甘やかされたいときに行く場所
日々の生活で疲れを感じたとき、だれかに思いっきり甘やかされたい気分のとき、わたしは美容室に行きたくなる。
スタッフが笑顔で出迎える入口と、丁寧なシャンプーからはじまり最後はきれいに巻かれる髪の毛、頭と肩のマッサージまでして、帰りはわざわざ外まで見送ってくれるという一連の流れはまるでお姫様だ。
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美容室ってとても贅沢な場所だと思う。
毎月カットとカラーをすれば1万円近くかかるし、パーマやトリートメントを追加したら2万円を超えるサロンも多く、安いとは言えない。
髪の毛なんてちょっとがんばれば自分で切れるし、セルフカラー用の商品は近所のドラッグストアで簡単に買える。
実際何度か自分で髪の毛を切ったことがあるし、染めたこともある。
それでもわざわざ美容室に行くのは、美容師さんに思いっきり甘やかしてもらうためだ。
美容師さんはどこの国にも存在するけど、とりわけ日本で勉強した美容師さんの技術とサービスはほかの国に比べると全然違うように感じる。
けた違いに施術が丁寧だし、これぞ「おもてなし」といった具合に所々にホスピタリティが溢れている。
アメリカとオーストラリアに住んでいたときに行った現地の美容室はシャンプーがガシガシと力強い上に、ガーゼやタオルを顔にふわりと乗せてくれないのでたまにシャンプー中に美容師さんと目が合うと恥ずかしいし、最後に髪を巻いてくれるところも少なかった。
日本の美容室で感じる「甘やかされている感」はどこにもない。
美容室で行われる工程の中でも、とくにシャンプーは最高である。
普段自分では絶対にできない丁寧な洗い方と思わず寝てしまうくらい気持ちいい指圧、ふんわりと届くシャンプー剤のいい香りはまさに楽園。
どこかのビーチで太陽をさんさんと浴びながらのんびり寝そべっているときと同じくらいの幸福と癒しを感じることができる。
リゾート帰りのような気分でシャンプーを終えると、ゆっくりと起こされるシートと背中を支えるように添えられる美容師さんの手も甘やかされてるなあと実感できてとてもいい。
席に案内されるとき、シャンプー台から移動するとき、貴重品の受け渡しから帰りの見送りまで、髪を切るという工程以外の場所でいちいち気を使って丁寧に対応してくれる。
美容室からの帰りは、だからいつもご機嫌だ。
美容師さんにたっぷり甘やかされたうえに髪の毛はきれいになって、歩くたびにふわりといい香りがする。
マッサージをしてもらえるからいつも感じている肩こりが解消されて全身が軽くなる。
顔見知りの美容師さんなら気軽に日々の悩み事を話したりできるし、仕事の愚痴なんかも笑顔で聞いてくれたりする。
最後のセットが終わったら「いい感じ!」「かわいくなった!」とたくさん褒めてくれる。
髪も体も、心さえも整えてくれる美容室は本当に偉大だ。
わたしはセルフカットでもセルフカラーでもなく、美容室に通う。
思いっきり甘やかされるために。