見出し画像

STB特集(1): STBオーディオのススメ

Amazon Musicがハイレゾ対応して以降、ハイレゾ音源をストリーミング配信するサービスが増えていますが、これらの中には併せてイマーシブ・オーディオやミュージック・ビデオも提供するサービスも多く存在します。

音楽ストリーミング・コンテンツをホーム・オーディオで高音質再生する手段としては、ROONHEOSなどに対応したネットワーク・オーディオ・プレイヤーが一般的ですが、イマーシブ・オーディオやビデオも楽しもうとすると、STB(セットトップ・ボックス)も無視できません。むしろ今後のオーディオはSTBが牽引していくのではないかとさえ思います。

今回は、ハイレゾや空間オーディオを提供している音楽配信サービスを中心に、"STBオーディオ"の現状についてご紹介します。


STB(セットトップ・ボックス)とは

STB(セットトップ・ボックス)とは、テレビに接続することで動画などのコンテンツを表示させる端末のことで、ケーブルテレビや衛星放送などを視聴するために、以前から存在していました。

本記事では、STBのうち、インターネットに接続して、各種配信サービスを視聴可能なスマート・デバイスを取り扱っており、Apple TVAndroid TV(その新バージョンである Google TV を含む)、Fire TVがその代表格と言えます。

各社から発売されているSTB

STBはTVへの接続が前提のため、現行機種では必ずHDMI出力端子が搭載されています。HDMIは仕様上、192kHz/24bit 7.1chまでのPCM音声のほか、イマーシブ・オーディオの伝送にも対応していますが、最近ではそれらに対応したモデルも増えてきました。STBはもはや幅広いフォーマットに対応したネットワーク・オーディオ・トランスポートであると言えます。

STBの接続方法

STBの再生能力は接続相手によって制限されてしまいます。オーディオを重視するのであれば、STBをオーディオ・スペックが限定的なTVに接続するのではなく、AVアンプに直接接続することをおすすめします。

HDMI推奨接続例

主要サービス(1): Amazon Music Unlimited

ここからは "STBオーディオ" を愉しむ上で欠かせないサービスをご紹介していきますが、その筆頭が「Amazon Music Unlimited」です。

「Amazon Music」メイン画面

国内では初となる定額制ハイレゾ・ストリーミング・サービス「Amazon Music HD」が開始したのが2019年9月。2021年6月には標準音質の配信サービス「Amazon Music Unlimited」と統合され、ロッシーなOPUS(SD)からロスレス(HD)、ハイレゾ(Ultra HD)、空間オーディオまで、追加料金なしで聴き放題となりました(現在の価格は、非プライム会員で月額1,080円)。

配信フォーマット

ロスレスとハイレゾはともにステレオのFLACフォーマットで配信されており、最高品質は192kHz/24bit。楽曲数はロスレスが1億曲以上、ハイレゾが700万曲以上とされています。空間オーディオとしては、Dolby Atmos (Dolby Digital Plus, 最大768kbps)と360 Reality Audio (以下360RA) の2フォーマットがサポートされており、合わせて数千曲が提供されています。

2023年3月以前は、動画(ミュージック・ビデオ)も大量に配信されていましたが、現在では、オリジナル・ビデオ・コンテンツ(音声はAAC)が僅かに残されているのみで、その点では寂しい状況となってしまいました。

対応デバイス

STB再生環境としては、Amazon Fire TVのほか、Android TVやApple TV用にも再生アプリが提供されていますが、ハイレゾや空間オーディオの再生がサポートされているのはFire TV版だけなので注意が必要です。Android TVやApple TVでは、Ultra HDコンテンツも48kHz/16bitで出力されてしまいます。

推奨設定

Fire TV版Amazon Musicアプリでは、右上の👤(設定)から

音質 > Ultra HDを有効にする : on
空間オーディオ > 空間オーディオを有効にする : on

「Amazon Music (Fire TV版)」設定画面

と設定することで、空間オーディオやUltra HD版が存在する楽曲では、それらがHD版よりも優先して再生されるようになります。尚、空間オーディオとUltra HDが両方とも存在する場合は、空間オーディオ版が優先されます。また、Dolby Atmosと360RAでは、Dolby Atmosが優先される仕様のようです。

楽曲再生画面では、

…(その他のオプション) > i (音質) > ストリーミング情報を有効にする : on

とすることで、再生画面左下に常に「楽曲の最高音質」「現在の音質」「端末の性能」が表示されるようになるのでおすすめです。

再生画面左下に表示された「ストリーミング情報」

HDMI出力仕様

Amazon MusicのSTBアプリは、上記のようにハイレゾや空間オーディオにも対応した強力なものですが、1つ大きな欠点を抱えています。設定で「Ultra HDを有効にする」と、ステレオ・コンテンツ再生時のHDMIの出力サンプルレートが192kHzに固定され、48kHzや96kHzコンテンツも全て192kHzにアップコンバートされてしまいます。オーディオ的には、HDMIのサンプルレートはコンテンツに一致するように切り替わるのが理想的で、この点は改善が望まれます。

空間オーディオ再生時は、Dolby Digital Plusビットストリーム(またはDolby MAT)やMPEG-Hビットストリームで出力されますので、対応アンプとHDMI接続することで、マルチスピーカーでの再生が可能となります。

主要サービス(2): Apple Music

Appleの定額制音楽ストリーミング・サービス「Apple Music」がスタートしたのは2015年6月。Amazonから遅れること2年弱、2021年6月には、追加料金なしで「ロスレス」「ハイレゾロスレス」「空間オーディオ」にも対応しました。(現在の価格は月額1,080円)

「Apple Music」メイン画面

配信フォーマット

Apple Musicは、通常のAAC (256kbps) に加え、以下のフォーマットで配信されています。

  • ロスレス(Apple Lossless, 44.1kHz/16bit〜48kHz/24bit, ステレオ)

  • ハイレゾロスレス(Apple Lossless, 最大192kHz/24bit, ステレオ)

  • 空間オーディオ(Dolby Atmos / DD+JOC, 最大768kbps)

ミュージック・ビデオも大量に配信されており、その点ではAmazon Music Unlimitedよりも優れています。ただし、ビデオの音声は相変わらず AAC (256kbps) で配信されているようで、ここは改善の余地がありそうです。

対応デバイスと推奨設定

Appleのビデオ・ストリーミング・サービスである「Apple TV+」は、Apple TVのほかFire TVやAndroid TVなどにも再生アプリが提供されていますが、なぜかApple MusicはApple TV用のSTBアプリしか提供されていません

Apple TVを以下のように設定することで、ロスレスや空間オーディオを再生することが可能ですが、残念ながらApple TVのApple Musicアプリでハイレゾロスレス再生することはできないようです。

設定 > アプリ > オーディオ
・ドルビーアトモス : 自動
・オーディオの品質 : ロスレス

「Apple Music」設定画面

注目サービス: Artist Connection

米Streamsoft社が提供する動画&音楽共有サービス。契約しているコンテンツホルダー ("Studio") が、自由にコンテンツをアップロードし、コンテンツごとに公開またはプライベートで共有することができます。Live Extremeが国外で初めて提携した配信プラットフォームでもあり、一般的な有償チケット配信にも利用可能です。

Artist Connectionはもともと、制作中の音源のアーティスト・チェック (approval) 用に作られたシステムなので、コンテンツの殆どがプライベートで配信されていますが、無償公開されているコンテンツも多く存在します。例えば、New Auro社はAURO-3Dのデモ Blu-ray Disc収録曲を全曲無償公開しています

公開コンテンツの再生方法

STB再生アプリはAndroid TV版のみが配布されていますが、Artist Connectionアカウントがなくても、以下の手順で公開コンテンツを再生することが可能です。

(1) Android TV版Artist Connectionアプリを起動して「使ってみる」を選択する
(2) ログイン画面左下に6桁の数字が表示されていることを確認する

ログイン画面(Android TV)

(3) PCのWebブラウザから https://music.artistconnection.net/pair-device を開く
(4) ログイン画面が表示されるので「Continue As Guest」として続行する

再生ポータルサイトのログイン画面(PC)

(5) PINコード入力画面が表示されるので、2.で表示されている数字を入力する

PINコード入力画面(PC)

(6) Android TVアプリ画面に "Studio" として "Artist Connection" が表示されるので選択する
(7) 全ての無償公開コンテンツが表示されるので、再生したいコンテンツを選択する

Artist Connection (Android TV版) メイン画面

対応フォーマット

Artist ConnectionのAndroid TVアプリは、端末の性能に応じて、FLAC(ハイレゾを含む)、Dolby Atmos(DD+JOC, Dolby TrueHD)、AURO-3D(Auro Codec)の再生ができることが確認されています。尚、ハイレゾ再生時は、HDMIの出力サンプルレートがコンテンツに合わせて自動的に切り替わるので安心です(対応端末のみ)。

Artist Connectionは360RAの配信にも対応しており、Sonyの "Studio" には360RAのサンプル・コンテンツが公開されています。ただし、STBアプリでは 360RA (MPEG-H 3D Audio) のデコードにもパススルー出力にも対応していないので注意が必要です。

そのほかの音楽配信サービス

Netflix、Amazon Prime Video、U-NextなどDolby Atmosで配信している動画サービスはもはや珍しくありません。ここでは上記以外で、ロスレス/ハイレゾ、あるいはDolby Atmos以外の空間オーディオで配信している音楽配信サービスをいくつかご紹介します。

Digital Concert Hall

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のコンテンツのみを扱う動画配信サービス。2008年より15年以上サービスが提供されていますが、2021年6月に「ハイレゾ (48kHz/24bit)」と「イマーシブ・オーディオ (Dolby Atmos)」の配信に対応しました。

「Digital Concert Hall」メイン画面

現時点での配信フォーマットは以下の通りです。

スタンダード音声: AAC (ステレオ, 48kHz, 320kbps)
ハイレゾ音声: FLAC (ステレオ, 48kHz/24bit)
イマーシブ・オーディオ: Dolby Atmos (7.1.4ch, DD+JOC, 1024kbps)
HDビデオ: 1920x1080, H.264/265, 最大4,500kbps
4Kビデオ: 3840x2160, H.265, HDR (HLG), 最大17,500kbps

配信フォーマット(Digital Concert Hallのウェブサイトより)

インタビュー記事によると、当初は96kHz/24bit配信も計画されていたようですが、今のところまだ実現していません。また、ハイレゾ音声やイマーシブ・オーディオはオンデマンド・コンテンツでしか提供されておらず、ライブは全てAAC音声で配信されているようです。

STB再生アプリは、Apple TV, Android TV, Fire TVの全てで提供されており、デバイスによる配信フォーマットの差異は無さそうです。尚、ハイレゾ音声やイマーシブ・オーディオで再生したい場合は、再生画面の⚙️アイコンから、所望のフォーマットを選択します。

再生画面から音質を設定

月額利用料は€16.90(2,710円)で、800公演以上のアーカイブやライブ配信が視聴可能となっています。また、一部無料コンテンツもあるので、サブスクを開始しなくても、Digital Concert Hallのクオリティを確認することができます。

STAGE+

世界でもっとも長い歴史を持つクラシック音楽のレコードレーベル「ドイツ・グラモフォン」によるオンライン配信サービス。日本では2023年4月よりスタートし、同社が所有するコンサートのアーカイブ映像や最新アルバムの試聴はもちろん、ライブのリアルタイム配信も行われています。

「STAGE+」メイン画面

「ハイレゾやDolby Atmos配信に対応」ということで話題になりましたが、どうやらこちらもハイレゾは48kHz/24bitまで。しかも映像なしの「オーディオ・アルバム」にのみ採用されているようです。

映像コンテンツ
映像: フルHD (1920×1080) または 4K (3840×2160)
音声: AAC (ステレオ, 最高320kbps) または Dolby Atmos (768kbps)

オーディオ・アルバム
・AAC (ステレオ, 320kbps)
・FLAC (ステレオ, 48kHz/24bit または 44.1kHz/16bit)
・Dolby Atmos (768kbps)

配信フォーマット(STAGE+のWebサイトより)

Dolby Atmos出力を有効にするためには、事前にアプリ上部の⚙️アイコンから設定画面に入り、

アプリ設定画面(Apple TV版)

音質 > ドルビーアトモス : オン

に設定しておく必要があります。再生中は、再生画面下部の「オーディオ設定」ボタンから、所望のフォーマットを選択可能です。

オーディオ設定画面(Apple TV版)

STB再生アプリは、Apple TV, Android TV, Fire TVの全てで提供されており、デバイスによる配信フォーマットの差異は無さそうです。

月額1,990円で、1000枚以上のオーディオ・アルバム、数百本の映像アーカイブに加え、毎週実施されるライブ配信が視聴可能となっています。また、動画コンテンツのみ、無償のものが存在するので、サブスクを開始しなくても、STAGE+のクオリティを確認することができます。

360 Reality Audio Live

360RA配信に特化したソニーのオンラインサービス(アプリの開発元は、Artist Connectionと同様Streamsoft社)。Amazon Music Unlimitedでの360RA配信がオーディオのみなのに対し、こちらは映像付きコンテンツを配信しているのが特長です。

「360 Reality Audio Live」メイン画面

このサービスは、宇多田ヒカルの生配信イベント「40代はいろいろ♫」(2023年1月23日) に合わせてローンチされ、現在でも羊文学、さかいゆうなど10以上のオリジナル・コンテンツ(有償/無償)が公開されています。

もともとiPhoneとAndroidスマホ専用のサービスだったため、ヘッドホン再生が基本でしたが、2024年春にはFire TVアプリもリリースされています。Artist Connectionと異なり、MPEG-H 3DAのパススルーに対応しているため、対応のAVアンプやサウンドバーがあれば、360RAをスピーカーでも楽しめるようになりました。

まとめ

オーディオ視点から考えると、STB再生アプリは、以下の条件を満たしているのが理想的です。

  • 主要STBの全て(Apple TV, Android TV, Fire TV)に対応していること

  • PCMのビットパーフェクト再生に対応していること

  • ハイレゾ(96kHz/24bit以上)にも対応していること

  • HDMIの出力サンプルレートがコンテンツのサンプルレートに切り替わること

  • 空間オーディオとして、Dolby Atmosはもちろん、より高音質なAURO-3Dにも対応していること

STBオーディオ環境は、以前よりかなり充実してきましたが、上記を全て満たすサービスやアプリはなかなかありません。そこでコルグが開発したのが「Live Extreme Experience for TV」アプリです。

次回は「Live Extreme Experience for TV」の機能や対応コーデック、独自の音質改善技術についてご紹介します。


いいなと思ったら応援しよう!