【富士山お中道の植物観察日記・番外編】 梅雨の合間の御殿場登山口
積雪期の御殿場登山口の様子は、以前に紹介しましたが、雪が融けて植物が生育を始めると、どうなるのでしょう?
(2024年2月の様子はこちら↓)
御殿場口側の低い森林限界
ふだんご紹介している場所(山梨県側にある富士スバルラインの終点の富士吉田口周辺)の森林限界は標高2,200 m付近です。
しかし、御殿場口周辺の森林限界は1,400 mと低い標高にあります。
航空写真では森林は緑色に、森林になっていない斜面(火山荒原)は赤黒く見えます。
山頂を中心にぐるりと囲っていた森林帯が、御殿場口新5合目のあたりでえぐれたように低くなっています。
これは1707年の宝永山の噴火によって植生が破壊されたためで、噴出物の砂礫に広く覆われた火山荒原が今でも広がっています。
御殿場新5合目口では、1,400 mという低い標高で森林限界を見ることができます。
火山荒原との境目では、カラマツが先駆樹種として林を縁取っています。
一方、沢状の地形では、常習的に起こるスラッシュ雪崩の通り道となっているため、オンタデとイタドリの小さな株だけが散在しています。
沢地形の両岸は、比較的安定しているため、イタドリの株が大分大きく成長している様子がみえます。
オンタデとイタドリの観察
火山荒原では、先駆植物のオンタデとイタドリを容易にみることができます。
オンタデの分布は、お中道に比べて標高が800m~900mほど低くなります。
ここでのオンタデの生育開始は1か月~1か月半ほど早まります。
前回(6月12日)レポートしたお中道のオンタデはまだ開花前でしたが、こちらのオンタデはすでに花が満開でした。
イタドリもすでに開花を始めていました。
イタドリを中心とした遷移
御殿場口は、山頂から遮るものなく砂礫地が続いていて、地盤が不安定なため、イタドリが先駆植物の主役を担っています。
御殿場口の遷移は、イタドリの成長過程そのものです。順に追ってご紹介しましょう。
まず、火山荒原にはイタドリが定着します。
よーく探して、発芽したばかりの双葉を見つけることができました。
その隣には、高さ3㎝ほど、差し渡し7~8㎝の小さなイタドリがありました。
おそらく発芽後5~10年はたっているはずです。火山荒原は栄養が少ないので成長が大変遅いのです。
イタドリは何年もかけて、少しずつ成長していきます。
やがて、パッチと呼ばれる数メートルに及ぶ群落に成長します。
火山噴出物(スコリアという)はガラガラと崩れやすく、そのままではカラマツは定着できません。
しかし、イタドリのパッチによって地盤が安定するので、カラマツが生育できるようになります。
さらにイタドリのパッチは大きくなり、やがて他のパッチと融合して、カラマツ林となっていきます。
カラマツ林の中に他の先駆的な落葉樹も入ってきます。
林ができると、イタドリは役目を終え消えていきます(おそらく樹木の下で被陰されるためでしょう)。
お中道でも同じイタドリを中心とした遷移を観察できます。
(こちらもご覧ください↓)
多様性のある落葉樹林
お中道の森林限界は亜高山帯にあるため、樹種の多様性は低いですが、ここは山地帯にあるため、落葉樹林の多様性は高く、ミズナラ、カエデ類など多くの樹種をみることができます。
御殿場口では、これから秋にかけて、多くの花々が見られます。
いよいよ今年の登山シーズンが始まります。
山頂を目指すだけでなく、お中道や御殿場口のハイキングコースもぜひお楽しみください。
前回(6月お中道)のようすはこちら↓
富士山お中道を歩いて自然観察」の連載はこちら↓
「富士山お中道の生物図鑑」の連載はこちら↓