「やわらかな時間」へようこそ!
今朝。おひさまが昇りはじめるか、どうかの頃。寒い駅のホームで、晴れ着姿の女性をみかけました。
スマートフォンをながめながら、ほんのりとほほ笑んでいる彼女。
これから、友人と待ち合わせ? それとも、家族からのお祝いが届いた?
駅のホームは、まだ暗く。風が通り抜けると、身体がぶるりと震えます。けれど、風に揺れる晴れ着の色の暖かなこと。嬉しげなこと。
今日は成人式。彼女は振り袖で式典に向かうところなのでしょう。
ホームに入ってきた電車に目をやると、顔を上げた彼女と目が合った気がしました。思わず会釈を返しました。彼女も小さく頭を下げ、電車に乗り込んでいきました。
そっと扉を閉じた電車は、まだ眠たげな街並みを滑るように走り去っていきました。
二十歳の門出。かつて「元服(げんぷく)」と呼ばれた通過儀礼は、十二、三歳で行われていたそうです。烏帽子をかぶり、着物を改め、大人の名前をいただく。そうして少年は大人の仲間入りを果たしました。時代とともに成人の年齢は変わりましたが、人が大人になるということは、いつの時代も特別な意味を持つのかもしれません。
そんなことを考えながら、この『やわらかな時間』という小さな場所をはじめることにしました。
私は「不思議を集める」仕事をしています。風のにおいを感じたり、夜の空を見上げたり、芽吹くみどりの予兆を知ったり。それは、日常の中にある小さな物語を見つけ出す仕事です。朝の通勤電車の中で聞こえてくる会話の断片、市場に並ぶ野菜たちの表情、雨上がりの路地裏で見かけた猫の後ろ姿。そのどれもが、誰かの物語の一部なのです。
例えば「今朝の窓辺で」では、目覚めたばかりの街の表情を切り取ります。「駅の階段物語」には、行き交う人々の足音に隠された物語を描きます。「路地裏の秘密」では、普段は気にも留めない路地裏の発見、苔むした石段の隅に咲く名もない花や、古いポストからこぼれ落ちた色褪せた手紙からはじまる気づきの物語を。
二十四節気や七十二候を意識しながら、季節の移ろいも大切に描いていきたいと思います。
今は「小寒」。部屋の中にいても、ストーブに火がついていても、手先が冷たくなる季節。けれども、厳しい寒さの中にあって、確かな春の気配が少しずつ忍び寄る季節です。梅のつぼみが固く閉じたまま、その時を待っているように。
このサイトが、皆さんの日常に寄り添う小さな物語集になれば嬉しく思います。急いで過ぎていく時間の中で、ふと立ち止まって周りを見渡すきっかけとなり、あなたの「感じる力」を取り戻すお手伝いができれば、嬉し。
さて、駅のホームで見送った晴れ着姿の彼女は、今頃どんな表情で成人式に臨んでいるでしょうか。誰かの人生の節目に、こうして偶然に立ち会えることも、また不思議な縁なのかもしれません。
これから『やわらかな時間』をどうぞよろしくお願いいたします。
月白堂