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第1試合「VS 香り」

 納得いかねえなー、「森の香り」。
 よく芳香剤とかで「森の香り」ってあるけど、ちょっと漠然としすぎやしないか? だいたいひとえに「森」って言っても色んな要素があるわけだよ。葉っぱ、土、木の実、動物、水…。森の匂いの要素なんて挙げだすとキリがない。森で匂いを嗅いだ時に、
「うわ〜森の匂いだ〜」
とはならないだろ! それに季節によっても森の匂いは全然違うし、晴れの日と雨の日でも全然違うからな。

 でも世の中の諸君らは芳香剤の「森の香り」を嗅いで
「森の香り癒されるわ〜」
とか言ってるわけだろう? 森に行ったことがない自分の子どもが、その芳香剤の匂いを嗅いで、
「うわぁ森ってこんな匂いなんだね! 僕、森に行ってみたいなぁ、お父さん、僕、森に行ってみたい!」
なんて言い出した日には、俺だったら震えるね。

 あと、香りで言えば「スプリングフレッシュ」。もうわからん。何の匂いだよ。「スプリング」なんて、「森」の比じゃないくらい匂い要素あるのに。
 そして、「初摘みオレンジの香り」。…誰が初摘んでんねん! そりゃあその人にとっては「初摘み」だったかもしれないけど、それは前日たまたま体調悪かったからその日が「初摘み」の日になっただけじゃないのか? 隣の畑のじいさんは前日に初摘んでたというのに。
 というか「初摘み」ってなんだよ。年に1回みかん狩りに行く人は、毎年そこで初摘んでるわけか? それなら俺だって、昨日町内の清掃活動で近所の雑草を初摘んだばっかりだぞ。よく考えたら「初摘み」って、寒い冬を乗り越えて暖かくなってきた春に実ってきたものを摘んだら、それはもう「スプリングフレッシュ」だろ!

 納得いかねえなー、香り。
 てことで、実際に「森の香り」を扱ってる会社がどういう風に説明してるのかちょっと調べてみたんだよ。

「森林浴をしているような爽やかな香りです」
…いや、もうわかんねえよ! じゃあ、そもそもなんで「森の香り」は癒し効果があるように感じるのか調べてみよう。…なになに?

「森林の清々しく爽快な効果は、樹木が発散する『フィトンチッド』という芳香がもたらすもの。心身を深いリラクゼーションに導く効果がある」

 どうもヒノキの香りとかで癒されるのは、この「フィトンチッド」によるものらしいぞ。…「フィトンチッド」? そんなの商品に書いてあるのを見たことあるか?
「芳香剤、どれにしようかしら」
「おいお前、こっちの商品にはフィトンチッドが入ってるらしいぞ」
「あらあなた、じゃあそっちにしましょう」
…どんな夫婦だよ! 「フィトンチッド配合」って書いてないよな。いやむしろ、森の癒し効果が「フィトンチッド」によるものだと実証されてるならメーカーも書けばいいのに。

 と思ってもっと調べてみたらなんと、
「芳香剤のほとんどは人工香料で、メーカーのイメージで作られた香り」
らしいぞ。…「フィトンチッド」入ってないんかい!

 結局わかったことは、要は「イメージ」ということだな。「森の香り」は、森そのものの匂いじゃなくて、森を想像できる匂い。正直、俺は森を想像すると「土」の匂いをイメージするけど、商業的な考え方をすると「森の香り」にするしかないのかなあ。
 諸君らも「森」をちょっと想像してみてくれ。生い茂る木々、その間から差し込む太陽の光。木々の葉っぱには前日の雨の水滴がついていて、その雫が落ちる時に、葉っぱがクイッと跳ねる。踏みしめるとギュッギュッと音を立てる土の上に、なんかよくわからない木の実が落ちている。その木の実を、あら、どこからか現れたリスが持っていくぞ。野生のリスがいるなんて、この森は本当に「自然」なんだな。立て看板とかないもんな。「熊が出ます」そんな森じゃなくてよかった。
 ああ、「森の香り」って… なんの香りだよ! 結局なんの香りなんだよ本当に。リスがいるかどうかで匂い変わるぞ絶対。そんな漠然としたネーミングで俺を惑わせるのはやめてくれ!

 てことで、今後企業は「森の香り」をやめ、次のような名前にすること。

 「もう4月ということもあって少し暖かい春のある晴れた日の午前8時、深緑の葉が生い茂る木々の間から爽やかな春の日差しが差し込み、前日の雨で少し柔らかくなった土の上を深呼吸をしながら歩く時の香り(※リスはいませんでした)

 この「VS 香り」は、まだ「ヨコヤリブラザーズの水差し論」というコーナーができる前に、ブラザーJがボソッと漏らしていた愚痴(彼らで言うところの「ヨコヤリ」)を拾って、「じゃあフリーペーパーのコーナーにしよう!」と飛躍したものです。
 確かにJの指摘するように、世の中には一体なんなのかよくわからない名称の「香り」が存在します。我々LiV編集部が一番最初に議論したのは「森の香り」でした。一体「森の香り」とはなんなのか。人によって「森」のイメージは違うんじゃないか…など、ああでもないこうでもないと宗像市のとあるダイニングバーで話していました。はたから見たら「本当にしょうもないことで盛り上がってるなこの人たち」という感じだったに違いありません。でも我々は真剣でした。
 どうにも解決しないので、そのバーのオーナーに話を振ったくらいです。そこでオーナーの口から出てきたのが文中にも登場した「フィトンチッド」でした。「あぁなるほどね、つまりフィトンチッドが入っていれば、森(というか樹木)特有の香りが再現できるわけね」と、喉に引っかかっていた魚の骨が取れたような気分でした。
 で、いざ調べてみると、芳香剤には「フィトンチッド」が入っていないと!「いやいやどういうことだよ!結局森の香りってなんなんだよ!」と、議論が振り出しに戻ったような感じでしたが、実はまぁこういう展開の方が水差し論的にはオイシかったりするので、ちょっと「しめしめ…」と思っていたのです。おわり。

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