覧ください↓