住所地へのふるさと納税で財源増殖バグは起きうるのか?

※2022年末に作成した記事を一部改稿しました。

時が流れるのは早いもので今年も年末に差し掛かった。思えばやりたいことはいくつもあったはずだが、年末になると年末特有の雑務が降りかかってきて日々の生活で手一杯になってしまう。年末の雑務と言えば源泉徴収の書類を見て、ふるさと納税のことを思い出す人も多いだろう。

ふるさと納税の制度が始まったのは2008年だが、自治体の返礼品競争が過熱するにしたがって年々利用者が増えている状況にある。住民税と所得税に相当する額+自己負担2000円を任意の自治体に寄付すれば住所地に支払うその分の住民税・所得税が控除され、なおかつ寄付先の自治体からは"返礼品"がもらえる。つまり実質的な負担額2000円で様々な地域の特産品が得られるというスキームは魅力的なものである。
しかし、税収が流出することになる主に都市部の自治体からは反発の声も大きく、税の本旨から外れるこの制度を利用して自分の住む自治体を弱らせることで「結局回りまわって自分が損をするのでは?」と疑問を持つ人も少なくないはずだ。では、自分の住む自治体に損をさせずにふるさと納税の制度をハックする方法はないものか?ということで調べてみたのが今回の記事である。(筆者は財政を専門としている訳ではないので認識に誤りがある可能性があることを付記していく)

ふるさと納税の影響

納税者にとってのふるさと納税の概要は総務省のサイトで解説されているので割愛し、自治体にとっての視点を加えてふるさと納税はどんな制度であるかを見ていく。

総務省ふるさと納税ポータルサイト

一般的にはA市に住むaさんがB市に寄付をした場合、B市は返礼品をaさんに送る。B市は寄付額-返礼品相当額の増収となり、A市は翌年の税収からその寄付分相当額が減収となるという理解をされているが、実際は地方交付税交付団体については減収分の75%が国から交付金として上乗せされる。
つまり、A市が地方交付税交付団体であった場合はふるさと納税による実質的な減収分はその4分の1で済むが、不交付団体であれば全額減収となる。
住所地の自治体が交付団体であるかそうでないかでふるさと納税による影響はかなり大きな差が生まれることになる。

地方交付税制度とは

では、交付金とはどういうもので、どの自治体が不交付団体かを見ていく必要がある。
地方交付税という税を払ったことが無いと訝しむ人もいるかもしれないが、地方交付税は国が徴収する所得税・法人税・酒税などの一定の割合を地方自治体に分配する制度のことで、消費税や所得税のような税目のことではない。
これは財政が貧しい自治体でも一定の水準の行政サービスを行えるように国が地方の財源を一括して徴収して基準に基づいて各自治体に配分するという趣旨のものとなっている。

さて、その基準を紐解いていくと「基準財政需要額」「基準財政収入額」「財政力指数」といった用語が出てくる。これはそれぞれ「標準的な規模の自治体の標準的なサービスに必要な予算」「標準的な規模の自治体の標準的な税収入額の75%」「基準財政収入額を基準財政需要額で割って算出した指数」である。
なお、基準財政収入額の「75%」という割合が気になるが、これは全額を標準的なサービスに充てると計算すると自治体の独自の政策を行う経費が無くなることから4分の1は確保しておくという意図がある。先ほどのふるさと納税の補填が75%という根拠もこれによるものである。

この「財政力指数」が1.0を下回る場合、その自治体は他所と同じような税目・税率・徴収率等で収入を得ても他所と同じような行政サービスを行うために最低限必要な予算(基準財政需要額)を賄えないと判定され、その不足分の交付を受けることとができる。
逆に言うと、標準的な収入のある自治体は財政力指数は1.0となり、国からの交付金は交付されない。それでも国が地方に代わって徴収する所得税・法人税・酒税等の地方交付税分は返ってこないので言わば取られ損となる。

どこが不交付団体なのか

便利なもので不動産会社がランキング形式で財政力指数を掲載している。実際の交付税の算定は過去3か年の平均で行われることや景気の変動によって順位が入れ替わることも多々あるので参考程度だが、数値が1.0を超えている自治体の少なさに気づいただろうか。例年、首都圏、中京圏の自治体を中心に関西圏の数自治体と地方の原発立地自治体を加えた100に満たない程度の市町村だけが「自分の収入だけで自分の出費を賄うことができる」と判定されている。ランキングのソースは以下のページである。

出典:総務省 令和4年度 不交付団体の状況

なお、都道府県の1というのは東京都のことであり、都内の23特別区は東京都としてカウントされているのですべて不交付団体ということになる。お住いの自治体はどうだっただろうか。

ふるさと納税のスキーム

地方交付税の制度と実態を簡単に見てきた。都市と地方の財源の不均衡を是正し、財源確保に向けて努力を行う地域に手厚く措置をするというふるさと納税の趣旨からして、援助すべき地方の財政力の低い自治体からも流出しただけ損という設計にしてしまうと水を入れるバケツに穴を開けているようなことになる。意図は分かるがツギハギのような奇妙な制度設計と言えよう。ここまでの解説をまとめると以下のような流れになる。

A市(住所地)が交付団体の場合

  1. A市に住むaさんがB市に寄付を行う(B市増収)

  2. B市がaさんにお礼の品を送付(B市一部減収)

  3. A市がaさんの税を控除(A市減収)

  4. 国がaさんのB市への寄付額の75%を交付税に上乗せ(A市75%補填)

→A市25%の減収

A市(住所地)が不交付団体の場合

  1. A市に住むaさんがB市に寄付を行う(B市増収)

  2. B市がaさんにお礼の品を送付(B市一部減収)

  3. A市がaさんの税を控除(A市減収)

  4. 国がaさんのB市への寄付額の75%をA市への交付税に上乗せ(A市75%補填)←無し

→A市全額減収

住所地の自治体に寄付すれば自治体が丸儲け?

ふるさと納税は自分の住所地の自治体に行った場合お礼の品を受け取ることができない。多くのふるさと納税ユーザーにとっては返礼品ばかりが気になるが、ここで逆転の発想をしてみよう。住所地の自治体が交付団体で国から75%の補填を受けられるなら、住所地に寄付をすることで自治体が、流出していない住民税の75%の補填を受けることができる、つまり自己負担ゼロで自分の町の財政を支援できるのではないか。

大手ふるさと納税ポータルサイトのふるさとチョイスのQ&Aを確認しているとこのような記載があった。

Q.住んでいる自治体に寄付してもよいか

A.住んでいる自治体への寄付について住民票登録のある自治体以外であれば、お礼の品を希望できます。「住民税決定通知書」に記載されている納税先(「都府県税」と「市区町村税」)は、お礼の品を希望してのふるさと納税はできません。
※感謝状等、経済的な所得と見なされないものは希望できる場合もございます。

例:「東京都東京市」に住民票がある場合
NG:「東京都庁」と「東京市」(住民票のある都道府県と市区町村のため不可)
OK:「東京都東京村」等(「東京市」以外の市区町村に納税しているため可能)
なお住民票登録地へふるさと納税した場合でも、上限額内であれば控除対象となります。

※上限額を超えた寄付も確定申告することで、一部控除が可能な場合があります。

また、住民票登録地へふるさと納税することで、寄付金の使い道を指定できます。各自治体ページの「お礼の品不要の寄付をする」ボタンよりお手続きいただけます。

しかし、自治体により居住及び近隣住民からの寄付を受入れず、先へ進めない設定をしている場合もあります。また、申し込みできた場合でも、お礼の品を受け取れないこともございます。詳細は、寄付希望先自治体へお問い合わせください。

ふるさと納税の収入側の処理としては、一般財源(通常の税収やらなんやら)とは区別して特別の目的にのみ使用される基金に繰り入れられるのが通常であり、ここに入れてしまえば交付税交付金の算定から収入分が減らされることは無い。
一方、ふるさと納税による流出が起きた自治体側では、税制上の寄付金控除という制度の中で個人住民税や所得税の計算の中で控除、つまり納付者にとっての減額が行われる。寄付金控除は本来赤十字などの社会貢献活動を行う団体への寄付を促進するための制度で、ふるさと納税はその中に内包されている。
この控除の合計額が交付税交付金の算定根拠に使用され、補填の根拠となっている。
つまり、寄付金控除による住民税の減収分のうち住民による居住地への寄付については交付税による補填から省かれる処理がされていなければ、住所地への寄付による財源増殖バグが起きうるということになる。
この矛盾だらけのツギハギ制度でそんなマイナーなパッチが当てられているかは甚だ疑問である。
しかし総務省のサイトを探し回ったが残念ながら明文による記載は無かった。
ここの確かなところは有識者による見解を伺いたい。

バグを起こすメリット

まあなぜ自治体を儲けさせる必要があるのかというと特にないが、なぜこんなことを考えているかというと歪な制度で全体で見ると誰も得しない競争を地方に強いている総務省が気に食わないという理由である。
そんな反感が無い人も先の引用にある通り寄付金の使い道を指定できるというのは魅力と言えるのではないだろうか。税として納付した場合、自治体が使い道を自由に決定することになる。しかし、この方法であれば子育て、教育、福祉、防災、インフラ整備などの自治体が設けている大きな区分内にはなるが使い道を指定することが可能となる。
ちなみに、加えて言うとポータルサイトではクレジットカードでの寄付ができるので普通に源泉徴収される場合よりポイント還元も期待できる

まとめ

そもそも、一般にふるさと納税と呼んでいるこの制度の大元は社会の様々な団体への善意の寄付を推進するための寄付金控除という制度である。返礼品という勧奨策に注目が集まって本来の目的が忘れられているが、返礼品目当てで何の思い入れも無い自治体に寄付を行うより地域貢献と総務省への嫌がらせという思惑の方がまだ健全ではないだろうか。

ふるさと納税は不正が明らかになる度にパッチが当てられ、年々キメラのような制度になってきている。こうした裏技による嫌がらせを考えてもいずれ対策されてしまうだろう。
しかし都市の税収を不当に巻き上げ、地方を返礼品競争に引きずり込んで誰も幸せにしていない制度へ一石を投じることになるのは確かではないだろうか。

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