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アルバイトを満了した話

 アルバイトを始めた時は「一年で辞めよう」と思っていた。下手に長く働いて、より重たい責任を背負うのがめんどくさかった。それとあと、バイト先の人と距離を縮めようという気もなかった。更衣室の出入り口で先輩が立って待ってたりするのをすごく嫌に思ってたし、家の方向が同じだったりしたら「何話したらいいんだよ」と思っていた。「自分、家こっちなんで」と言うタイミングも掴めなくて家を通り過ぎたりしたし、「そっちだと〇〇さんと家近いね」なんて言われた日には「バイト同士仲良い雰囲気なんだ…1年耐えれるかな」と思ってた。

 始めて1年経った段階では他のバイトの人のプロフィールをほとんど知らないままで、誰ともLINEを交換することなくいれて正直「100点だな」と思ってた。誰とも距離を縮めていない自信があった。
 それからも結局「バイト辞めてぇ」と言い出せなくて続けていたら、バイトを仕切る役をやることになった。クソ真面目に働いてたからだ思う。

 バイトを始めたかった理由は、当時読んでたとあるエッセイに影響されて「人に必要とされたかった」からだった。
 バイトの募集があって、自分が面接に行って、採用され、自分がバイトに行くと、時給が支払われる。当時の時給が1013円だったから1013円分だけ働けば良かったけど、それ以上の働きを自分はしないとここにいていい理由がないなと思って、なるべく喋らないでいて、素早く仕事をするのに徹していた。

 それゆえのクソ真面目が、結局“より重たい責任を背負う”に繋がってしまった。バイトを仕切る役をするにあたって先輩に「バイトの人とお喋りってした方がいいですかね?」と聞いたら「絶対した方がいい」と言われ、無理やり“雑談する人”になってみた。上手く会話できたなって日はほとんどなかったし「あれ言わなきゃ良かった」「この話できたな」ばっかりだったけど、バイトを辞めて社会人目前の今ちゃんと名残惜しいので会話し続けて良かったなと思います。

 大学の近くでアルバイトをしていたため電話で呼びつけられればすぐ行けた。「いつも急にありがとうね」なんて言われても「全然全然、暇なんで」と言ってけむに巻いてたけど、これも必要とされてる感のためだけに、利己のために行っていた。「40分前でも呼んだら来る人」でいないと自分がバイトにいていい理由がない。

 大学4年になってさらに暇になって余計にバイトに行った。別にシフト通りにバイトに行くだけでヒーローみたいに感謝されてしまって、「暇なんで」「稼ぎたいんで」とか言ってヘラヘラしてたけど、「必要とされてる感」に浸ってました。「今日来れたりする?」って電話で言われたくてしょうがなかったです。


 バイト辞めるまでの数ヶ月でバイト先の人とご飯に色々行ったけど、自分が誘う側の時は凄く緊張したし下手だったし最後まで誘うか迷ったし誘わないまであると思ってたけど、個人的にはどれも誘って良かったなと思ってます。

 3月のシフトを見て一応「この日がこの人と最後の日か」みたいなのは確認したんですけど、別に「今日最後っすね」みたいな雑談はしなくていいやと思ってました。だからなんだよって話だろうなと思って。でもいざその日になると「今日先輩と最後ですよね」みたいに割と言われて、その自分の薄情さに自分で引きました。

 餞別の品を自分なんかにくれた人もいてくださって、その時に自分が照れてしまってあまり自分が喋ってなくて、もっと日頃の感謝をひっくるめて喋るべきだったなと、もう今後に活かすことのできない反省をしています。

 バイトのグループラインに送った最後の挨拶に書いたことですけど、全員、この先も健康でいて、いい感じに、この世のどこかで生きててください。
 本当は個別に感謝を述べに行っても良かったんですけど、それはできませんでしたね。

 全員どこかで生きててくだされば本望です。
 バイト始めた時はこうなると微塵も思ってませんでした。


#403  アルバイトを満了した話

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